500文字の心臓

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短さは蝶だ。短さは未来だ。

 熱くない 作者:つとむュー

「ダメじゃ、それに触ったら!」
「ビ、ビックリしたぁ……。いきなり叫ばないでよ、おじいちゃん。大丈夫だよ、これ電角でしょ?」
「電角? とにかく、消したばかりの電球に触ったらいかん! 大火傷するぞ!」
「だから言ってるじゃない、電球じゃなくて電角なの。デ・ン・カ・ク」
「なんじゃ、その電角っちゅうのは?」
「去年、法律が変わったでしょ。 白熱電球と区別するためにLEDはすべて角型になったのよ。丸くなければ熱くないの。わかった?」
「なんだかよくわからん。エルなんとかって横文字を出せば誤魔化せると思って、年寄りをバカにしとるじゃろ?」
「なによ、親切に教えてあげてるのに。嘘だと思ったらそれ触ってみてよ、おじいちゃん」
「そんなことできるわけないじゃろ?」
「だったら私が触ってみるから」
「だからやめろと言っとる。火傷するぞ」
「じゃあ、おじいちゃん、触ってみて?」
「それはできん」
「じゃあ、私が」
「それはいかん」
「じゃあ、そこで笑ってるお父さん」
「えっ、俺? 俺は……」



 湖畔の漂着物 作者:つとむュー

 海水浴をしていたら、水が凄く冷たい場所に迷い込んでしまい、驚いて砂浜に駆け上がった。
「あははは、あんちゃんもビックリしたか?」
 様子を見ていた海の家のおっちゃんがニヤニヤしている。
「そこ、みんな驚くんだわ」
「なんなんですか、ここは?」
 するとおっちゃんは口の前に人差し指を立てて、小声で話しかけてきた。
「この浜にはな、たまに湖畔が漂着するんだよ。だからその部分は真水で冷てぇんだ」
 湖畔が漂着する? どういうことだよ、それ。
「嘘だと思ったら、水の中ァ覗き込んでみな」
 言われる通り水の中を覗き込むと、赤や金色の魚が泳いでいた。
「海だったら鯉なんて泳いでねえだろ? だから湖畔なんだよ。砂や景色だって違うぜ」
 確かに砂もその部分だけ黒っぽくて、なんだかゴツゴツしている。波が静まると、見た事の無い山が雄大な姿を水面に映していた。
「これって……蜃気楼?」
「なことねえよ。山なんかどこにもねえだろ? それより今回はどこの湖畔なんだろうなぁ。あんちゃん、その景色に見覚えねえか?」
 見ると山頂はマッターホルンのように尖っていて、とても日本の山には思えない。
 ヤッホーと叫んでみると、ヤッホーと日本語でこだまが返って来た。



 設計事務所 作者:カオル

うだるような暑い昼、事務所に一機のロボットが訪ねてきた。聞けば、恋愛感情を設計して欲しいと言う。費用は可愛がってくれている老婆が出してくれるらしい。
 依頼は私を混乱させた。ユングの深層心理学を含め自己投影のシステム、嫉妬や憎悪の感情が必要になる。仮にこれらのプログラムの制御が効かずに暴走した場合、その修正機能をどう設計すればいいのか。
 室内のくたびれたエアコンがうなりだす・・・。
 「請け負うとたら、君はどちらの性別を希望するのかな?」
 「トーゼンジョセイデス。ゴゾンジデショウ?」
 その意味を理解できないまま会話が進む。
 「ケショウガシタイシ、ダンセイハ、ジョセイガヒツヨウデショウ?」
 「オトコではダメなの?」
 少しの間があってからロボットは答えた。
 「キレイ? ウーン、ウツクシクナイカナ?・・・」
 しばらく不毛なやり取りが続き、私はまず外観から設計しようと決めた。すべての人が理想とする女性像を描いてみる。引っ張り出したクラウドからのデータを好きなように加工して3Dプリンターに送った。かつてない期待と興奮に、不眠不休の設計は続いているが、完成間近のこの興奮は私だけのモノ。



やわらかな鉱物 作者:カオル

 気温の暑さに耐えかねた私は、思うように寝付けないことにイラつきをおぼえ、思わずタオルケットを蹴飛ばす。意をを決して上体を起こしてから、枕もとのたばこに手を伸ばしライターを手探る。火をつけるのが億劫になり、取り出した一本をそのままにして顔を洗いに洗面所へ向かう。
 いつの頃からか、やわらかい鉱物を水に溶かしながら顔を洗う習慣となった。始めた直後、眉毛が取れた顔面はすべすべになり、しばらくして毛穴がふさがり汗もかかなくなった。数週間経って、自分の体に何かがぶつかっても痛みを感じなくなって、爪も鉄のように鈍色になった。数ヶ月後、涙腺もふさがり悲しくても泣けなくなったが、鉱物を目にするたびに喜びを感じるようになった私は、やわらかい鉱物のみを摂取し、排泄は皆無だ。
 硬くなっていく思考と身体がきしむのを感じた私は金属の快感、いや、この金属中毒から抜け出すために覚悟を決めたのである。
 とにかく温度に敏感に反応する身体には、疲労がつきまとい生きた心地がない。取りすぎた鉱物のせいで熱伝導率が上がり、蚊も寄りつかなくなった。
 やがて空が白みはじめる。湖水に沈む私の身体と記憶は、蒸気を出しながらゆっくりと溶け出していった。



天国の耳 作者:はやみかつとし

「楽園から来ました」
「楽園? こことは似ても似つかぬ場所じゃな。あれは始まりの場所、翻ってここは究極の目的地じゃからな。ここに来るものは選ばれしもの。しかし楽園から逐われたのは何ものじゃろうな。自ら逐われることを選んだもの、いやむしろ、逆の意味で選ばれたものとも言える。すなわち、お主は逆選王というわけじゃ」
「えー」
「まあよいではないか。対照的に、ここに入るものは正選王ということになる。正選王はな、いわば天国の耳をもって、逆選王の言葉に耳を傾けなくてはいかん」
「といいますと」
「逆選王がいかなるお題を提案しようとも、虚心坦懐に分け隔てなくそれを聞き、公正な判断をせねばならん」
「むずかしいですね」
「選ばれしものの務めじゃからな。で、そちは楽園より出でて天国に入らんとするもの、すなわち自らの声すらも、自ら邪心なく聴き分けねばならん」
「まるで…試練ですね」
「左様! 自らの声すらも等しく遍く聴き取るには、全き沈黙が必要なのじゃ。時として苦く辛い涙を強いるそれを、わしらは『試練塩』と呼んでおる」
「…しれん…しお」
「どうじゃお主、やってみる気はあるか」
「結構です」



ありきたり 作者:氷砂糖

 結局のところ、誰にだってガラスの靴を持った魔法使いはやって来る。
 近所のおばさんの姿をしていたり、ふらりと入った喫茶店のマスターだったりするかもしれない。郵便配達のお兄さんの姿のこともあるだろうし、一年間受け持ってくれた学校の教師かもしれない。よく行くコンビニの店員や、もしかすると道端で出会う野良猫、遊びに行ったテーマパークのぬいぐるみ、偶然乗ったタクシーの運転手、あるいは友人から預かったハムスター。姿形ではそれと気付かないこともあるだろう。けれど魔法使いは、来る。誰にでも。ガラスの靴だってガラスの靴そのものであるとは限らない。言葉かもしれないし、何か記念品、ゴミにしか思えない物のこともあるだろう。
 だから――ガラスの靴を履いて注目を集めているように見えるかもしれないが――私はことさら特別な人間ではない。魔法がかかっている間は誰もがそれぞれに特別で、つまり特別が溢れかえる世の中では本当の意味で特別な人間などいなくて。
 十二時の鐘が鳴ったときにどんな姿でいるだろうか。
 自らに問え。
 真摯に問え。
 それが、その姿が、その消え入りそうな小さな輝きが、貴方という人間そのものだ。



ありきたり 作者:胡乱舎猫支店

 リボンは赤がいいわ。鮮やかなの。
 バラはピンク…そう明るいピンクね。
 それから白いかすみ草をレースみたいにしてね。
君からの花束のリクエストはいつもそんな感じで、必ず赤とピンクと白。
 だって全部好きな色なの。いいでしょ?
花束だけじゃない、服も小物も全部。赤とピンクと白。
 なんで?女の子はみんな好きよ?この色。

必ずしもそうとは限らないけどね。でも君は大好きだから喜んでいるよね。
君の部屋をこの色で飾ったから。赤とピンクと白。血と肉と脂肪で。



ありきたり 作者:千百十一

ご挨拶  皆様は、「ありきたり」という言葉から、どのようなイメージを持たれるでしょうか。「平凡」「面白みのない」など、あまり良いイメージではないのではないかと思います。どうしてこんな言葉を社名にしたのかと、いぶかしく思われる方もいらっしゃるかも知れません。
 ところで、ここで辞書を繙いてみますと、「ありきたり」の語源は「昔からある」という意味なのです。昔からあることで、あることが当たり前になり、やがて「普通にあるもの」として「ありきたり」と言われるようになるのではないでしょうか。
 私どもは、業界のリーディングカンパニーとして、伝統に根ざしながら常に新しい価値を創造し、10年、20年後には「ありきたり」と言われるようになることを目指しております。

「ありきたり」であることの誇りを込めて。
2014年4月1日 株式会社ありきたり代表取締役 有野 喜太郎



おはよう 作者:ひねもす

一人が独りでなくなるための 合理的かつ効率の良い『人間関係合成戦略』
まあ要するに、攻守を問わず相手さんに打ち噛ます『かめはめ波』ってとこだ



鈴木くんのモロヘイヤ 作者:加藤さま

 小松菜だ。
 私はモロヘイヤじゃないし、そいつは鈴木くんじゃない。こんなこと言ったって大して意味はないのだろうが。私の名前──タイトルは私が付ける。ペンネームだって大抵自分で付けるだろ?
 だから小松菜だ。私の色が小松菜よりの緑色でなかろうともちろんモロヘイヤよりの緑色でもなかろうとそれどころか緑色でさえなかろうと。私の栄養素がモロヘイヤとも小松菜とも人参とも似つかなくても0kcalだとしても。
 小松菜なのである。そいつが鈴木くんじゃないことについてはまあ、特に問題はない。そいつ以外も大抵鈴木くんじゃないし、タイトルというのはそういうもんではないし、自分になかなか「くん」は付けないし、フィクションだし、私は鈴木くんじゃあないし、フィクションだし。それは「お隣さんの名前」くらいのもんだと思うのだ。私には基本的に関係ないし変えようがないし引越すかもしれないし。
 もう小松菜ということで良いだろうか、フィクションだし。ちくしょう。たぶん私は小松菜でもなく、しいて言えば反抗期なんだろ。

※この作品は小松菜です。