作品発表(2023年05月10日更新)
作品募集2023年03月31日更新)
■ 第190回タイトル競作『五月雨式』 →投稿方法
集計結果(2022年11月03日更新)
タイトル競作 正選王受賞作品
綺麗な町の外れに雑言ひとつ吐かない小鬼が住んでいて、口からぽろぽろと綺麗な氷の言葉を吐き続ける。陽光を受け八方に煌めく氷の言葉は、昼の温みで即座に形をなくし地に落ちる。溶け落ちた氷の言葉は土中に沈み、ひっそりと冬を待つ。
深い冬の底で形を得た氷の言葉が地を持ち上げる。不規則に隆起した地の塊は、世を謳歌していた町人の家屋を倒し、田畑を割り崩す。地の隙間から湧き出た氷の言葉は、今や数え切れぬほどの悪口雑言。陽光を吸い取り八方に暗影を投じ、大音声で地に満ちる。
氷の言葉を寝床に地から生まれ出ずるは小鬼の卵塊。時を移さず湧き出た小鬼たちは八方に飛び散り生を得る。小鬼たちは手に持つ火箸で地の氷を捕らえ、背に負う甕を満たしていく。囚われの氷は甕のなかで騒ぎ回り、割れ崩れ小片となり形をなくす。小鬼たちは溶けた水で満ちた甕を背に町中を移り歩き、ぽつりぽつりと小屋を建て暮らし始める。
雑言ひとつ吐かない働きものの小鬼たちは、田畑を起こし、甕に溜めた水を撒く。小鬼たちは綺麗な氷の言葉で綺麗な町を築きあげ、楽園を探し求める数多の人を呼び込み。
ひっそりと、冬を待つ。
タイトル競作 逆選王受賞作品
最近奴は融の部屋に籠っている。私のお古のPCに入れた教材のツールでゲーム作成を試みている。存在を融に気付かれていないのをいいことに結構やりたい放題で、自分のアカウントも持っているのだ。
融が生まれた時嬉しかった。ずっと、家族の中で奴が見えるのは私だけだった。私の子供なら奴が見えるのではないか、そう期待した。思いは奴も同じだったようで、融が物心つく前から色々いたずらを仕掛けていたが、努力空しく視界に入れられないまま今に至る。その過程で人の子向けのコンテンツの威力を思い知ったらしい。ランドセルの中身を入れ替える等の古典的ないたずらをやめて、自分をキャラ化したゲーム作りに着手した。だが進捗は芳しくない。本を介して移動する特殊な能力を持った奴でも、IT技術には馴染み難いのだ。今のところ融の方が先を行っている。
私が融のPC利用を遠隔で管理するついでに、奴のアカウントを覗けることに奴は気付いていない。パスワードがまんま名前なのだが、私が奴の名前を知っていることも知らないだろう。昔話の頃から変わらずセキュリティが甘い奴だ。