500文字の心臓

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短さは蝶だ。短さは未来だ。

Final Match / 飛ぶに飛べない鳥の歌
・マ行の音を使ってはいけない         
・ある種の「痛み」が描かれていなければいけない

赤コーナ : たなかなつみ

 体、とろーんとしていくのがわかるのよ。あなたの息が唇が指が、好き。あなたの声が、好き。あなたの体温が、好きなの。
 ふわん、体、浮きあがりそう、翼がはえて、飛んでいきそう、あとちょっと、あとちょっと、ってことはわかるのよ、けど、いや。
 あなたはいい? ね、感じる? いい?
 お願い。ゆっくりでいいのよ。ずっとゆっくり、体を合わせていてほしいのよ。急がないで、お願い。ゆっくり動いていいのよ。
 泣いてるの、あたし? やだ、おかしいね。
 ねぇ。これで、あたしたち、ほんとに、終わりなの? 会えなくなっちゃうの? ねぇ、ねぇ。……あ、いや、いやぁ。んっ。あ、や。ねぇ、いや、いやなの、ねぇ、いや、いかさないで、いきたくないの、お願い、いや、続けたいの、ゆっくり動いて、お願い。
 別れたくない、別れたくないのよ。動かないで。いっちゃいや、いかないで、お願い。いや、いや……ぁ……ねぇ、お願いよ……

青コーナ : 天音

歌を忘れたカナリアは月夜の夜に皮引き千切られる。 彼女は、忘れた歌を必死に探している。歌うこと、うたう歌、どこかに落として探している。歌を探すことが自分を探すことになっている。本当は誰一人として彼女を探してはいない。既に終わっている。 しかし彼女は探し続ける。歌を、自分を。気付いているが探し続ける。それが生きる理由になる。 相変わらず、綺麗に微笑む。邪気なく笑う。 「先生、落ちてないの。どこに落としたのかしら」 悲しそうに僕に問う。 「焦らずじっくりね。僕も気を付けておくから。」 この白い箱の中で永遠に繰り返される。 けれど、ここにいる間だけ、彼女は花のように笑える。 この鳥篭の中では傷つける刺激はない。 ある筈のない歌を探し、自分を探し、心を閉ざす。 狂気には至らない彼女の最期の選択。 僕はただ、傍にいるしか出来ない。