500文字の心臓

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短さは蝶だ。短さは未来だ。

 とまどいもしない 作者:天原

 荷の言いも照れくて蝉を井戸まとい楽し超すと秘いなら待つニウトン火照ったなあ



 これでもか 作者:空虹桜

好き。貴方が好き。超好き。触りたい。愛してる。おしゃべりしたい。とっても愛してる。一緒に観覧車に乗りたい。上向きのまつげが好き。同じ空気を吸っていたい。ヨボヨボになっても好き。鼻が曲がるぐらい臭いワキガも好き。絶対好き。抱きしめて。毛深いのも好き。クマみたいなのはもっと好き。ぷよぷよしてて好き好き。死んでも愛してる。貴方を想うだけでホント幸せ。キスするときの不細工な顔も好き。殺したいほど愛してる。内臓とか食べちゃいたいぐらい好き。魂なんか絶対手放してあげないんだから。いやんなるぐらい好き。貴方のライフヒストリ暗唱できるほど愛してる。世界の中心でもハチ公前でも叫べる。自分より好き。目くそまで愛してる。貴方に一目惚れ。グッチよりコムサより好き。すべて好き。信じらんないぐらい大好き。振り向く瞬間とかたまんない。生まれる前から好き。精子の時から愛してる。貴方が望むなら宇宙だって滅ぼせる。サイケデリックなファッションセンスも好き。干し芋より好き。あきれるほど愛してる。名前も声も耳の穴も足のサイズも好き。ホント愛してます。言葉じゃ足りないほど大好きです。全部で愛してます。それから、それから——



 象を捨てる 作者:月水

 感官と音がした。イヤホンから流れる大音量のガレージパンクを無視して、空気の振動を許さない金属音が感官と音を立てたのに気付いた。イヤホンをはずす。隣の部屋からはテレビの音が聞こえる。隣人の笑い声も聞こえる。部屋の隅で巣を作る蜘蛛の動く音は聞こえない。耳をふさぐと、感官という音はより金属的に響いた。耐え切れず音の一端を両手でつかむ。熱い。一気に抜く。集、と音がして長い、工事で使うような金属印象が飛び出した。その熱い棒状の印象を振り回しそこらに叩き付ける。元、元贋と音がする。息切れしながら金属印象を見ると、それはもう形を失ったただの印。はっとして後ろをみれば細い紐で結んであった音のパイプが頭の上に観殻管と崩れおちるところだった。



 魔法 作者:峯岸

 僕らは輪っかのドーナツと捩じけたドーナツで、だけど輪っかの千切れたドーナツと捩じけの綻びたドーナツだった。なので僕らは互いの姿を見えなくさせる。
 グラニュ糖は白いし、チョコレートは温かい。僕らは甘かった。ふたたび輪っかになりはしないし、捩じける事もないのだ。盲めっぽう色々なものを見えなくさせる。繰り返す事で痛みを紛らす。
 どちらからという事もなく、食べ合う。だから、もっと僕らは千切れたドーナツであり綻んだドーナツだった。いつしか互いの声は聞こえない。きっと相手も自分の声を聞こえなくさせたのだろう。
 繰り返す内にお互いを忘れさせてしまい、お互い何もかも忘れてしまう。どちらが輪っかの千切れたドーナツで捩じけの綻びたドーナツなのか果たして判らない。致命的に損なわれたのだ。もう、ただ平べったいだけの丸いドーナツには戻れない。
 どうにか僕らが僕らであるのを思い出しても、どちらがどちらだか判らない。輪っかでも捩けでもないし、内側はしっとりやらかくて表面はかりかり香ばしい。やっぱり僕らは甘かったのだ。



 二人だけの秘密 作者:水池亘

2人→4人→8人→16人→32人→64人→128人→256人→512人→1024人→2048人→4096人→8192人→16384人→32768人→65536人→131072人→262144人→524288人→1048576人→2097152人→4194304人→8388608人→16777216人→33554432人→67108864人→134217728人→268435456人→536870912人→1073741824人→2147483648人→4294967296人→



 金属バット 作者:皇神泰斗

「どうも皆さんコンバンミ。司会の勅使河原晋太郎です。今夜も始まりました女子中高生が金属バットふりふり、オッパイぷるぷる、オシリぷりぷり、ミニスカからパンツちらちらなスペシャルプログラム。全国から選りすぐりの美少女達がここ神宮球場に大集結しました。今宵も貴方の股間は特大ホームラン間違いなし。解説はお馴染『真夜中の三冠王』砂原プロにお越し頂いております。砂原プロ宜しくお願い致します」
「どうぞ宜しく」
「さぁ今夜のトップバッターは上原未来ちゃん。中学2年生の14歳。愛知県出身。上から80・56・85。セーラー服の似合う、ちょっとハニカミやさんな女の子。好きな食べ物はさくらんぼ。憧れの芸能…。おっとプロフィール紹介中にのっけから豪快にフルスイングだぁ!もうすぐでパンツが見えそうでした。期待できますねぇ砂原プロ?」
「そうですねぇ。今日の未来タンは気合が入っていていいですよ。それに彼女の足首にも注目したいですね」
「ここで番組からお知らせが御座います。まもなく500文字に迫って参りましたが一部の地域を除き、このまま番組を延長させて頂きます。ご了承ください。さぁ上原未来ちゃん。彼女独特の振り子打法で…」



 ボロボロ 作者:瀬川潮

 おやおや、ボロボロじゃないか。
 まるで「仕事が忙しくて疲れた」みたいだねぇ。
 え?
 そこでのっぺらぼうの男に会って逃げてきた?
 もしかしてその顔は——。
 ……。
 …………。
 まあ、後からでもいいか。
 それよりいらっしゃい。
 よろずやへようこそ。
 あんた、呪術師だね。
 いや、「あんたが右手ににぎったネズミ」ですぐ分かったよ。
 え、何もいらない?
 いやいや。入ったからには、何か買ってもらうよ。じっくり見ておくれ。
 灰・蛇・剣・蜘・毒・婆……骸・杯・盾・矢・藁・棺・壷。
 おうおう、「まばたきもせずに左から右に見てた」ね。
 熱心なこったが、「目が乾く」ぞ。
 ——————————————————→壷。
 おっと。あんた今、「壷を見た」ね。一番右の壷。
 うかつに触るんじゃないよ。
 レッドスネークが出てきてあいさつするよ。
 レッドスネークがあいさつしたらあんた、死ぬよ。
 灰。
 うわわ。あんた今、一番左の「灰を見た」ろう。
 気を付けな。
 結構毛だらけになるよ。
 灰だらけになったらあんた、死ぬよ。
 ところで——。
 ……。
 …………。
 ところであんた。
 「そいつは誰だい」?
 いや、「あんたの背後にいる」女だよッッッ!



 かめ 作者:灰

というと貴方、死にたくなったんですか?
生きるのが馬鹿馬鹿しく思った、なるほど。
では貴方でも生きられる方法をご紹介します。私はいつもこの方法で、死ぬのをやめていますから。
簡単です。死ぬために自分で自分を傷つければいいのです。
あぁ、刃物等の道具を使ってはいけません。床や壁も駄目です。麻酔なんて言語道断です。あくまで自分で傷をつけるのです。
一番簡単なのは、やはり指に噛み付くことでしょうね。血が出ようが骨が出ようがお構いなしに噛みます。噛みちぎるくらいのつもりでやると、より効果的です。
薬指とかお勧めですよ。仮にちぎれても、所詮は薬指ですし。その後生きるにも、たいして影響ありませんしね。
引っ掻くとかもいいんですけど、あんまりやると指の骨が折れてしまうので気をつけて。もしやるなら、爪が剥がれる程度が良いですね。
すると、人間なんですからやっぱり痛いです。死ぬためにこんな痛い思いをしなくちゃいけないんです。つまり死にたいと思わなければ、こんな痛みは感じなくて良いんです。ほらね、死ぬのが馬鹿馬鹿しくなったでしょう。
どうせ惰性で生きているなら、痛くない方が良いじゃないですか。違いますか?



 かめ 作者:かるがーも

二〇〇四年春、国民年金問題に噛み付いた議員がいた。
これはいけると思ったのだろうチャンスだったのだ。
確かに、自分が未納だとバレルまは…。
  
  かめ かめ かめ
常に相手に噛み付いていなければ政権は取れない。
未納者に未納三兄弟と馬鹿にし、まだいると豪語した。
  かめ かめ かめ
噛んでる自分が噛まれてる。
  
  かめ かめ かめ
  かめ かめ かめ
  かめ かめ かめ

もっと、噛めと叫ぶ議員にシラケル国民



 かめ 作者:尺取虫

競作かめを仕掛けたのは自由題の白うさぎ。
かめはかめの中に埋もれて身動きがとれず、
かめのあたまの上をうさぎがぴょんぴょん。
競作うさぎを仕掛けたのは逆選王のかめ。
やってくるうさぎたちをパクパクかめかめ。
血だらけになったのは自由題の赤うさぎ。



 引き算 作者:かるがーも

あれもいらない、これもいらない。
ムダむだムダムダ仏・・・・チーン。

いらない、いらない

ひきさんや、妥協だけが我が人生よ

たしさんも、そんなに苦労を背負うなよ

控え折ろうなんちゃって



 密室劇場 作者:伝助

 「そこに男の影が立っていたのよ」私は外のベランダを指し「なのに、消えてしまうなんて、どういうことかしら?」と調査に訪れた麗しの探偵様とその助手の少女ちゃんに言いました。
 首の据わらない少女ちゃんは「なるほど、概ね密室ベランダ態ですね。身を隠す所は無く、室内にはマダム、その反対の手摺の向こうは断崖絶壁。しかし、謎は解けました。マダム、どうしてカーテン越しの一瞬の影だけで男性だと判りました?」
 私が戸惑っていると、さらに、少女ちゃんは、
 「それは恐らく彼が丸裸だったから。その、影の一部が『突起』しているのを見て、マダムは無意識の、」
 「・・・あぁ、ぶらぶらしていましたわ」
 でも、探偵様は「ノン、マダム。これは一羽の白鳥が、ある肌寒い夜に孕んだ月光事件です。寒さで萎縮したソレは、目の肥えた観客を前に、舞台で優雅にダンスなど踊れやしませんよ」と言い、少女ちゃんは手帳に『→わりと、しょっぱい』とメモ。
 私はひとり恥かしく、もし背に翼が有るならば小さく折り畳んでいた事でしょう。
 「マダム。あなたのような方が何故、こんな、つまらない嘘をおっしゃるのです?」
 ああ、探偵様。違うのです。
 私は、死後に極楽浄土で極楽温泉に浸かり、いつまでも湯上りタマゴ肌でいられる善人様とは違います。
 あなたに逢えるのなら、気まぐれに嘘もつきましょう。



 衝撃 作者:根多加良

 潰れかけた豆腐と気紛れの鯡が街角で出会う。そのとき誰かがミシンのことを思い出したかどうかは分からないけど、このエピソードを知らない人にとっては普通の話になってしまう。どうしたらいいのか私にも分からない。きっとその人たちはこの豆腐と鯡の恋や友情物語がここから繰り広げられていくと期待しているのではないか。私だってそんな話が好きだったのにどうしてこうなってしまったのだろう。そもそも私もこの話は知らないのだ。どうしたらいいのだろう。

 幸せに暮らしました。