1st Match / 桃色涙 |
おう、生きてやがった。 |
部活から帰ってきたら誰もいなくて、ソファの上にカバンを投げ出し窓の近くに寝転がった。西の空。イチゴミルク色の雲。水色の空はソーダ水みたいで。部屋の中は刻々と暗くなっていく。いつも鼻歌まじりに夕食を作っている母がいない。 |
2nd Match / 指紋と薬 |
目的を告げると合言葉を訊かれる。「凍った案山子に頬張らせた鬼灯」ゆっくり答える。続いて両手を開いて見せるよう言われる。両手を差し出すなら塗れた氷の如く何ら模様の無い指だ。いつの間に指紋が剥がされたのだろう。面を喰らっているとその手に茶色い小瓶が載せられる。液体の入った、口のない小瓶。中の服み方は知る必要がないと言われる。 |
ザイン博士は著書でこう述べている。「二人は出逢ったのかどうかさえ、定かではないが、あらゆる二人の痕跡――こんにち犯罪という幻想を欠いた分野にばかり援用される指紋検出技術を、情緒的に行ったことによる副作用――により、この二人をある時点で、運命的に巡り逢ったと見なすことに成功した」 |
3rd Match / ぴりちゃん |
ココナツフレークをまぶしたライスケーキはほんのりレモンの味がする。まん丸い揚げドーナツは口の中でほこっと崩れて甘く香り立つ。 |
ぴりちゃんはある日突然、グラニュー島の王宮に呼ばれた。 |
4th Match / オールディーズ |
人達は物を壊れやすく造るがモニュメントとして篤実に造ったものは別。このクレーターの底にある奏楽柱もいまだに正常に動作する。マニュアル不要。コントローラウイルスに空気感染しすぐに操作法を発病できる。私は脳裏に浮かぶバッハのアイコンを眉間に廻し、三度瞬く。音楽が流れ出す。 |
いま月兎の長い耳を揺らしているのは、ようやっと旅を終えた冥王星の歌声。 |