500文字の心臓

トップ > タイトル競作 > 作品一覧 > 第152回:テレフォン・コール


短さは蝶だ。短さは未来だ。

 テレフォン・コール1

知り合いの美しい女性は声だけで男をおとすの。なんと羨ましいことか。私はもちろんそんなことは出来ないし会うことになったら尚更無理よ。僕の友人はそんなことを話すが彼女もかなりの魔術師だ。気まぐれに電話をかけてきては長話をして僕を揺らす。揺れているだけでおちていないと思うけれど、いつも彼女のことを考えている僕は既におちてしまっているらしい。



 テレフォン・コール2

惑いに夢の、彷徨わぬ哀の響き。伝え、伝えられる光の線縷に、躊躇いの時が、息を試す。体から魂へと、魂から心へと。不束な驚きのような、既に感傷を含みながら、哀を照らす。慄きの淡い遍きが、世界を浚う。意識が振り返るのは、乱雑な記憶の宇宙である。

あなたきて
あいのゆめにと
つれさりし
かえるこころの
おもいにゆれて

峻厳な境に、時は連続する。哀と愛の記憶に佇み、果てしなき巡りの舞いを周知させる。香りが音を奏で、色が時を移ろわせる。止め処なく溢れる祈りが、発散する前に、収束を願った。既に、時は未来へと臨んでいた。
「はい」「・・・」「愛してる」



 テレフォン・コール3

 未練未練、未練未練と着メロが鳴り受話器をとると12月からだった。
「早いよ、まだ早いよ、原稿がまだ書けてないんだよ」
 12月はそんなこと言われてもなあ、と不満げだった。僕は締め切りが気になってしょうがなかったので、12月に僕は間に合わせることが出来たのかよ?と訊くが、12月はだんまりを決めこんで電話を切っちまった。
 僕は僕というやつは本当に自分のことばっかりだなあ。たまには相手のことも思いやらないとなあ、とげんなりとした気分になった。待ってたけれど、もうコールは鳴らなかった。
 うだつの上がらない日々。出口の見えないトンネル。突破口をきょろきょろと探し続ける執着。もう寝る。
 翌朝、劫初劫初とLED電球が点滅していて、永遠からの着信履歴だった。



 テレフォン・コール4

朝。手の中でスマホが震える。『彼』からだ。
「おはよ。そろそろ起きて。いい天気だよ」
返事はしない。けれど『彼』の声で気持ちよく目覚める。
通勤電車の中。イヤホンで聴く『彼』の声。
「今日は11時からミーティングだね。19時には「ボーノボーノ」で女子会だよ。楽しんできてね」
返事はしない。けれど『彼』が私のことをわかっていてくれるのがうれしい。
昼の休憩時。ミーティングで叱られた。『彼』にコールする。
「大丈夫。ボクがついてるよ」
返事はしない。けれど『彼』の声を聴くとヘコんだ気持ちが楽になる。
退社後。『ずいぶん歩いているけど大丈夫?ボーノボーノの場所?OK!ボクが案内するよ。まかせて』
おかげで無事到着。お礼は言わない。けれどいつも私を見守っていてくれる『彼』。

そんなスマホアプリが流行っているのだそうだ。GPS、ナビ、スケジュール管理、検索サイトなどと連動し、自分の好きな声優の声で、状況に応じてボイスメッセージを随時送ってくる。かくして彼女は常にスマホを持ち歩き、『彼』の声に癒され助けられて日々過ごしている。これは『彼』に恋した一人の女性の物語。



 テレフォン・コール5

雪が降っていたので「冬が来たの?」と尋ねると、「来たけどすぐ帰ったよ」揺り椅子に沈み込んだ爺は眼を閉じたまま答えた。部屋に籠もった病んだ臭いが懐かしい。
テレフォンコールの元の意味は「遠くからのしらせ」だという(先代人は声を線状に縒る技術を持っており、届くべき人に届くまで、その声は誰にも聴かれることがなかった)。
現代語にはないふしぎなひびきがある。
都に命名したのは固有名詞優生学者である爺だ。アクセントをどこに置くかで印象がちがう。テレに置けば「着く」感じがするしフォンに置けば「いる」感じがするしコールに置けば「離れる」感じがする。そしてかすかに、不吉なひびきが。
名前はどうして、付け替えることができるのか。付けるにも取り去るにも何の力もいらない。それなのにどうして付いたままでいるのだろう。爺の本、読んでみようか。
テレフォンコール。
テレフォンコール。
テレフォンコール。
いまどのへんかしら冬は。
平原をテレフォンコールに向かう冬の背中が見えた気がしたとき、その背中から私だけに向かって「今亡くなったね」というしらせが届いた。
爺が深く息を吐くのが聴こえ。
私は息を止めて、息が吸われるのを待った。



 テレフォン・コール6

「おはようございます! 外、もう真っ暗ですよー」
 冷気を纏って、夜勤がホテルの交換室に飛び込んできた。
「はい、お問い合わせはございませんでした……はい、失礼致します」
 遅番が内線を切るのを待って、夜勤が声をかける。
「例の【NO STAY】様ですか?」
「そ、『電話は無かったか』て」真新しいブレストが鬱陶しいのか、むしり取って耳を揉む。「気になるなら居留守なんか使わず、自分から連絡すりゃいいのにねぇ」
「ですよねー」ロッカーで着替える夜勤が答えた。「せめて着信拒否の【NO CALL】にすればいいのに。そうしたら、ここに居る事は伝わるじゃないですか」
 鉄扉を閉める音がした。
「ま、その着信の無いのが一番問題なんだけどねぇ」
「訳解りませんよー」資料や文房具を中継台の前に並べ、夜勤が続けた。「もう1週間ですよー。部屋にこもって何を待っておられるんですかねー」
「詮索禁止」
「はーい。でも気になりません?」
「そりゃあね、あんな元気のない声を毎日聞いてたら」遅番が首を振る。「嘘でも『かかってきた』て言ってあげたいわねぇ」
「嘘も禁止ー」
 と、着信音が響いた。期待を込めた二人の手が、同時に応答キーを叩いた。



 テレフォン・コール7

 奥歯があまりにも痛いので、あなたの体は左右に千切れてしまう。
 割けている最中にはこれで痛みが半減すれば良いという期待を何となく抱く。だが体が分割されてしまった途端あなたの感覚や心もまた分割されてしまっているのである。まったく痛みを感じていない半身と痛みだけで満ちている半身。どちらも互いの意識を知ることは出来ない。そのどちらもがあなたであるにも関わらず――。
 じきに体はそれぞれ完全となる。奥歯以外には何の違いもなく片方のあなたが奥歯を治療すればいよいよあなたは別々の二人となる。その後は別々の人生をあゆむ
 あなたは自分の写し身がどんな生活を送っているか知らない。どうしても知りたい衝動に駆られもするのだが幾度も連絡を取ろうとしては躊躇してしまう。必ずしばし逡巡しては取りやめてしまうのである。相手も同じかも知れない。そうしたことを繰り返すのが当たり前になるうちに連絡を取ろうとさえしなくなるのが当たり前となる。
 ある日あなたの電話が鳴る。あなたには何もかもがわかる。



 テレフォン・コール8

 ご親切に使い方が示されているものだから、同じ姿勢になってみる。すなわち装置の横から突き出た金具に掛けられたハンドル状のものを手にとり耳にあてる。ピクトグラムって便利だね。
 だけどもだけど、読めん知らんではやはり用途がいまいち判別つかん。手強いぜ、滅亡文明。だから面白い。
 よって、出口を失った私の危機はいまだ去らない。
 ハンドルを通し耳に入ってくるのは人の声しかし未知の言語そのうえ自動音声と思われ一喜一憂のうち「ぴいー」のようなことを発したようなせなんだような確かめる間もなく言葉切れるや、一拍おいて、ピイー二拍。
 ?
 喋ってみる。
 なんか意味あるんかコレ。誰にか届くんかコレ。ぷつん。ぷう、ぷう。
 このままだとあと幾日がんばれるか知れん。食べるもの探そう。
 しかしさっきの黄緑色の、レトロが過ぎて、洒脱であったなあ。
 あのハンドルと本体を繋ぐビヨビヨはなぜ螺旋状なのかなあ。
 危機は去らんが私の知的興味は尽きない。いやはや面白い。
 誰にか届くんかアレ。



 テレフォン・コール9

退会。退会。アカウント削除。解約。メモ。ライター。火傷。ボックス。



 テレフォン・コール10

 ああ、こんなに寒い冬の日に、凍えて帰ってきたあなたは、たばこを一服つけたあと、すとんと眠りに就くのです。服も着替えず眠ります。
 とんとん。もしもし、ピースフルマインドでしょうか。はい、こちらはピースフルマインドです。よかったらこちらに来ませんか。
 そこに浮いているのはよくは知らない草でした。



 テレフォン・コール11

太陽が焦がす電話ボックス。
陽炎に揺れる。
ふと、かけてみようと思った。
耳元で

Calling calling calling…

水底で
ふと、でてみようと思った。
波影が揺れる。
月光が照らすテレフォンブース。



 テレフォン・コール12

 意思の疎通が脳内チップを介した無線通信で行われるようになった時代。声帯は言葉を発することを止め、鼓膜は自然音を知覚するだけの器官となった。
(ねえ、カオリ。百年前には、電話という機械があったそうだよ)
(へぇ〜。それって何をする機械?)
(遠い場所から操作して、人の鼓膜を震わす機械……らしい)
(鼓膜を震わすって?)
(こうだよ)
 シンジはカオリの耳元で「ワン」と犬の鳴き真似をする。
(くすぐったいよ。それに、こんなところで恥ずかしいよ)
(いいじゃないか、好きなんだから)
(もう、シンジったら)
 カオリもシンジの耳元で「ニャー」と鳴いた。
(昔の人は、こんな素敵なことをなんで遠くからやってたんだろうね)
(きっとロマンチストだったのよ)
(カオリ。今度僕は、この電話機を作ってみようと思うんだ)
(じゃあ、完成したら最初に私で試してみて)
(犬語がいい? それとも猫語?)
(うーん、そうね。最近ようやく解明されたアレがいいわ)
 こうして百年ぶりのテレフォンコールはキリン語に決まった。



 テレフォン・コール13

 ネットワーク経由で各地からフォンの香りを収集する。亜光速航法でも互いに往き来するのに数十年かかるほど広い範囲にコミュニティが散らばってしまったこの時代において、文化的相互翻訳可能性を維持する、これはそんな試みのひとつなのだ。香りの伝送ならば、解像度が比較的高くデータ量が嵩むといっても、量子通信で数時間あれば受信できるので全く問題ない。
 それにしても何故フォンなのか。われわれが食い意地の張った種族だから、というのも一つの回答だろうが、むしろ複数の由来のものを簡単に混ぜ合わせられ、しかもそこから新しい共通のものを引き出すことが容易だからだろう。これが言語作品や音楽ならそうは行かず、一瞬にして文化闘争になってしまう。私たちが求めるのは争いではなく調和、そう、美しく響き合った多数の声が織りなす合唱のような調和なのだから。
 さてそろそろ、かなりのコミュニティから情報が集まってきた。調合シミュレーションも始まっている。風味に新しい伝統を付け加える、至高のひととき。
 どこか星空の遠くでお腹の鳴る音がする。



 テレフォン・コール14

 いつもの時間になったので、わたしは電話の前で待つ。コール音が鳴るや否や受話器を取り上げる。あなたはいつもの穏やかな声で、もうええ加減にせえ、と言う。いたずら電話相手に真面目に応答してたらあかん。真面目じゃないよ、とわたしは言う。いい暇つぶしなだけ、あなたにとってもそうでしょう? あなたは少しの沈黙のあと、あんた、今日のパンティ、何色? と訊く。履いてない、とわたしは答える。お風呂上がりなのよ、だからバスタオルを巻いてるだけ。バスタオル取って見せろよ、とあなたは言う。わたしは戸惑いもせずにバスタオルを取り外す。受話器の向こうから大きなため息が聞こえる。おまえな、ええ加減にせなあかん、こんなあほな男相手にしとったら、将来ろくな女になれへんぞ。どうでもいいよ、とわたしは言う。言ったでしょ、いい暇つぶしだって、あなたにとってもそうでしょう? 返事はない。そして電話はいつもどおり、いきなり切れる。
 次の日も、わたしはいつもの時間に電話の前で待つ。まだ携帯電話もナンバーディスプレイもなかったころのこと。
 もう、電話は鳴らない。



 テレフォン・コール15

 この部屋に入ると、いつも頭の中で「Walk This Way」が流れる。オリジナルではなくRun-D.M.C.の方。黒人が白人をサンプリングすることで、世界が変わったことになった時代の。
 ワイヤードの電話が鳴る。シミュレートされるメロディではなく物理的な衝突音。アナログな連続音。黒くはないし、ダイヤル式でもないが、たしかに繋がれた受話器を取る。
 前時代的な部屋に潜む、下種な欲望と嘆息で育った黴たちが色めく。あと20年もすれば、こいつらも貴重な風俗遺産か。くだらない。
 受話器から吐息だった振動が吐き出され外耳を舐る。ディジタルとアナログを行き来した上で鼓膜に触れる。マイクは口に近すぎて、スピーカは耳に近すぎる。過剰なリップノイズが聴覚中枢をいたぶる。
「合言葉は?」
 機能だけで、平板なガジェットは、この感覚を満たせない。受話器はいい。受話器は。受話器は。



 テレフォン・コール16

 真夜中、電話ボックスの中。二人の少年は汗ばんでいる。噂のまじないを決行するべく。
 ウィルソンがまず受話器を取った。コインを入れ、6・4・3と回す。次いでピケットが、5・7・8・9と回した。そして二人で受話器を握りしめる。
 呼び出し音が鳴る。1回。2回。3回鳴ったところで「ハロー」と声がした。二人は受話器に向かって、
「ポニー」
 と声を合わせて言った。
「マッシュポテト」
 と相手が答える。
「ワツーシ」
「アリゲーター」
「ツイスト」
「ジャーク」
「ナナナナ」
「ナーナナナナ、オーケー」
 電話が切れた。二人が電話ボックスを出ると、はたして女が三人、そこに立っていた。
 “闇の踊り子”は、町の少年ならたいていは知っている噂話だ。やせ型のボニー、小柄のルーシー、長身のサリー。その手をとって夜通し踊れば、女の持つ魔力が得られる。二人は互いの唾を呑みこむ音を聞いた。
 ウィルソンはボニーの、ピケットはサリーの手をとり、それぞれ闇に消えていった。
 残されたルーシーは電話ボックスに入り、二人が回したのと同じ番号を回す。呼び出し音が1回。2回。3回。1000回目には夜もあける。その時、天国も地獄となる。



 テレフォン・コール17

 女性アンドロイドを購入した。いろんな機能があるらしく、分厚いマニュアルをペラペラめくっていると、迷惑行為撃退機能に目が留まった。個人情報がどこかで漏れたせいか、不動産や健康食品の営業電話がよくあって、私は生来気弱で、断るのも毎回苦労するほどだから、この機能はありがたい。設定をオンにして撃退レベルを【強】にしておくと、あるときまた私の携帯に見知らぬ番号から営業らしき電話が入った。アンドロイドはすかさず電話に出て応対してくれた。彼女の第一声――
「おい貴様、何の権利があってこの番号に電話をかけている!!」
 うそだろ、まじか。これは確かに【強】だ。凛々しい声はまるで歌劇の一幕でも見ているようだ。
「やかましい、口答えをするな! 聞いたことだけ答えろ! 貴様のような迷惑千万な奴の話を聞いてやっているだけありがたいと思え! どうした? 聞いているのか?!」
 電話が切れたようだ。私は驚愕と陶酔のあまり半勃ちしていた。

 それからいろんな営業電話がかかってきても、彼女が強烈に撃退してくれる。相手には大変申し訳ないけれど、この心の震えはもう絶対にやめられない。そしてまた知らない番号で私の電話が鳴っている。



 テレフォン・コール18

 月は寂しがり屋である。
 黒髪を振り乱してツンと横を向いたり時に完全に後ろを向いてしまうのも地球に気に掛けてもらいたいからだ。証拠に、いつも地球に裏の顔を見せてはいない。
 そんな月が最近、携帯電話を手に入れた。業者間のシェア争奪が激化し、ある業者が無料携帯をばらまいたからである。
 早速月は愛する愛する地球へと電話を掛けることにする。
 なお、地球は携帯電話をたくさん持っていた。浮気者が使い分けている、というような意図ではなく、単に海中水没など入手機会がたくさんあっただけの模様。一応弁護しておく。
 そんな地球なものだから、1つの電話が鳴ったくらいでは出てくれない。
 月は一途である。出てくれる番号へと次々掛ける。恋に罪はない。
 が、出ない。月は一途。罪はない。
 時を同じくして、携帯電話会社は新機能として、掛け手から呼び出し音や振動を大きくする有料サービスを追加した。
 もちろん月はこれに加入する。罪はない。

 あるいは地球は、多発する大津波や地震でそれどころではないのかもしれない。



 テレフォン・コール19

電話とかけまして
雪女の息とときますその心は

エンジンをかけまして
音楽をかけまして
人生をかけまして
ドライブをかけまして

You drive me crazy!
迷惑なの。

その心は欠けました。

電話をかけまして電話をかけまして電話をかけまして電話をかけまして電話をかけ
氷原を吹きすさぶ風に耳を澄ますと今も微かに聞こえるそうです。



 テレフォン・コール20

数字化された扉、その先にいる過去の出会い人たち。
私へと向けられた音が鳴るとき、私は呼び起こされている。
十進法で伸ばされた伝達意志。
「ひい ふう みい」とは言わないで、「ゼロ キュウ ゼロ」が合図。
顔も声音も忘れたけれど、数字化された扉だけがある。そんな友も幾人かいる。
私は扉の前でいつも期待している。扉の叩き手を。私を呼び起こしてくれる人を。
開かれた扉から音に乗ってやってくる感情。その波に鼓膜が揺れる。
散々喧嘩した後に、泣きながら「ごめんね」っていうきみの音も、
「今日はカレーだよ」って言って、私に玉ねぎを買ってきてと願うきみの音も、
「元気でね」と言ったきみの最後の音も、
「おかけになった電話番号は・・・」と言う見知らぬ女性の音も、
私を呼び起こし、きみを呼び起こそうとする音だった。薄いカーテンの揺らめきのような不安に、私はただ怯えていた。
私に与えられた扉の数は、過去の出会い人たちと等しい。それは時々開かれ、時々壊され、時々忘れられる。思いがけなく扉が開き、驚く日もたまにはある。
そして同じように、私は目の前にある扉を、時々開き、時々壊し、時々忘れる。でも、扉を叩く時、私は心の奥底に小さな興奮を覚える。



 テレフォン・コール21

 伝話が鈴々と鳴る。電伝虫公舎の黒い伝話だ。男子集合の合図だ。児童車置き場へ行く。中に入る。広い。果てしなく続いている。使われなくなった児童車が、積み上がっている。啜り泣きの声がする。恨んでいるのだ。土は血と涙と汗と脂と餓素燐で赤黒くなっている。空気は鉄臭い。児童車の一つを選んだ。昔の同級生だ。僕等は、成績が悪いと、巨人の道具にされる。彼等に見つからない奥の奥で、その内部を改造した。放課後になると、足を運んだ。星の鳥船にした。遂に完成した。座席の筋肉は取り外されている。固い骨格に座る。血と脂で黒く固まった塵。床に層をなしている。乗り心地は悪い。不法改造児童車だ。見つかると没収される。運転席は頭蓋骨だ。操縦管は背骨だ。学校と巨人達から逃げるのだ。時は来た。第一炎神点火。第二炎神点火。発進!恥球の重力圏を離脱した。まず禍星にいく。車内伝話で、女子達と作戦を練る。巨人と宇宙戦争をする。窓の外に紗漠が赤く燃える。反陰子爆弾発射。勝った。さらば太陰系。とうに恥球人類は滅んだことだろう。何万光年も来てしまった。女子から伝話があった。植民惑星についた。暗泥女堕星雲が股を開いてい��襦�