超短篇・500文字の心臓

作品発表(2019年09月12日更新)

第172回タイトル競作『しぶといやつ』作品一覧

選評締切:2019年月09月23日(月祝) →選評掲示板



作品募集(2019年08月23日更新)

第172回タイトル競作『しぶといやつ』投稿方法

募集締切:2019年09月1日(日)



集計結果(2019年08月12日更新)

第171回タイトル競作『おしゃべりな靴』集計結果

作品一覧





タイトル競作 正選王受賞作品

 おしゃべりな靴8 作者:磯村咲

 今日は時間がかかっているな。朝ごはんを食べ終えた後、前日持ち帰った上履きとバケツを抱えて庭に出ていった娘が小一時間戻ってこない。小2になったばかりの彼女が言われもしないのに毎土曜日自分で上履きを洗う習慣を身につけたのには頭が下がる。が、そこは小2、何か違う遊びでも始めちゃったかな。掃除を終わらせて覗きに行く。
 キャンプ用の折畳みの小さなイスに小さな背中が丸っこい。頭越しにそっと様子を窺うと、左右の手にそれぞれ爪先を上にした上履きを持ってバケツの水に沈め、気泡が連続するように操っている。なるほど、こんなことをしとったんかい。左右の上履きから交互に泡があがるのは会話のようでもある。
 「お話しているみたいだね。」
 声を掛けると、娘は顔をぐいっと上げて頭上にある私の顔を見つけ、にこっと笑って、すぐにまた手元の上履きに注意を戻した。よっぽど面白いのだなとしばらく見ていると、上履きは徐々により深く押し沈められ、気泡もごぼっごぼっと苦し気なものになっていく。そしてひときわ大きな泡がごぼっと上がり、手を止めた娘が内緒話めかして言った。
「男子に投げられたりするから、上履き、もう学校行きたくないんだって。」



タイトル競作 逆選王受賞作品

 おしゃべりな靴1 作者:海音寺ジョー

上流からまた草履が流れてきた。弟がベイトリールを巧みに操ってスピナーで引っ掛けて回収する。上流に遊泳場があって、子供が油断して流してしまうのだ。色とりどりのビニール靴。ミュール。浮き輪。弟はきりがないなーという顔になってきた。魚籠の中は空。足元にはカラフルな漂着物。高価そうな靴もあった。
「エスパドリューだな」
「兄ちゃんは物知りだな」
 スニーカーも流れてきた。
「靴屋が開けそうだな」
ぼくが軽口をたたくと、弟が面白がってそのスニーカーもルアーで引っ掛けて岸に戻した。
「でも全部片方しかねえよ」
「そうな。でも水木しげるの妖怪図鑑に出てきた、一本足の妖怪には売れるかもよ」
「はは、あの妖怪、何てったっけな?」
「何か良い名前が付いてたけど、ぱっと思い出せないな」

 妖怪の名を無心に検証してると、まだ竿にぶら下がってるスニーカーが「カカカカッ」と高笑いした。二人びっくりしてると、スニーカーの中からビョッと見事な大きさの鮎が跳ねた。