500文字の心臓

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短さは蝶だ。短さは未来だ。

やや内角を狙いえぐり込むように打つべし

 どもども、峯岸です。
 同一タイトルでの競作という事で始めた「500文字の心臓」ですが今回、初の自由題はどの位の投稿があるものかと不安もありましたが、杞憂に終わりました。予想を越える作品が集まりまして、嬉しい限りです。

 さて初めに、どうやって選考をしているかを御説明します。
 投稿フォームから送られた作品は、まずその回の選者ではない人(今回はタカスギさん)へ送られます。投稿の締切後、その人から作者名を覗いた作品の一覧がその回の選者(今回は峯岸)に送られます。そして選考が済んだら、選考の結果と作者名付きの作品の一覧が管理人の峯岸へ送られ、峯岸がアップします。
 ですから基本的に選者といえど、作品が発表されるまで作者名が判らないようになっています。誰が作者かという事で評価が左右されないようにとの配慮です。

 今回、初の自由題競作という事で、どういう作品を出せば良いのか、皆さん悩んでいる風な印象を受けました。ボクシングでいえば、今回はジャブで様子を見ながら距離を測っているような感じでしょうか。
 作品としては、ショートショートの様なオチに頼っている作品や、短編小説のあらすじの様な作品、何かを説明しているだけの様な作品、思わせぶりな表現の曖昧な作品も幾つか見受けられました。そういう作品が一概に駄目かというと、そうは思いませんが、この「500文字の心臓」では短い文章が出来ること、短い文章だからこそ出来ることを峯岸は目指したいと考えています。
 ジャブの後に強烈なストレートが来る事を、身構えつつも期待してます。

 それでは、次回の自由題も賑々しく参りましょう。
 ちなみに次回の選者は現在、日本ホラー大賞の最終選考に残っている松本楽志さんです。

選者:峯岸 



掲載作品への評

ひつじの春 : よもぎ

> 除夜の鐘を数えていたら、ひつじがごぉんと夢枕に

 今年の干支、羊をモチーフにしたかわいらしい作品。羊が形を変えながら、来る年を祝福してくれている様です。
 おひさまが割れる部分が何ともおめでたくて、楽しい。



綾 : 大鴨居ひよこ

> 頬を思い切りひっぱたいたら、丁度咥えていた団子の串が

 攻撃はすべて自分に跳ね返ってくる。この作品では、そうした場面がスラップスティックな過剰さで描かれていて、思わずにやりとさせられてしまいました。



共振 : 春都

>  生徒を殴って、家に帰らせた。30分後、

 タイトルと本文との距離感が、作品のシュールさを更に際立たせているのでしょうか。説明に流されそうな処も、上手く抑制されています。



夢相見 : 庵 之雲

>  壁越しに父母のいさかいの声が聞こえてきます。

 その内側でとりとめなく進行していく夢の内容に、夢相見の言葉が覆い被さっていてマトリョーシカさながら、入れ子構造になっている作品。ナンセンスに味があります。
 ただタイトルには一考の余地があります。夢相を見るという事が、一般的に行われている精神分析や夢判断とどう違うのかが判らず、ちょっと衒った言葉を遣いたいだけな風に取れてしまいました。勿体無い。



郵便 : 春都

>  手紙は真夜中に配達される。人に読まれてはいけないからだ。

 闇と言うのは根源的な恐怖を人に与えるのでしょうか。緊張感のある描写で、人でないものと決して内容を知る事のない手紙が立体的に浮び上がってきます。



掲載されていない作品への評

遭遇

イメージは面白いのですが、描写がいささか説明的というか、冗長な感じを受けました。掲載にしようか迷いましたが、今回は見送り。



 神を否定した男が結局は自分が神として崇められる、という作品なのですが、こうした逆転をオチとした作品は余りに多く描かれすぎていて、既読感が拭えませんでした。



ハッピバースデイ

 駄洒落がいけないという訳ではありませんが、駄洒落だけで魅力的な作品を書くのは難しいと思います。今回逆選を決めるなら、これ。



次の一手は

 政治に対する考えを書いた作品ですが、それだけだけだと単なる意見文であって、直接的に描かれてしまうと諷刺としても弱くなってしまうのでは。作品に何がしかのテーマを持たせるなら、それを説明するだけではなくて、テーマに沿った表現を探してみても良いと思います。



伴侶

 思わせぶりな表現が多く、曖昧になっています。曖昧であるのと、説明しきらないという事は違うと思うんですよね。