500文字の心臓

トップ > 自由題競作 > 作品一覧 > 第14回:松本楽志選


短さは蝶だ。短さは未来だ。

誤作動 作者:佐藤あんじゅ

 木で作られた人形のおもちゃだった。ある日、真夜中にむくっと起き上がる。一人でとことこと歩き出す。部屋を抜け、台所へ行ってキッチン台へよじ登る。月の明かりが照らしている。ぼくはベッドの上で薄目を開け、その様子を見ていた。
 ベッドを抜け出し、忍び足であとを追う。それはキッチンの扉を開き、包丁を抜き出している。捕まえようとするが、逃げ足が速い。どこへ隠れたのだろう。おもちゃの汽車に乗っていた。シュッシュポッポ。
 それはぼくの踝くらいの身長であるにもかかわらず、包丁を楽々と両手で挟み前に抱える。妹たちの部屋にするりと入り込む。ベッドに登ると、妹を刺し、弟を刺した。さらに隣の書斎からマッチを持ち出し、カーテンに火をつける。家は燃えた。その炎は赤かった。家全体に広がった。だがぼくは燃えなかった。
 薄暗い中でぼくは一人、夢から目覚めていた。体を起こすと、こんなはずじゃなかったと落胆し首を横に振る。再び、呪文を唱えるように繰り返し青い海と白い砂浜が広がる世界について思い浮かべると、ベッドの上に身を沈めた。



うつろな視線 作者:雪雪

目覚めると私の胸の上で、私の生首が私を見下ろしている。
とっさに頭に手をやると、ぱちんと両手を拍ってしまう。