500文字の心臓

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短さは蝶だ。短さは未来だ。

 P1

「これが永遠ですか」
 老人は興味深そうにケースの中を覗き込んだ。
「しかし、他にもたくさんありそうな気がしますが」
 訝しげに発せられた老人の問いに、白衣の女性がゆっくりと微笑む。30代後半といったところだろうか。その笑顔は柔和でありながら、誇り高く凛としていた。
「そう仰られる方が良くおられます。ですが、このほかに確認された永遠はほんのわずかです。“る”や“D”は完全なる永遠。“9”などはこれと同じように亜種ではありますが、さきごろ永遠と認められました」
「はあ、そんなものなのですかねえ」
 老人はふたたびケースに向き直ると、しげしげと眺めて溜息をついた。
「しかし、私にはこれを手に入れる術がない。すべては生まれた時に決まってしまっている」
「それは、仕方のないことです」
 彼女もケースの方を向き、言葉を続ける。
「私たちは一方通行の道を歩んでいます。誰もが同じように。その行く末には必ず終点があります。その終点が過去とリンクしているかいないかでしかありません。永遠を手にしても、実態は過去を繰り返し生き続けるだけなのです」
 会話は途絶えた。
 暗い研究室の中で、ケースの蛍光灯だけが白く光り続けていた。



 P2

忘れられた夢の、当に今にある、響きの発散は、限りなく宇宙を揺蕩う。単層の折り返しに重層はなく、時を阿る。謳うべき一続きには、終息に向かう連なりが必要であった。不可分の愛が哀に堕ち、無限への有限は、畏れになる。ただ一人、神の遣いだけが、呼応を赦される。

しおんにて
あまおとゆめの
ははたまの
かなでるきわの
ひとつになりて

峻厳な境目に、曖昧な橋を渡し、その深く無限の際立ちを辿ろうとする。感覚は、肌だけである。震えに近い形が、意味のある響きとなり、掬う夢の浅き溜まりに、夢幻な無限が映される。発するであろう言霊が、ホログラフィーの似通った佇まいをあやす。神は賽子を振らない。神に似た子供が、夢を馴染ますのだ。



 P3

 古坂大魔王が売れて良かったなぁ。なんてことを陽子は考えつつ、コップを置く。
 今はいつもすぐに過去となる。未来はいつも良くも悪くも驚きに溢れ、想像を超える。
 TVはピコ太郎から切り替わって、宇多田ヒカルとKOHHとかPUNPEEのコラボを映す。
 不意に、陽子は初期微動のような震えを、足裏で感じる。
 4/16から繰り返す錯覚。
 天気予報は寒波の到来を告げていたから、陽子はPコートを羽織る。
 TVを消す直前にASKAが映る。
 フォルテでもピアニシモでもない、ピアノぐらいな強さの人生。山も谷も無くて、ちょっとだけ宙を離れて飛ぶライフ。
 が、ちょうどいい。自分には。陽子は考えて、全部忘れる。忘れられることだけを、忘れる。
 そういえば。と、陽子は玄関を閉めつつ、思い出す。
 解散しちゃったな。SMAP。



 P4

 休み時間のたびに、彼Qはうちの教室にやってくる。私Aの前の席が空なのを見て、あからさまにがっかりした顔をした。
「彼女Pは? どこ行ったの?」
「さぁ、わかんない」
 首を振ったけれど、本当は知っている。彼女Pは彼Bに会いに行っているのだ。次の授業が始まるギリギリに戻ってくる彼女Pは、いつも楽しそうに彼Bの話をするから。
「すれ違いばっかりなのに、なんで彼女Pを追いかけるの?」
 前から不思議に思っていたことを聞くと、彼Qは真剣な目で、
「そういう宿命なんだ」
 そして照れ隠しなのか、笑って付け足した。
「君Aにはわからないだろうけどさ」
「宿命……」
 その言葉はすとんと私Aの心に嵌った。
「わかるよ」
 私Aは大きくうなずく。目を瞠る彼Qに繰り返す。
「よくわかる」
 計算によると、彼Qと彼女Pは三日に一度は会うことができる。でも、私Aと彼Bはいつまで待っても出会えない。彼女Pは休み時間ごとに彼Bに会いに行けるのに。
「そういう宿命なんだね」
 ため息と一緒に飲み込むと胸が詰まった。



 P5

 広大な綿花畑の中を汽車が走る。
 車両の一番後ろで、膝上のギターに頬杖をつき、チャーリーは外をぼんやり見ていた。綿花畑は地平線まで続いている。
「坊主、『えんどう豆』に乗るのは初めてか」
 恰幅のいい男が、隣に座って話しかけてきた。
「ほれ、吸えよ」
 差し出された煙草をくわえ、チャーリーは訊ねた。
「おじさん、この汽車なんで『えんどう豆』なのさ」
「ああ。何しろだだっ広い農場だ。仕事場までの線路があっちこっちに敷かれてる。それが豆のつるみたいだってんで、そう呼ばれてんのさ。坊主、弾けんのかい」
 男がギターを指差した。
「練習中だよ」
「まあな、俺たちみたいなのは、一生農夫でいるか、流れ者の芸人になるか、さもなきゃ……」
「檻にぶち込まれるか、だろ。知ってる」
「どれ、ちっと貸してみな」
「弾けんのかい」
「練習中さ」
 轟々と動輪は鉄の上うなる。蒸気の音が拍を刻む。男の演奏に、チャーリーはおもわず身を乗りだした。
 汽笛が鳴り、汽車はゆっくり停車する。
「おじさん、ギター教えてよ」
「気が向いたらな」

 チャーリー・P・トウェインの『えんどう豆』、年代物のレコードが回る。ノイズの向こうに黒い煙が噴き上がる。



 P6

 見たことのない文字であつたが子葉に似て可愛らしく思えたので育てることにした。いつか背が伸び葉が太りめきめきと生長していくだろう。指で撫でる赤ん坊の手指の爪ほど小さき彼が体積を増し容姿を変えやがて大きき樹の字となれば君がこんなに随分込み入つた体を持つようなことは当時想像の外であると揶揄(からか)つてやろう。月日の経つのの愉しみなことだ。むろんというか彼(か)の字は私において子葉に似た意味を付帯する。思い入れがあればこそ細事に見分けし書体によつて今度は感情を伴いその状態を診断する。否。いま彼を寂しく感じるのは他ならぬ。無意味のものが私を通し意味と情緒を帯びる不思議はともあれ愛憎に似ている。
 見たことのない文字で綴られた本であつたがその所々に彼が在るから筆者よりも私に寄りの書物となつてしまつた。人と人の擦れ違う訳である。
 赤ん坊の手指の爪ほど小さき彼の字たちが体積を増し容姿を変えやがて大きき樹が立ち並ぶ。頭をやわらかく撫でる。そうして、初め君を見たときは思いも及ばなかつたのだと揶揄う。



 P7

 パンケーキ屋は平和だ。壁にはサヴィニャックのエッフェル塔のポスター。窓から入る冬の日差しがテーブルにプリズムを落としている。
「いい匂いね」
 ピンク色のセーターを着た彼女が完璧な笑顔で僕に言う。ゆるいパーマの髪からのぞく真珠のピアスは、先月の誕生日に僕があげたものだ。彼女のパンケーキはなかなか来ない。僕は気持ちを落ち着かせるためにペリエを一口飲む。
「Pばっかり」
 唐突な彼女の言葉にうまく反応ができなかった。かまわず彼女は歌うように続ける。
「PはピストルのP」
 思わず息を止めて彼女の顔を見た。見事な無表情。心臓が早鐘を打つ。
「プレゼントはピストルがいいわ」
 何のプレゼント? とは恐ろしくて聞けなかった。待ち合わせの時からそんな気はしてたのだ。やっぱりばれている。
「……そんなもの、どうするの?」
「ポケットに入れておくのよ。お守りがわりに」
 射貫くように僕を見てくる。口の中が乾く。ペリエの瓶に手を伸ばすが、口に運ぶことができない。
「気づいてる? いい匂いね、その香水」
 無表情のまま、彼女の口の端が美しく上がる。
 完全に撃ち抜かれた僕は、ただただ彼女のパンケーキが運ばれてくるのを待っている。



 P8

「……ポップフライ」
懐かしいねー、ってヘラヘラ接客してたらふっと真顔になっていう。
「ねえ。あなたって、内野フライみたい」
昔よく、一緒に野球に行ったな。ドームの天井に届きそうな飛球を二人で見上げて
「なんで地元帰んなかったの?」
東京で出会って、付き合って、しばらくして、別れて、彼女は地元で就職して、僕は
「東京で一旗揚げるつもりが、こんな常磐線で一本のところにいるんだから、日本せまっ」
彼女は好きだった笑顔を見せて、僕はバイトの制服をいじりだして、
「あなたの場合、Jターンっていうのもなんか違うよね、Pターン? お菓子みたい」
 見たことない財布から支払いして店を出て行った彼女の背中を見ながら、ポテンヒットあるかもよ、なんて冗談も言えず、果たしてボールがフィールドに落ちたら僕は走れるのか、どこに? ベンチにも戻れねー、監督もいねー、っていっそ誰か捕球してくれよ。ライ麦もねー、子供でもねー、レンコン畑で泥まみれで抱きしめてくれよ。



 P9

 夜空の星が全て落ちてきた。
「実は宇宙は一つの大きな果樹園ですから」
 天文台に問い合わせると職員はそう答えた。いまひとつ納得できなかったけど落ちてきた赤い星を一つ手にすることができたので納得しておくことにする。
 それをかじると、瞬間的な華やかさが口に広がった。のち、寂しく衰退していく感覚。自然に涙が落ちるような、不思議な味だった。あるいは、慣れ親しんだ味なのかもしれない。
 一方、実の落ちる季節の終わった夜空には新たな星たちが輝くようになっていた。いずれも星一つの形がPの字。だと思う。自信がないのは星が大きかったり小さかったりするから。Cの字だと視力検査ができそう。
「だからといって、太陽はじっくり見ないでくださいね」
 問い合わせた天文台職員の言葉。
 はっと気付いて見上げた東の山から昇った太陽は、Pだった。
 まったく見たことのない光景。
 新しい朝だ。
 どこか心の弾む新しいPちにちが、始まる。



 P10

 部屋は密室だ。宝物のPは、百人の警官隊によって包囲されている。文字通り蟻の這い出る隙間もない。犯行予告時間まであと三分。気をぬくな。やつは、どんなものにでも姿を変える。警部が叫んでいる。明知探偵の眉目秀麗な横顔が曇る。今回は妙な不安感がある。昨夜、彼は助手の少年を抱いた。もしも怪人二重面相が、人間ではなかったとしたら?何か、それ以上のものであるとしたら?慥かに、二重面相は変相の名人です。どんなものにでも姿を変える。いったい彼の真の宝とは何なのでしょうか?その意味について真剣に考えたことが、明知は一度もなかった。笑うだけで少年の問いに答えなかった。時が来た。大時計が鳴った。ぐにゃり。部屋が形を変えた。蟻の這い出る隙間もない包囲網をかいくぐる。一匹の蚤が夜闇に跳躍する。その腹には、百人の警官と明知探偵を入れた部屋がおさまっている。口から、目当ての大粒のダイヤモンドを取り出した。消化が始まっている。美しい少女の姿になっている。この次元でほしいものは、すべて手に入れた。愛する明知をも、ついに自分のものにした。手で腹を撫でた。Pの指輪をはめた。



 P11

黒い蟻塚の中に小型人類の要塞が築かれていた。小型といっても、それは原人類の基準のはなしであって、小型人類と呼ばれている側にとっては意に介さず、彼らこそが適正なサイズであるかもしれなかった。
 彼らの目には空の彼方から飛来する様々な光線が見えた。それは色を持たず質量すら持たない、かそけき線であり一定の波長があった。そこに一定の法則があることを彼らの中の異常進化した知性がある天才がつかんだ。
 その光線は手紙のようにメッセージを伝えていたのだ。 蟻塚の中の要塞で会議がひらかれ、メッセージの内容について検証、解析が進められた。それがどのような高次の内容であったかは知る由もないが、数日もたたぬうちに塚の中は空洞になっており、偶然真下から地盤を抜いて飛び出た土竜がその空洞に充満する寒気に驚いて、すぐさま引き返し地中深くへと逃げ潜っていった。



 P12

 父が死ぬまでの数年間、私たち姉妹は洞窟の中で暮らしていました。悪い人に見つかると殺されるからと言い聞かされて、世間から隠れて生活していたのです。
 ざばん、ざばんと絶えず波の音が聞こえてきます。外に出ることが許されない私たちにとって、この波音と洞窟の入口からわずかに見える青空だけが、世界の変化を教えてくれる窓でした。
 とりわけ楽しみにしていたのが夜です。空の青もしくは雲しか見えない昼間とは違って、晴れた夜には星明かりが洞窟の奥まで届きます。私たちは、目に映る限られた星々を結んで勝手に名前を付けていました。
「お姉ちゃん、また『P』が見える季節になったよ」
「ホントだ。またあれが食べれるね」
 夜の長さが一番長くなると、Pの形をした星座が現れます。すると父は、私達にお餅を持って来てくれたのです。だから私たちは、夜空にPが現れるのを楽しみにしていました。
 ある朝、父は冷たくなっていました。私たちは、ようやく洞窟から出ることができたのです。
 今でも正月の夜に北斗七星を見上げると、姉と見た星空を思い出します。



 P13

近頃、町のあちこちでPという看板を見かける。駐車場ではなく店の名前でもなく電話番号や地図があるわけでもなくただPと書いてある。
不思議に思って後輩に「Pってなんだ?」と尋ねたら「あれはイイっすよね!」と満面の笑みで返された。
娘に尋ねると「知らないの?マジで?」と真顔で見つめられた。
妻に尋ねると「イヤだ、あなたったら」と顔を赤らめられた。
テレビで女性タレントが「本当に癒されますよね」と目を細めていた。
近所の小学生が「マジすげー!かっけー!」と走っていった。
帰宅途中、私は街角のPに触れてみた。
おおぅ。なるほど。いや、これは。なるほど。



 P14

 午後になっても教授からの連絡はなかった。研究に没頭すると講義を忘れるのはいつものことだけど、スポンサーへのプレゼンはそういうわけにもいかない。
「教授ー」
 実験室の扉を開けた途端、僕はバランスを崩して転んだ。そして床を滑り始め……うわわわわ。とっさにつかんだパイプにしがみついたが下半身はまだ引っ張られ続けている。その方向へ、視線も惹きつけられた。
「教授!」
 実験室の奥、僕らの開発している機械に教授が貼り付いているのだ。しかも普段はダブついた白衣に隠されているその完璧なプロポーションが半ば露になった状態で。教授がもがくたびに服のあちこちがめくれたり破けたり。羞恥からか頬は桃色に上気していた。
「軽く試運転のつもりだったんだ」
 どうやら強力な磁力が発生しているようだが教授はいったい何を……思い浮かべたモノを物質化するこの機械、サイコ・プリンターで。いつもの様に無作為に選んだ頭文字カードから単語を想像したはず。あの胸ポケットのカードから……あの胸の。
 不意に目の前に何かの形が現れ始めた。それは、いつの間にか開いていた僕のジーンズのジッパーから情熱的に突出したモノによく似ていた。



 P15

初めて会ったのは池袋だった。上京してきて最初に降り立った駅。西口の大手不動産屋でワンルームの鍵を受け取って駅に戻ったとき、時間を聞かれて馬鹿正直に答えた。「一人?」と聞かれ、曖昧に会釈してその場を離れた。「これがナンパか」と田舎者はちょっと感動したものだ。目が合ったとき小さなシンパシーを感じた自分を恥じた。勿論、その後に他の街、他の人に声を掛けられたのは、どれも不快でしかなかった。

数年後の池袋。「Pが来た!」と口々に叫びながら人々が逃げてくる。私も押し流されながら振り返る。ヌッポリと人波の後ろから突き出た頭は随分と皺だらけで、瞼も唇もない。でも。「あの人だ!」

そういえば私も、クラスメイトから名前で呼んでもらえなかった時期があった。放送禁止用語みたいに「ーーが来た」と言ってみんな逃げた。そうか、仲間だったんだな。逃げながら納得する。



 P16

 箒星Pが夜空に現れ、凶兆だ、と国中が混乱に陥った。
 王は動じた様子を見せず、国が亡びることはないと宣言するが、国の混乱は収まるどころか激化の一途。国中の学者が王宮に集められた。
 天文学者「周回する彗星です」。
 数学者「予測可能です」。
 軍事学者「他国の動きに不審な点はありません」。
 政治学者「扇動家の力は一時的です」。
 医学者「流行り病が広まりつつあります」。
 哲学者「人は明日死ぬことを恐れます」。
 経済学者「今日のパンを賄うことも困難な人々がいます」。
 歴史学者「文献の調査が終わりません」。
 神学者「神は全てを愛します」。
 王は学者たちの言葉を参考に、緊急声明Sを公布した。緊急声明Sは広まったが、混乱は続く。
 森で暮らす魔女のターシャリーに白羽の矢が立った。
 ターシャリーは薬草を燻し、国中にその煙を振り撒いた。王や学者を含む国中の人間は煙を吸い込むとその場で寝入ってしまい、国はようやく静けさを取り戻す。人々はこんこんと眠り続け、眠ったまま餓死する者が出始める。

『箒星Pはただ定められた軌道を進み続ける』
 亡びた国で魔女が綴ったとされる文書には、そのような記述がある。



 P17

 白い部屋のなかでわたしは匿われている。あるいは、閉じこめられている。
 頑丈な扉の鍵が開けられ、あなたが来る。あなたは銀色のトレイをわたしの前に置く。
 あなたには味覚がない。あるいは、食物を口から摂取する必要がない。わたしはトレイの上に置かれた金属のスプーンを手に取り、鮮やかな色のゲル状のものを口に運ぶ。
 あなたがわたしのほうへとそのシリコンの手を伸ばし、わたしの髪を撫でて笑む。
 わたしの身体は生まれてからこれまで、ほんの一部分の改造すらなされていない。この閉ざされた建物のなかで注意深く育てあげられた完全体の P。わたしの生きる価値はそれだけ。自由は全くない。完全に滅菌されたあなたとこうして交わる以外は。
 「外に出てみたい」
 そう言うと、あなたはさみしそうな顔をして、厳然と首を振る。わかっている。あなたはただ、わたしに仕えるためだけに遣わされた存在。そのためだけに産み出されたもの。
 そしてわたしは、あなたたちが最後に残した絶滅寸前の種。わたしは絶望しない。わたしはただ生き続ける。パーフェクトに。



 P18

 お子様ランチの唐揚げがもぞもぞと動いて、脱皮しようとしている。色白の肌が見えたかと思うと、女王はぞろりと小麦色の衣を脱ぎ捨ててしまった。「ちょっと! お腹が空いているんだよ!」とぼくが言えば「ここはわたしの王国である。何人たりとも侵略することは許さない」と言い返してくるではないか。ポテトフライに手を伸ばしたぼくのフォークにプラスチックの爪楊枝で挑んでくるし、コーンスープに向けたスプーンはナポリタンの網で絡め捕ろうとする。あまつさえエビフライのシーソーでグリーンピースの大砲を撃ってくる始末だ。これは長い戦いになりそうだとため息を吐きながら、ぼくはチキンライスに刺さった旗の横でふんぞり返る女王の熱が冷めるのを待っている。



 P19

 チョット、足を引っ込めてみたのでR。



 P20

一連の事件の犯人は誰もが羨むセレブ妻だった。連日マスコミが騒いだバツ3のシングルマザーでは無くて。
逮捕された時彼女は微笑んでいた。手錠はゴージャスなブレスレットにしか見えず、余りにもらしく無かった。こんな結末は誰も予想できなかっただろう。
裏門から出るのに駐車場を抜けようとしたら事件解決の立役者がいた。
「お疲れ様です。」
「…あ、お疲れ」
「大活躍でしたね」
「…活躍っておい」
「いつから疑っていたんですか?」
「…」
「驚きましたよ。まさか…」
「最初からだ」
「え?」
「と言うか犯人ならおもしれぇなと思ってな」
「は?」
「嫌いなんだよ、ああ言う女。何もかも持ってやがって…ムカつくんだよ」
おいおい。
「そう思って調べてみたら全てのピースが繋がりやがった…ざまぁみろ」
絶対私怨だな…。
「酷いな。結局は見込み捜査ですか?たまたま上手くいったから良かった様なものの…」
「よく言うよ。シンママの事、マスコミにリークしたのお前だろ?」
お見通しかよ。
「いや~、バレてました?その方がいかにもだと思って。世間も納得する…いやしてたでしょ?」