500文字の心臓

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短さは蝶だ。短さは未来だ。

ものがたりの最小単位

 このサイトでは、500文字以下のものがたりを超短編と読んでいます。しかしひとくちに500文字以下といっても300文字のものがたりもあれば、50文字のものがたりもあります。それらのなかでも、きょうはもっとも短い1行超短編のお話をしたいと思います。
 超短編の中でもとりわけ短い1行、あるいは2行のものは、全体の投稿数からみれば、じつはそれほど多くはありません。競作でもそれほど見かけませんし、自由題への投稿でもそれはおなじです。ひとそれぞれ、あるいはものがたりによって適当な長さというものがありますから、無理に1行にこだわることはありません。しかし、1行作品には超短編の魅力が濃縮されているように思います。それは、もうこれ以上短くできないという、ものがたりの最小単位としての性質に関係したことなのかもしれません。そんなわけで、ふだん1行作品を書かない方にも、たまには1行作品に挑んでほしいと思うのです。

 しかし、1行はむずかしいという声もよくに耳にします。先日の500文字の心臓と千文字世界の合同オフ会でも、はやかつさんから1行作品はどうやって出来るのかという質問をいただきました。そこで去年、言壺(←http://miyako.cool.ne.jp/kototsubo/)が募集した「ミニ掛け軸」へのぼくの投稿作を例に、その創作の過程を振り返ってみたいと思います(掛け軸なのでタイトルはありません)。

 ぼくを山頂につまみ上げたのはあの入道雲なのか


 とはいえ、1行作品はほとんど瞬間的にできるものなので、その過程を再現するのはむずかしい。上の作品では、掛け軸らしい入道雲の雄大な気分を描きたいと考えて、まず視点を山頂にもっていったように思います。そこで、下界と山頂というおおきな隔たりを一気に解消するために、入道雲にえいやっとばかりにつまみあげてもらうことにしました。登場人物は限られておりますので……。このように短い作品は嘘っぽくなる前に読み終わってしまうので、少々荒っぽいことも可能です。もちろん、長い登山の道程を忘れるほど、山頂の見晴らしがすばらしかったという、常識的なおもてのストーリーもそこにはあるわけですが。

 一の字抽出法=漢和辞典を遠心分離器にかけ上澄みをろ過せよ。


 この作品は一転してショートショート的なアイデアが先にありました。つまり、字画数と物質の比重とを結びつけ、字画数の多い文字は底に沈み、字画の少ない一は浮かぶというものです。で、なんでそんなことを思いついたかというと、おそらく掛け軸らしく、書のイメージからの発想だったと思います。どうやら掛け軸という発表の場が、作品におおきな影響を与えているようです。

 大空をすべて詰め込んだ風船が浮いている


 こちらは内と外、おおきなもとのちいさなものをくるっとひっくり返す発想です。一行作品は世界を構成する材料が限られているので、ふだんはあまり力を持たない風船のようなものにも、大空をつつんでしまうほどの大役を与えることが可能です。その意味で材料選びはむずかしいのですが、材料選びさえうまくしてあげれば、そのまま作品に良い影響を与えることになるでしょう。

 以上、創作の過程を思い出しながら書いてみましたが、すみません、自分でもどうやって書いたのか、よくわからないところばかりでした。ともあれ、1行作品は、ものがたりの最小単位、もしくはものがたり以前のものですから、そこからふくらませたり、組み合わせたりして、またべつの超短編世界にたどり着くことも可能です。みなさんもぜひ、超短編の“素振り”ともいうべき1行作品にチャレンジしてみてください。

さて、次回の選者は「発行済みのメルマガはこわくて見ていない」という峯岸さんです。たくさんの投稿をお待ちしております。

選者:タカスギシンタロ 



掲載作品への評

[優秀作品]蜘蛛の糸 :: タキガワ

>  ひらりと君が、目の前を横切ってゆく。

食べたり食べられたりする世界はおそろしい。しかし本来、食べるもとの食べられるもののあいだには、この作品のような愛の関係があるように思えます。殺さず食べるぼくらは愛なく食べている。むしろそちらがおそろしい。



オン・ザ・ロック : 空虹桜

> 「別れたって?」

いくら仕事とはいえ、二人のあいだにグラスを置くタイミングはまことに自然でみごとです。と、感じるのは、きっと作者の文章を置くタイミングがみごとだからなのでしょう。



ずんぐり : まつじ

>  わたくしが独りで道を歩いていますと向こうから、

自動的に書けるような内容からもうひとずんぐりしてほしかった気もしますが、ずんぐりの語感に注目したセンスにちょっとおまけの掲載です。



月蝕 : 北川仁

> 「月蝕の夜は」と男は言った。

作品を構成する材料はきれいなのですが、使い方はややありきたりかもしれません。それでも最後の2行が呼び起こす不思議な感覚を買いました。(誤字と思われるところを訂正しました)



美術室にて : 空虹桜

>  ホントに綺麗な友達をモデルに、

「キャンバス」を「キャンパス」と表記したり(訂正しました)、「?」のあとが一マス空いていなかったりと、文章作法的にはどうかと思うのですが、神経系のごちゃごちゃとしたかたまりを思い浮かべさせるパワーに掲載です。



ハヤブサ : あきよ

>  犬は犬である。

犬とネコ、犬とホタテ、犬とイス……。それぞれのあいだで奇妙にぶれた像を感じさせながら、作品は、ついに犬と犬の意味にさえぶれを生じさせてしまいます。そんなぶれた像の輪を一気に貫き、ほどきながら飛んでいくハヤブサのすがすがしいイメージが浮かびました。ちょっと『100万回生きたねこ』みたいなおはなしではありますね。



掲載されていない作品への評

幻獣

最後の2行がなければ掲載でした。“異形蠢く”などの強い表現は、超短編ではとくに慎重に用いるべきだと思います。



長鳥食

固有名詞を使った超短編はなかなか難しいのですが、長野と鳥取のそれぞれの立ち位置をうまく利用していると思いました。



こんな日には
日本の夏

ふたつまとめてですみません。今回、自由題での掲載は見合わせましたが、どちらもすてきな作品です。相応の場(たとえば作者の作品集とか)であれば、どちらももっとかがやく作品だと思います。



複製

ノイズ、情報、意識を描いた意欲的な作品。タイトルも意味深長です。もうちょっと文章に加速や減速のメリハリがあれば、なお良かったと思います。



壁走り

絵が浮かぶようで、おもしろい。前半は省略しても良かったかも。



アトラス

たいへんスケールの大きい作品で、感心しました。掲載しようかな、どうしようかな。うーん。やめた。