超短篇・500文字の心臓

集計結果(2019年10月03日更新)

第172回タイトル競作『しぶといやつ』集計結果

作品一覧



作品発表(2019年09月12日更新)

第172回タイトル競作『しぶといやつ』作品一覧

選評締切:2019年月09月23日(月祝) →選評掲示板



作品募集(2019年08月23日更新)

第172回タイトル競作『しぶといやつ』投稿方法

募集締切:2019年09月1日(日)





タイトル競作 正選王受賞作品

 しぶといやつ8 作者:水琴桜花

 追いつけないとわかっていながら、アキレスは亀を追いかけていた。
 彼らの間に、浮浪者のような格好の男が割り込んできた。アキレスは訊いた。
「お前は誰だ?」
「私は神だ」
「そうか。神か」
 アキレスは男を無視して、亀を追いかけようとした。しかし、見失ってしまった。
「飛んでいる矢は止まっている」
 神は、弓矢を射るポーズを取った。アキレスは立ち止まって相手を眇めた。ふいに意地悪な考えがよぎった。
「本当に神なら、自分が持ち上げられない石を生み出してみろ」
「お安い御用だ。ほれ」
「……石はどこだ?」
「そんなものはない」
 アキレスは苛々した顔で詰め寄った。神は半分遠ざかると、宥めるように言った。
「私は、何でも知っている」
「“何でも”は知らないだろう。知っていることだけで」
「知っていることが“何でも”になる」
 アキレスはその場で腕を組み、神の言葉について考えた。すると、後ろから亀が追いついた。
 亀は矢を咥えていた。アキレスは踵をつつかれた。
「こういうのって、有りなのか?」
「有りだ」神は言った。「故に、無しだ」
 亀は再び遠ざかっていった。アキレスは痛む踵に力を込めた。追いつけないとわかっていながら、それでも彼は、歩き続けた。



タイトル競作 逆選王受賞作品

 しぶといやつ1 作者:雪雪

「母さんが大人になる頃きっと会いに来るよ」

春先、ニムラが王の右腕を奪い〈地平の扉〉が分析しランベント兄妹が作戦を立案した。
王の細胞は殺せない
ゆえに王を
ナノワイヤの多重格子で単独では再生できないサイズに細分
36機のドローンに分載
激しく攪拌しながら放射状に散開
微量ずつ散布した(吸血素は空気感染も接触感染もしない)。
王の断片は24時間以内に核となる20グラム以上の塊を検知しないと休眠する。
果たして24時間後、有史以来初めて王の不在が確定した。

右腕からは分からない、一個でも意志を失わない細胞が私を救った。
古い話になるが王たる私と眷属を狩る最強の組織を創始したのは私である。資金も潤沢に提供し危険な才能を見出すと確実にリクルートした(この上なく幸せにし、それをこの手で奪うことによって)。私の能力は高過ぎて、危機感がないと衰えてしまうのだ。
春から夏にかけて母は長旅をし、私の断片を集めてくれた。今はもう、ひとりでに集まってくる。遠くへと伝言するように覚醒しながら。

眷属を根絶するため組織は存続しているが、それももうすぐ終わる。
そんなある日、報せが届く。
田舎町の小さい産院で性経験のない少女から堕胎された三ヶ月の胎児が何か言い走って逃げた、という報せが。