500文字の心臓

トップ > タイトル競作 > 作品一覧 > 第13回:駄神


短さは蝶だ。短さは未来だ。

これ久美子だから話すのよ。
目覚めるとスリムだったの。
信じる者は救われるのに、半信半疑だったから
右半身だけ8頭身。
あっコレ話半分だからね。



 それは微かな地響きからはじまった。
「近づいてきます。時速20キロ」
「首都をめざしているものと思われます」
 地球防衛軍は活気づいていた。防衛軍が一応設置されて以来、はじめての活躍なのだ。
 人々も異常に気づきはじめていた。地響きが足音だとはっきりし、皆が不安に右往左往している時、それは人々の前に姿を現した。
「うーむ。なんというか…」
「少し…ダイエットの必要がありますかね」
 そんな素直な感想も、老いた巫女の言葉にかき消された。「山が怒ったのじゃ。海が怒ったのじゃ。自分勝手な人間どもに、自然が、神が、お怒りになったのじゃ」
 そのわりには破壊するものを選んでいる様子はなかった。人工物だろうが鎮守の杜だろうが家だろうが道だろうが、かまわず踏みつぶしていく。一直線に進むので、避難を終えた人々に被害はなかったが。
「速度が少し上がったようです」
ダシン ダシン ダシン ダシン ダシン
 足音も高く都心のビル群に近づくと、怪獣はガラスの壁面に自分の姿を映した。後ろ姿も確認し、なんだかうっとりしているようだった。
 政府は、威信のためにも、国土を破壊したものに重厚な名を付けようと協議中だ。しかし、人々の間では、それの名はもはや決まっている。



私達がこんなにも真剣に探している、
生きる意味とは一体なんだろうか?
恭子は、ひとり呟いた。

巨大なホールに500台並べられた、
パソコンの一つが、恭子の仕事場のすべてだった。

彼氏とは昨夜別れたばかり、
陽子には、たった今メールで食事を断られたところだった。

『今夜は返さないよ・』
恭子のデスクに山のような書類が積み上げられた。

田中課長は、セクハラデブ。ちっとも面白くないダジャレ!まったくこうやって、いつも恭子の金曜日は潰されていくのだった。

神様なんていないのよね結局…
あぁ私の生きる意味は…

時計の針が12時を回った。
終電なくなるまえに帰らなくては…

すると突然、背後の棚にのっていた、書類の山がくずれた。

恭子は振り向き、そこに人影をみた。
その影は、低い声で、しかしハッキリと恭子に話しかけた。

『神様が平等だと思うなよ、俺だって、違う神様になりたかったんだよ。』

恭子にはどうでもいい事だった。人のことにかまっている場合ではなかった。

終電に乗らなくては…
このまま終わってしまうわけにはいかなかった。



ある時は、街の通りの奥にある自動販売機の脇の、空き缶入れの物陰に。
ある時は、ビルとビルとの空間にある配管の隙間に。
誰にも気付かれず、じっと潜んでいる。

科学汚染物質と汚泥にまみれている。
行動を起こそうとはしない。
下界の人々の病を見つめているだけ。

通行人が、唾を吐きかけて行く。
酔っ払いが、小便をひっかけて行く。
天上の国に、またひとつ花が咲く。

 美しい音楽
 あふれる光 

ふと誰かが、その存在に気付いたけれど、
あえなく、現代の闇に誘われて行ってしまった。



昔むかし、まだ人々が妖の怪物に怯えていたころ。(いまでもそうだが)
天には空を駆ける馬がいました。その姿の美しさに見るものは魔法の糸に釣られた目の玉を離すことが出来ませんでした。
 そんな世界の中、妖怪退治に生の灯火を照らす若者がいました。
若者は妖怪を退治した勲章を傷に残し、最後の大物に狙いを定めていました。
 自らの受信機を頼りに旅を続けて行く末歳、自家電池も切れかかるその時、目にはあの馬が映りました。若者も魔法の餌食になりました。そして身動きのとれない他人のような体にあの馬は近付き、言葉を伝えてきました。
≪お前を殺したとて、所詮”一殺多生”牛は牛づれ馬は馬づれだ≫
 若者は膝間付き、問い掛けました。
「私が世のためと思い、自らの誇りとして来た事は人々にとって何の価値も無く、又尊敬に値する事でもない、ただの自己満足だったのか」若者の灯火は煙が立つ一歩手前でありました。
 その若者の最後を見届けた小さなハツカネズミはあの馬のことをこう言いました。
「あの馬は妖怪でもなく、はたまた神の化身でもない。ただの太った馬だった」と。



日本には古来、千代万の神がいて、最近ではボーナスの神様が人気が高い。
しかし、私についているのはうおのめの神様なので、歩くたびにその存在を示し、どうだ、どうだと問いかけられるがまったくもって嬉しくない。



ソコハカトナシノミコトを奥歯でグッと噛んだら薄荷の香りが拡がった。ナンダカコナッポイネノミコトは口の中に入って上顎ににちゃにちゃ踊っている。ハニクッツイテトレナイノミコトとイロガドギツイケドダイジョウブカナノミコトは本日売切れ。メロンアジノクセニスコシアブラッコイノミコトは壺に納まって昵としたまま、赤い祠がいんねりと開くのを待っている。そこに「よう兄貴」と二階に声を掛けながらやってきたのはヨッチャンノスヅケノミコトであった。あたりいちめんに卑近な匂いが拡がり、赤い祠の奥でグビリと液体の鳴る音がする。昨日、その奥に吸い込まれていったのはタダノイロツキサトウミズノミコトだったが、いまだ参道がうっすら赤く染まっているのは駄神の駄神らしいところでチクロノアマミ岳の噴火の時は多くの神々が泣きながら「ソレデハナイソレデハナイ」とかすれた声を発していたが、シロップデクチガベタベタニナルノミコトは「邑」と叫んでその噴火口に身を投げ、三日三夜ののちヤタイノリンゴアメテラスオオミカミとなってカタヌキハウマクイカヌノミコトへ剣を与えた。それを祝ってアンガイツマミニモナルワネノミコトが宴を張ったのが懐かしい。



 足を組み、その上に右肘をおいて頬杖をついている。
 もう長い間ずうっとこの姿勢のままだ。
 傍から見れば微笑んでいるかのような穏やかな表情に見えるかもしれない。
 いやいや、ただ何も考えずぼーっとしているわけではない。そう見えるかもしれないが、実は脳をフル回転させて思索に耽っているのだ。
 神や仏は現世の人々を救うのに一生懸命だけれど、僕は来る日に向けてその方法を考えに考え抜いている。
 五十六億七千万年にはまだ遠い。
 でもその日に向けて。
『オン マイタレイヤ ソワカ!!』



 心の中で懺悔を繰り返しながら、踏みつける前にもう一度「あの方」の顔をちらりと見た。
「あの方」は私を悲しそうに、だが恨めしげに、そして静かに睨み上げていたのであった。

 私は意を決し、その「銅板」に利き足を踏みだし、そして乗せていった。
・・・足裏に思った以上にひやりとした感触が伝わってきた。

 それが私が「神」を捨てた瞬間であった。



神はつくることができる。

私は千代紙を買ってくると、
5枚に1枚くらいはそのつくり方の指示が
紙に書いてあるという千代紙に出くわした。
これはツイている。
さっそく指示に沿ってつくり始める。

「破線を山に折る。そしたら今度は谷に折る。ひっくり返して
対角線を二度折る。」

と、ここまではついて行けたのであるが、次の指示には

「神は無限に折ることを望んでられる」

と書いてあって、私はそんなのめんどくさいな〜と思って、
どうせ小さくすればいいんでしょ? それなら…と、
ミシンの上のハサミでザックリと切ると、一瞬、
GYAAAAと悲鳴ともつかぬ声が聞こえた気がした。
天啓に違いない! 私は神に見込まれたんだわ。



1985年最強の軍団がいた。
ハンサムボーイを先頭に迎え、青い目の怪物が3番手に座り、
若き大砲が掃除を担当。そしてミスターと呼ばれし男がその中心を任されていた。
彼らは戦い続けた。敵を震え上がらせるその力はついに巨大な敵を倒し、その地域を熱狂の渦に巻き込んでいった。
しかし、その渦が大きすぎた故に彼らの栄光も一瞬で吸い込まれていった。
あれから数十年、嘗ての面影を見た者はいない。
あれは夢だったのかと嘆く者さえいない。
子供達の目を輝かせることもない。
でも、僕らはあきらめていない。
(信じているよ。)
もう一度見せてくれ、あの最強の縦縞軍団を。



神は人が創りあげた架空の存在でしかなかった
しかし、これからは違う
個人が実在する神を創れるようになるのだ

開発途上進化無限大のロボットを神にしよう
最初はよちよち歩きの神から始める
聖なる服を着せ、神の振る舞いを身につけさせる
電子頭脳は最新最高のものを用意しよう
数十年もすれば人間の頭脳を超えるだろう

なんの邪気もない、会うだけで心が清められる
言葉を発すれば、いかなる人をも感化させる
すべてを見通し、啓示を与え、奇跡を起こす
駄神はいつの日か、真実の神となるのだ



この世界を作った神って奴は、よっぽど悪意が有ったか、それともよっぽど能無しだったか、どっちかだね。それはこの世界のできをみれば、一目瞭然だ。
(このような言葉をどこかで読みました。どこで読んだか思い出せません。ご存知の方、いらっしゃいましたらご一報ください。  創造主)



 囓るととろーりチョコレートクリームがとけだす、ぼくの大好きなチョコレートクッキー。お母さんに隠れて引き出しのなかからこっそりひと袋。端っこ破いて取り出して、最初はクッキーだけをそろーりひと囓り。それから大きな口を開けて。
 あぐ。囓るととろーり。チョコレートクリームといっしょに。
 小さな人が流れ出してきた。白い服と白いひげを、チョコレート色に汚して。
 神さまだ。ぼくは慌てて目を閉じて祈った。お菓子の神さま、お願い、お母さんが毎日ぼくにチョコレートクッキーをおやつに出すようにしてくださいお願いします神さま。
 目を開けると、神さまはまだ流れ出す途中。腹の真ん中がぱっくり割れている。ぼくの歯形だ。見る間に神さまの半分はぺしっと床に落ちた。
 ぼくはため息をついて、神さまの下半身をクッキーといっしょに飲み込んだ。たぶんぼくはかってにクッキーを食べた罰で、明日から3日間、おやつ抜きだ。
 神は死んだ。ぼくはつぶやいて、床におちたチョコレートクリームをティッシュで拭った。



 常に『私がどうにかしなくては』と云っている同期に「よし任せた」と肩に手を乗せている。



 帰神すると誰も居ない家は暗く、閑散とした空気は寒々しい。気侭な、鴎神とした生活を送っているのだから当神とはいえ、手探りで灯のswitchを捜すの程いやあな時間はないと思う。何気ない瞬間、ふと乎神してしまう自分に気付く事もある。これもなかなかに侘神しいものだ。
 家に入ると先ず台所へ向かい手を洗うのが慣神となっている。水に両手を浸しながら一日を反芻すると殆どの場合、憮神としてしまい、その気が静まるまでまで手を洗う。自分でも駄神だと思うものの止められないでいる。長い時は数時間にも及び水を流し続ける。
 コンビニで買って来た弁当を、最近は美味しいと思う様なって来、自分でも驚神する。妻に先神されてからもう十二年になる。それからは貯金と年金の与神で独り生きて来たのだ。女中を多く抱えた良家で育った彼は、男子厨房に入らず、そのままの家庭に育てられ料理が出来ない。炊事などは女がやるのが惟神だと思っているので、例え家に自分しか居なくとも自分で料理をしようと考えるだけでinferiority complexが刺激され、また老いから来る一神さにaccording toし、それを頑として許さない。一人暮らしには広すぎる一戸建から今のマンションへ遷神する際に殆どの料理道具は処分してしまってもいた。故に食事はコンビニなどで購神して来るか外神するかしかない。
 どうしてこうなんだろう。そう思うのは手を洗っている時だけだ。他の時には出来るだけそうしたsentimentalismを避神がってしまっている。彼は暈神とテレビを観て集中すると云う事がない。チャンネルはすぐ廻神してしまう。



人間がこの世に誕生してから今日に至るまで、
子孫繁栄というDNAに組み込まれた本能の礎を、
いつしか『SEX』という代名詞に置き換えて欲望のスポーツと化し、
愛情に飢えた子供達を創り出している。
子供達は成長していく段階で満たされない物を埋める為に、手の届く物すべてをテトリスの如く組み込んでいく。そして之に失敗した時、自己は破壊し犯罪へと走らせる。

「私は悲しい」

人間はまた、『エゴ』で作り出した宗教を武器に仲間を増やすため土地を奪い合い大量殺人を繰り返している。

「私は悲しい。だが、人間が好きだ」だからこの様な感情が生まれる。
一層の事嫌いになれたなら、この世から抹消する事が出来るのに。
人間共よ私を神などと崇めないでくれ、私は神ではない——。
「私は駄神だ」



 村では、昭和の初期まで荷役の安全を祈り、馬に道祖神を舐めさせる風習があった。道は行き交う人馬で賑わい、道祖神は馬の舌に削られ少しずつ小さくなっていった。
 時は流れ、馬は過去のものとなった。かつての道祖神は奇妙な輪郭を今に伝え、現在では夫婦和合の神として信仰されている。