超短篇・500文字の心臓

作品発表(2021年07月02日更新)

第182回タイトル競作『INU総会』作品一覧

選評締切:2021年月7月11日(日)選評掲示板



作品募集2021年06月08日更新)

第182回タイトル競作『INU総会』投稿方法

募集締切:2021年06月20日(日)



集計結果(2021年05月25日更新)

第181回タイトル競作『三階建て』集計結果

作品一覧





タイトル競作 正選王受賞作品

 三階建て12 作者:磯村咲

 老いた住宅は薄れゆく記憶を行ったり来たりしている。あの子が三階建てに住みたいと言い出したのはたしか中学に上がった時だった。住宅が建っているのは傾斜地を造成した「ニュータウン」だ。ニュータウンの子供はニュータウンの小学校に通っていたが、中学校は学区が広がりニュータウン以外の子供も一緒になった。遊びに行った新しい友達の家が三階建てだったのだ。 三人家族に三階建ては必要ないよと言う父親に、おじいちゃんとおばあちゃんも一緒に住めばいいとあの子はごねた。この家のローンがあるよと父親は笑ってため息をついた。

 あの子は大人になりここを出て戻ってこなかった。ローンを払い終えた親たちもいつしかいなくなった。同様に遺棄された家が周りにいくつもある。
 老いた住宅は見たことのない三階建てを思う。しっかりした地盤が必要な頑強な建物。そこには三世代が住むという。
 夢の中で造成地の果てにある住宅崖を登っている。登りきれば三階建てになれるのだ。



タイトル競作 逆選王受賞作品

 三階建て2 作者:つとむュー

 私は『アスリートのお宅拝見』という番組のキャスター。都内のある場所に来ている。
「さて、今日のゲストのスポーツは何でしょう?」
 実は私も知らされていない。建物を見て予想する様子も番組の一部なんだそうだ。
「この家は……」
 多くのアスリートの自宅の中にはトレーニング室があり、そこで種目も予想できる。が、今回は外からも種目が丸わかりだった。
「壁に沢山のホールドが付いています!」
 そう、三階建てのコンクリートの外壁には壁を登るためのホールドが無数に付けられていたのだ。
 そこでアスリート本人が登場。案の定スポーツクライミングのオリンピック代表、野口中選手だった。
「野口中選手はこの壁を毎日登られているのでしょうか?」
「もちろんです。そのための三階建てですから」
 私は建物を見上げる。
 屋上までかなりあるしオーバーハングもある。これを毎日登ったらかなりの練習になるだろう。
「それでは中も拝見させていただいてよろしいでしょうか?」
「もちろんいいですよ。ではこれを付けて下さい」
 野口中選手は私にハーネスを差し出した。
「といいますと?」
 彼女はニコリと笑うと私に言ったのだ。
「玄関は屋上にありますので」


タイトル競作 逆選王受賞作品

 三階建て9 作者:脳内亭

 新種の貝が発見されたという報はまたたく間にヤドカリ界を駆け巡った。
 有史以来、平屋建てにしか住んだことのないヤドカリにとって複数階の住居は永遠の憧れであった。それが二階を一気に飛びこえ三階建ての発見である。誰もが狂喜し、我先にと新種の貝を探し回った。しかし、ただでさえ発見されたばかりの稀少な代物、空き家となればなおのこと。凄惨な殺貝事件が起こるのは必然であった。
 事態を重く見たヤドカリ政府──否。彼らとて例外ではないどころか、権力を振りかざしてより狡猾に我がものとすべく暗躍した。発見されたのも束の間、哀れな貝は絶滅まで時間の問題であった。

「いいか、絶対に動くな。奴ら狂ってやがる。見つかったら最期だ」
「……あなただって、わたしのカラを狙ってるんでしょ」
「ああ。おまえが幸せに生きて、天寿を全うしたらな。それまでは誰にも奪わせねえ」
「……あなたもヤドカリなのに、どうして?」
「話はあとだ。奴らが来る、いいか、何があっても隠れてろ!」
「あっ……!」

(外殻じゃねえ……おれは……おまえの中身に……!)

 ──長い殻をゆらし、老いた巻貝は後に語る。その時の彼はまさしく韋駄天の如き速さであったと。