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Final Match / くちぶえは聞こえない ・「葉」「端」「羽」を使わなくてはならない ・太陽を登場させること
赤コーナ : タカスギシンタロ
ひゅうと音がしました。それはただのくちぶえではなく、村の者しか知らない秘密のくちぶえ言葉でした。ずいぶんと近くから聞こえたはずなのに、声の主は見えません。若者もくちぶえで返しました。 「君はだれだい」 「わからない」 「どこにいるの」 「大きなモミの木の下よ」 「大きなモミの木……これは切り株じゃないか」 さて、ご存知のように太陽はきらきらした光の毛糸玉でできていて、地球をすべて編みくるもうとしています。あるとき、月が古い毛糸くずをひとつ捨てたおり、太陽はかまわず毛糸くずごと編み込みました。むかしむかし太陽を巻いただれかが、糸をつないだ結び目と勘違いしたのです。 「地球は大きな大きな玉だから、編みくるむためには、糸のつぎ目もしかたあるまい」 太陽は気づいていませんでした。彼の編んだ糸は月によって、編む端からほどかれてしまっていることを。 若者はよろめき、手をつきました。それはモミの大木でした。ふとみると、美しい娘がそばに立っています。若者は羽根つき帽を脱ぎ、娘は毛糸のフードを外しました。ふたりはくちぶえを吹きそうになって思わず笑います。そして見つめあい、キスをしました。
青コーナ : 春名トモコ
公園の芝生で寝転んでいる僕の隣で、めずらしく機嫌のいい彼女がくちぶえを吹いている。ひんやりとした気持ちのいい風が流れ、耳元でささやくように葉が揺れる。僕はコンビニでもらったチラシで紙ヒコーキをつくり、寝転んだまま真上に思いきり飛ばした。 まっすぐ空にのぼった紙ヒコーキは、頭上に架かっている水晶でできた虹に突き刺さった。虹はそこから両端まで一気にヒビが走り、七色にきらめく大きなカケラになって青い空から落ちてくる。 秋の透明な日差しがカケラにあたって乱反射し、玉をはじいたような澄んだ音が鳴る。太陽は競うように輝きを増し、光があふれ世界が輪郭を失っていく。 群れていたハトが驚いて一斉に飛び立った。その羽ばたきの音、葉擦れの音、彼女のくちぶえが、虹のカケラにはじかれ、響き、増幅し、まるで万華鏡のように混ざって美しい音色に変わる。津波のように光と音が押し寄せ、溺れた僕は天地すら見失い、もう、息もできないぐらい降りそそぐ音の中でひとつの音色だけ拾うのは不可能で、でも愛があれば彼女をつかまえられるはずだから、僕はまばゆい光の中で耳を澄ます。