集計結果(2019年12月08日更新)

作品発表(2019年11月09日更新)

作品募集(2019年10月19日更新)

■ 第173回タイトル競作『共通点』 →投稿方法

タイトル競作 正選王受賞作品

アルシーシュルキュール洞窟群には、鳥魚野牛マンモスなどの壁画が百点以上ある。成立年代は三万年前。
絵は洞窟の奥の特定の場所に集中して描かれているが、最も深い絵画群は1?の深奥にあり、いくつもの難所を越えていかねばならない。
洞窟の奥に火を焚いて長時間とどまるのはリスクもあっただろう。足場の悪い危険な場所もあり、「ここで描く」と決めるにあたって、明るさ描きやすさより優先される重要な条件があったと推測されるが、定説はなかった。
90年代半ば、パリ大学の民族学者イゴール・レズニコフは歌いながら洞窟を踏査し、絵画群の位置は洞窟の中でも特段に反響の豊かな場所であることをつきとめた。
太古の絵描きたちはきっと、歌いながら描いたのだろう。響きによって開かれるものがあったに違いない。
レズニコフは探索を続け、洞窟の中で最も反響が美しい立ち位置を見出す。
「ここだ!」
そう思った彼がふと足許に目を落とすとそこに、
「ここだよ!」
というように、赤い顔料の点がひとつ、打たれていた。
耳の良いネアンデルタールとホモサピエンスは、同じ位置に立ち、同じ響きに耳を澄ませた。
シルエットは重ならなかったかもしれない。なんだか女の子だった気がするので。
タイトル競作 逆選王受賞作品

度胸試しが宏の仲間内で流行り出した。「川向こうの外人団地な」「あそこに一人で乗り込んで『掃除当番』札を盗ってきたやつが俺たちのリーダーだ」まとめたがりの丈が、もうこのゲームをやることが規定事項のように仕切り始めた。僕らの住んでる町から、その外人団地はくすんで見える。老朽化した公団住宅。本来なら取壊されて然るべきだが無計画な外国人労働者受け入れ政策の煽りを食い、雑居ビル化して今に至る。多国籍の日雇い人たちの根城となってて、大人でも怖がって近づかない。「おい、あそこはやばいだろ」「昨夜も銃声が聞こえてきたわ」反対者もいたが、所詮は小学生だから好奇心が勝った。
夕方に決行すること。ゲートまでは全員で行き、二人組で三手に分かれる。など現実的なプランが固まってゆく。
「じゃあ六時半になったら、絶対にゲートに戻ることな」「よしわかった」僕は健と組んで暗い電燈の団地通路を足早に移りながら、先週から学校に来なくなったリラが此処にもしかしたら住んでて、鉢合わないだろうかと期待した。会うことは叶わなかった。木札は健が手に入れたものの、それが何語で書かれていたか判読できなかった。