ごはんが食べられない 作者:まつじ
他に何もないので白米を茶碗によそって食べていたら、米が一粒飛び出した。
私が飛ばしたというのではなく、勝手に飛び出して自分で茶碗の縁に立った。立ったと言うからには二本足であるのか米が米なのにと問われればまったくその通りで、よく見なければわからないほど短くて糸のように細い足で思いのほかしっかりと立っているのだ。
何やら言っているようだが、いかんせん声が小さく、聞こえそうで聞こえない。
ああ、ぴょこぴょこ跳ねて何か言っている。
「こらー、お前、この、おそろしい、ひどいやつめ、こらー。」
顔を近付けると、彼は必死で抗議をしていた。叫んでいるようなのが、どうしてもそう聞こえない。
「このー、よくも、食べたな、こらー、返せー、仲間を、返せー。」
聞くと、真面目も真面目の大真面目で怒っているようだが、どうも愉快だ。
シャリが怒っている。シャリ君、憤怒。
などと思っていたら
「こらー、ばかにすんなー、この、ひどいやつめ、このー、悪党、しかし、残った仲間だけでも、とう、オレが、まもるッ。」
言うや否やまた茶碗の飯に飛び込んだ。
「まもるッ。」
美味そうな白米のどこからか彼の声が小さく聞こえる。
まいったな。
道草 作者:はやみかつとし
たどり着いたのは地の涯。こわごわと縁に腰掛けて見下ろせば、ぶらつかせた足の彼方で銀河の雲がゆっくりと夕焼けに染まりゆく。
N極に告ぐ 作者:sleepdog
N極は最近自分につきまとう不穏な存在に気づいていた。きゃつが近づくと、後ろ髪が引かれるのだ。S極の一人には違いない。いったい何者だ。ある時は高級なパフュウムの香りをまとい、ある時は機械油と火薬の匂いを漂わせ、ある時は冬休みのプールにも似た寂しさを発していた。目的は何だ。N極は我が身を想う。財布は厚くない、私怨を買う理由もない、美形でもない、平凡を絵に描いたようなN極だ。己の平凡を呪えというアテツケか。ふん、腹立たしい。尾行だけならまだ良かった。ある晩、駅で最終列車を待っていると、ついにきゃつは行動に出た。ドアが開くと、電車の中から携帯電話が放り出され、N極の足下でこっぱみじんに爆ぜた。自分が落としたかのようで、駅員や他の乗客もN極の風体をいぶかしげに眺める。さぞやドジな姿に見えているのだろう。己の平凡さをまたも呪えということか。最終列車は夜霧に飲まれ、N極の指先で闇夜の淵に消えていった。風が遠鳴り、気も霞む。携帯電話の破片を拾い集め、N極は冷たいベンチに腰かけた。ホームにはシャッターを下ろした立ち食いそば屋が一つだけ。電灯も落ち、眠りを知らないマッチの小箱が柱の陰ですりすりと笑った。
卵に入った猫 作者:今井モモタロー
猫の入った卵を割ってみよう。大きさはニワトリの卵と同じくらい、見た目もほとんど変わらないよ。
猫の入った卵を割ってみよう。仔猫の大きさもヒヨコくらい。ミィミィ鳴いて可愛いよ。
猫は自分で卵を割れないから、割ってあげなきゃ出てこないよ。でも出てくる猫はとっても弱いから、死んでいることもよくあるんだ。可哀想に思う人は気をつけて!
時々、猫身と言って、黄身のようにドロっとした液体が出てくることがあります。それは猫が形になる前に溶けてしまったもの。珍味と言って好んで食する人もごく稀にいるらしいけど、趣味の変わった王侯貴族だけ!可哀想に思う人は食べないで。
卵生の猫は普通食べ物を摂取することができません。消化器官ができていないのです。本当に少数の仔猫だけが水と少しの餌で育ち親猫になります。そんなわけで、猫の卵はとても珍しいのです。
だからとても高価!最近うちのは実験場では、仔猫にとてもうまく栄養を与えて、おかげでたくさんの命を救って親猫に育てました。だいぶ安く買えるようになったよ!買ってみて。そして、猫の入った卵を割ってみよう。ミィミィ鳴いて、可愛いよ!
ウズラ大のも、よろしく。