雲海に抱かれたとある島に、ふたつの国が存在していた。
その国には無数の耳がある。しかし、何も聞こえることはない。男たちは音を失い、ただ光を見つめて暮らす。もうひとつの国には無数の眼がある。しかし、何も見えることはない。女たちは光を失い、ただ風を聞いて過ごす。
男も女も互いの知性を知らない。国は綺麗に重なりあい、単為生殖が血脈を刻む。男はものを言わぬ石塊と交わり、女はぬくもりのない闇と交わり、生まれた子は半分の確率で人間ではない。しかし、どちらの国民も、自然と折り合いながらそれぞれの文化をはぐくんでいた。
あるとき、滅多に荒れない空が気まぐれに旅人の乗る難破船を呼びつけた。瀕死の旅人が岸壁に打ち寄せられる。男は旅人の半分を、女もまた旅人の別の半分を助け、交流を持った。その島においては男でもあり女でもあるその旅人は、親切へのお返しとこの国の豊かさへの敬意によって、女たちに光を、男たちに音を、さらに双方が持たぬ臭いや味までを、毎日ひとつずつ与えた。
すると、七日目に両国とも滅亡した。