500文字の心臓

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短さは蝶だ。短さは未来だ。

 眠りすぎないように 作者:海音寺ジョー

 明日が試験なので、今夜は徹夜を覚悟せねば。とりあえず夜食代わりに、珈琲と冷蔵庫の杏仁豆腐を食おう。うん、このピリ辛の甘さが頭を冴えさせるな・・・いや、なんかねむい。ねむくなってきた。いかん。ラベル見たら、これは杏仁豆腐じゃなくて安眠豆腐だった。



 少女、銀河を作る 作者:水池亘

壊すために作ったから。そう言って彼女は笑った。



 INU総会 作者:空虹桜

今年もリモートか。



 三階建て 作者:脳内亭

 新種の貝が発見されたという報はまたたく間にヤドカリ界を駆け巡った。
 有史以来、平屋建てにしか住んだことのないヤドカリにとって複数階の住居は永遠の憧れであった。それが二階を一気に飛びこえ三階建ての発見である。誰もが狂喜し、我先にと新種の貝を探し回った。しかし、ただでさえ発見されたばかりの稀少な代物、空き家となればなおのこと。凄惨な殺貝事件が起こるのは必然であった。
 事態を重く見たヤドカリ政府──否。彼らとて例外ではないどころか、権力を振りかざしてより狡猾に我がものとすべく暗躍した。発見されたのも束の間、哀れな貝は絶滅まで時間の問題であった。

「いいか、絶対に動くな。奴ら狂ってやがる。見つかったら最期だ」
「……あなただって、わたしのカラを狙ってるんでしょ」
「ああ。おまえが幸せに生きて、天寿を全うしたらな。それまでは誰にも奪わせねえ」
「……あなたもヤドカリなのに、どうして?」
「話はあとだ。奴らが来る、いいか、何があっても隠れてろ!」
「あっ……!」

(外殻じゃねえ……おれは……おまえの中身に……!)

 ──長い殻をゆらし、老いた巻貝は後に語る。その時の彼はまさしく韋駄天の如き速さであったと。



 三階建て 作者:つとむュー

 私は『アスリートのお宅拝見』という番組のキャスター。都内のある場所に来ている。
「さて、今日のゲストのスポーツは何でしょう?」
 実は私も知らされていない。建物を見て予想する様子も番組の一部なんだそうだ。
「この家は……」
 多くのアスリートの自宅の中にはトレーニング室があり、そこで種目も予想できる。が、今回は外からも種目が丸わかりだった。
「壁に沢山のホールドが付いています!」
 そう、三階建てのコンクリートの外壁には壁を登るためのホールドが無数に付けられていたのだ。
 そこでアスリート本人が登場。案の定スポーツクライミングのオリンピック代表、野口中選手だった。
「野口中選手はこの壁を毎日登られているのでしょうか?」
「もちろんです。そのための三階建てですから」
 私は建物を見上げる。
 屋上までかなりあるしオーバーハングもある。これを毎日登ったらかなりの練習になるだろう。
「それでは中も拝見させていただいてよろしいでしょうか?」
「もちろんいいですよ。ではこれを付けて下さい」
 野口中選手は私にハーネスを差し出した。
「といいますと?」
 彼女はニコリと笑うと私に言ったのだ。
「玄関は屋上にありますので」



 白白白 作者:はやみかつとし

問 □□□ これに振りがなを振りなさい。
「くちろろ」
「言うと思った。残念!」
「えっ正解だろ」
「出題者が違うったら違うの」
「ひでぇな。じゃ、白の刻子」
「や、まあそんなに間違ってないけど、問いはあくまで『振りがな』だぜ?」
「ぱいぱいぱい」
「何かやらしい」
「でも『はくはくはく』じゃつまらんし」
「いやつまらんとか面白いとかでなく。正解は?」
「うーん……降参!」
「正解!」
「えーっ?」
「波打つ白旗を表してるんだよ」
「うそー!」
「三つ並べれば、それは『たくさん』てことだから」
「数の数えられない愚昧な宰相かよ……お先真っ白だな」
「勝手におあとをよろしくするな」