500文字の心臓

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短さは蝶だ。短さは未来だ。

1st Match / 魔術の歴史
・三人称で書かなければいけない
・カタカナを使ってはいけない 

赤コーナ : すぎもと

 俺ハソノ黒光リスル末端カラ体液ヲ滴ラセナガラモ、自ラヲ静シテ、湯沸カシ機ノ膨ラミヲソット触ッタ。ソレダケデモウ声ヲアゲテ、俺ノモノトハ違ッタ種類ノ液体ヲ滴ラセテイル。隣デハ、洗濯機ガ、汚レタモノヲ早クタップリト入レテ欲シイ、ト焦レタ声ヲアゲテイタ。シカシ俺ハワザト気ヅカヌ振リヲスル。蓄音機モ、マダ何モシテイナイトイウノニヤカマシイ声ヲアゲテイル。コレサエ無ケレバ年増ハ悪クナイノダケレド。ソウコウシテイルト、掃除機ガ蠕動ヲ始メテ俺ヲユックリト吸イ始メル。イイ。コレダ。緩急ガ必要ナノダ。洗濯機ミタイニトニカク入レテ、イツノマニカ終ワッテイルトイウノハイタダケナイ。イイ。ソウダ。目覚マシ時計ガ眉尻ヲ下ゲテ、ソノ瞬間ガ近イノヲ伝エテクル。シカシ、マダダ。手デ少シイジッタダケデ携帯電話ガ激シク震エテイル。マダマダ。蓄音機ハスデニ逝ッテシマッタヨウデ横タワッテイルガ、掃除機モ洗濯機モサラニ激シク動キ始メタ。ソウ、モウスグダ。ソシテ、目覚マシ時計ガ激シイ声ヲアゲタトキ、俺モツイニ我慢シキレナクナル、シキレナクナル、シキレナクナル、シキレナクナ……る!

青コーナ : たなか

 師が言葉を発して、それは始まる。すべてはわたしのなかに在る、と。弟子は頷く。
 師の言葉は続く。わたしのなかに不在が在る、と。弟子は肯う。
 弟子の神妙な眼に師の穏やかな顔が映る。師は目を閉じる。死が師を覆う。
 弟子は師から伝えられた秘術を有する。細く尖らせた爪で師の皮膚に線を引く。薄く割いたその下から筋繊維を剥ぎ、血液を絞り出す。食す。すべてを食べきることはできない。けれども能う限りすべてを食べ尽くさなければならない。むさぼり食う。
 死を体に纏う一昼夜の後、弟子は糞をひり出す。師とは似ても似つかないその臭う塊をこね上げ、弟子は人形をつくる。その口をかたどったところから弟子は言葉とともに息を吹き込む。すべてはおまえのなかに在らず、おまえのなかに不在は在らず、と。
 人形は、動かない。弟子は、秘術が途絶えたことを知る。弟子は最後の弟子となり、師となること能わず。やがて、弟子を、死が覆う。
 流れる年月とともに、人形もその形をなくし、やがて砂となる。魔術は砂のなかに隠され、在らざるものとなる。



2nd Match / モーテル
・一人称は女性でなければいけない
・ポルノ作品でなければいけない 

赤コーナ : 白鳥ジン

盗んだセダンでここまで辿り着いた。逃げ場のない二人は、今夜死ぬつもりだ。フロントの男は彼の知り合いだ。しかし、彼女が睡眠薬の瓶を持っている事は知らない。
チェックインした22号室で、二人は最初のセックスをする。

彼女の肌にはシルクが貼り付いてある。彼は、その窮屈な日常を脱がせてやる。解放されずにいた裸体が、意思を持つ。

彼の舌がゆっくりと移動していく。これまで辿ってきた、迷路のゴールを探すかのように。すでに勃起して待っていた答えに、到達する。彼女がねだる。二人の運命が引き裂かれないように。執拗に玩ばれて、彼女はのけ反って身悶える。握ったシーツを噛みながら。相手の体の重みを、互いに感じ合う。押し寄せる快楽のために、息を荒くする。

彼は刃物で人を刺してきた。命令を守らねばならなかった。肉を突き刺す感触に悩む。今夜の場合は少し違っている。堅く漲った生身の棒を、深く挿入するほどに、自由を信じられた。永遠に擦り合わせる、永遠に。濡れた肌と肌を押し付け、抱き合う。力が入る。離れ離れになることなんてできない。

甘い香りと熱気が立ち篭める。ベッドから落ちた瓶が、床に転がって止まる。彼らは二回昇天した。

青コーナ : 天音

ガンガンやって、早く飽きてね。
慣れてしまえば思いの形も変わるから。安っぽいクロスを眺めながら、つい口から出ちゃった。欲しい形が変わってしまったの。
私の体には早く飽きて新しい関係を作りましょうよ。こういうところで楽しむのも良いけどもういいや。いつも、俺のやつらはやる気がないから大丈夫って言ってたよね。
私の卵もやる気はないと思ってた。今日は本当に感じない。肩越しに向こうをみて、数を数えている。早く終わらないかな。
あなたが眠った隙に先に帰る。あなたのことは愛してるけどこれからは待たない。私は私の為の時間とこれからは母性の愛で生きてゆける。来たければついて来てもいいよ。