それを意図しようと意図すまいと
表現したい心情があるとする。それをただストレートに言葉にするだけでは、物語にはならない。風景のどこを切り取るか、どの言葉を選んで並べるか、そんなひとつひとつの選択に、なるべく意識的であるようにつとめたい。かといって、技巧を凝らした作品ばかりがいいというわけではなく、なにげない言葉のもつ柔らかさ、力強さに、こころ惹かれる場合もあろう。答えはひとつではない。たくさんある表現方法のなかから「選択」する。この「選択」に多くを負うのが超短編の特徴であろう。たくさんの作品のもつたくさんの表現法を味わい、それを糧にして、新しい作品の表現法を選別してつくりあげていきたいものである。
毎回面白い作品を提供していただき、投稿者のみなさまがたには感謝である。わたしのコメントも、「選択」の結果選んだ言葉ではあるが、まずはそれぞれの作品をめいっぱい味わっていただきたい。作品がなければ選など存在しないのである。
次回の選者は短さという選択をなによりも愛するタカスギシンタロ氏です。
ごはんが食べられない : まつじ
> 他に何もないので白米を茶碗によそって食べていたら
かわいらしくてそして愉快。最後の一文まで話者の米粒に対する愛着がにじみ出ていて笑ってしまった。
道草 : はやみかつとし
> たどり着いたのは地の涯。
地の果てを題材にする作品は珍しくないが、最終文のその描写の充実さにこころ惹かれた。
N極に告ぐ : sleepdog
> N極は最近自分につきまとう不穏な存在に気づいていた。
N 極と S 極との反発というだけの話ならよくある。本作はそこから出発して、独特の結末に持ち込んだところにそのおもしろさがある。
卵に入った猫 : 今井モモタロー
> 猫の入った卵を割ってみよう。
かわいさと気味悪さのあわいで成立している作品。わたしもこんな猫だか卵だかが欲しいです。
もしかめ
作者としては、とくに後半のナンセンスな部分に愛着をもっているのかもしれないが、選評者としては後半やタイトルはさておき、一段目の嘘っぽいうんちくの部分だけでよしと感じた。他の選者はどう感じるのか聞いてみたいところ。
男の子 女の子
非対称性がうまくはまった話づくりがポイント。ここからもう一歩動くとすれば、今度はその非対称性をいかに崩すかというところに重点がおかれると思う。
サラヴァ!
掲載にするかしまいかひどく迷った作品。まずはタイトル。次に一文字あけ。その二つの修飾性に必須と思えるものがあれば掲載にいたった。言い換えれば、わたしにはその必然性が理解できなかった。
アポロ
おもしろい。作品の核である「重大なミス」がどういうものなのか、実は見当もつかないのだが、それを飲む込むだけの物語のおもしろさを本作は育んでいる。