1st Match /
あなたからの便り
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恋人がリスになりたがっていると人づてに聞く。知った時、すでに彼は小学生ぐらいの背に縮んで、やわらかそうなしっぽが生え始めていた。 |
あ、その手紙だけは投げないで。それはわたしをつなぎ止める、たったひとつの。 |
2nd Match /
物語の物語
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蒼色の椅子に縛り付けられているタカスギシンタロの前で、ふいに扉が開く。男とも女とも一人とも二人以上とも判らぬ同調者どもが、足音もなく現れる。部屋の中に、あらゆる賞賛や罵声や羨望や無視や蔑視や激励がまき散らされ、それらがやがてひとつの音となって彼の中に満たされると、彼は静かに嘔吐を始める。彼の体を構成する物語の断片たちが、ぎりぎりと彼の喉を引き裂きながら後から後からあふれ出す。断片は蹂躙者たちのつま先を濡らし、膝を超え、鳩尾を浸し、肩に至り、眼球へと迫る。すると、嘆願者たちの眼窩から球体が零れ落ちて、部屋のなかに浮かぶ。さらに彼の生み出す断片は増え続け、やがて困惑者たちは眼球のみになり、それらもついには物語に呑まれる。観察者が消えてなお、物語は生み出され続け、部屋一杯になる。すると部屋もまた静かに嘔吐を始める。ぎりぎりと引き裂かれた扉からまばゆい光の中へ、物語たちは持っていた名も想いも失って踊り出す。足元を見るがいい。物語たちは次の嘔吐を待ちながら、ゆっくりと世界を満たし始めている。 |
キョ。鸚鵡は鳴き、ひとつの物語が終わる。しかしそれはすでに聞いた物語だった。キョ。鸚鵡は鳴き、ひとつの物語が始まる。しかしそれはすでに書いた物語だった。 |