あいさつ
森山東こと、スケヴェ・キングです。今回、ホラー短編の選者をさせていただき、大変光栄に思っております。ホラー小説に詳しくない「ホラー作家」なんですが、超短編の古参メンバーの目で、選ばせていただきました。
全体講評
一文、一文の描写力の高さにまず感銘を受けました。その一方で、高い文章力を持ちながら、作品の持つロジックといおうか、世界観といおうか、それらが妙にひ弱なところがあって、最後の最後で挫けちゃうみたいな作品が思いのほか多かったような気がしました。何でもできる、知っている優等生なんだけど、実行面での頑固さと迫力に欠ける◯なんだか最近の若者気質を反映しているようで、そういう点では面白いのですが、やはり作品ではその殻を破ってほしかったです。
特にストーリー性の強い作品では、複数回、読者を翻弄するのが基本じゃないでしょうか。1回捻るだけじゃ、ダメ。1行ごとに、読者を異なる世界にぐいぐい引き込んでいき、最終行で、ハンマー投げみたいにスコーンと読者を異次元にぶん投げる作品をぜひ読んでみたい! 「自分ができないことを書くな」と言われそうですが、皆さんはその理想に近づけるいい位置にいらっしゃると思います。今回も高レベルでしたが、次回はさらにハイパーなレベルを期待したいです。
♦森山東賞♦
■ホラー超短篇10 舌
> 日曜日の晩い朝のことだ。
どうしようかと最後まで迷いましたが、やはり選ばざるを得ないと思いました。日常に潜む非日常のふとした発見というより、「わたし」も「母」も実は異世界の住人じゃない?という疑念で読者を不安にさせます。そこがよいです。非日常性を際立たせる、日曜の午前のけだるい雰囲気の描写も秀逸。あまりにもうまくて、うますぎるゆえの定番性で、私は迷ったのですが、やはり最後の1行で決めました。最終行で作品としてはさりげなく完結させながら、母の退場の後に何が来るのか、何が起きるのか、不吉な予兆を孕ませたと言う点で、見事なホラーに仕上がっています。
優秀賞
■ホラー超短篇15 恋の行方
> 食後のパフェに彼女は満足そうだった。
「困ったことに、彼女が頭から離れない。」この最終行が私の頭から離れません。アイロニー、ホラー、そして愛情に満ちた一言。これに痺れました。それまでの恋人同士のやりとりもうまい。映像で見たいような感じがします。最後まで私を迷わせた作品。一番とれなかったのは、その長さでしょうか。物凄く面白いけど、完成度でタッチの差で敗れたというところでしょうか。
個別講評
■ホラー超短篇1 (無題)
> ゾンビ。キョンシー、学校の怪談、エイリアン、殺人鬼。超常現象、UFO、UMA。
ホラーへのアイロニーとしては面白いです。2・3・4行はどこでも使えそう。
■ホラー超短篇2 ☆
> あなたはここにきたばかり。でもすぐにいなくなる。あまりに違うかたちだか
ホラーというより、超短編的に優れた作品。私の気のせいでしょうか、エロスの匂いも立ち込めてるような。観念的なホラー度では一番かも。
■ホラー超短篇3 猫の尻尾のカルボナーラ
> まぁとりたてて言うほどのことでもないが、きょう左腕が崩れ落ちた。
薄気味悪さという点では、よい作品ですが、最後の二行があまりにも直球勝負でした。
■ホラー超短篇4 団欒
> 読んじゃ駄目。
作品にたくらみが満ちて、ホラーというより、工夫されたミステリーという感じ。怖さが足りないのが惜しいです。
■ホラー超短篇5 ふたりぐらし
> 朝、目覚めた夫とふたりで朝食をとる。窓から入る陽の光がやさしかった。
完成度の高い惜しい作品。首だけの妻にもうひと工夫ほしかったです。
■ホラー超短篇6 恐怖の街
> 疾走するバキュームカーが街中の子どもと主婦と犬と車と労働者を片っぱしから吸い
ぶっ飛び具合がすばらしい作品。すべての行の質が揃えば、トップだったでしょう。
■ホラー超短篇7 病の流行
> 四人の男が棺桶をかついで山道を行く。登りになると棺が傾く。ゴトリゴトリ。
きれいにまとまりすぎた分、ホラー度は減りました。残念。
■ホラー超短篇8 女衒
> ちょんの間にて刺青の娼妓を宛われる。左手の甲には蜘蛛。二人きりになるな
この世界好きです。文章も巧みです。ただし、ホラーとしては・・・惜しいです。
■ホラー超短篇9 懐胎
> 夜。男が仕事を終えて家に戻ると、見知らぬ女がそこに居た。
最終行、見事な文章なんだけど、もう一回ひっくり返してほしいなあ。いい作品ですが。
■ホラー超短篇11 成長
> 不意に目覚める。真夜中。体は動かない。得体の知れない気配。近づく。覗き
最終候補作の一つ。私、好きなのですが、やはりロジックがシンプルですね。
■ホラー超短篇12 爪とぎ鬼
> 小松が目を覚ましたのは、獣臭さに鼻腔を突かれたから──だけではない。ネ
これもいい作品。小松という名前がいい。「悪夢が一気に霧散した。冷や汗を散らして飛び起きる。」
なんて文章最高です。しかし、やはりホラー度でしょうか。
■ホラー超短篇13 昼間のキッチンで
> 調理用の安い酒を飲んでいたら、左手の薬指にかさこそと虫の気配がしたので
惜しい、惜しい、惜しい作品。ホラーとして、これは王道を歩んでる作品なんだけど、最終行が・・・ああ、正直すぎる!
■ホラー超短篇14 Bridge
> 渡ってはいけない。
題名と内容がリンクしてますが、もう少し説明がほしい。
■ホラー超短篇16 通夜の客
> 色眼鏡の貧相な男は、焼香を終えても祭壇の前で深くうな垂れたまま、じめじ
これも賞をあげたい作品。宙を飛ぶ「泣き伏し人形」のその後を是非知りたいです。書き続けてほしい作品。
■ホラー超短篇17 毒蟲のチャチャチャ
> 疲れがとれません。床に就くと体じゅうが水になったように手も脚も骨の在処
これもいいです。「疲れがとれない」だけでなく、違う展開もみたいです。
■ホラー超短篇18 花一輪
> 男の部屋に入ると、案外小綺麗に整えられていて、机の上には一輪挿しが据え
いい作品が続きます。すばらしい描写です。ただ、モチーフが何度も繰り返されたような。
■ホラー超短篇19 箱の中
> 一番目の箱の中にはカレーライスが入っていた。スパイスの匂いが胃を刺激し、
よく読むと、なぜ4番目の箱に入っているのか、考えさせられる作品。うまいです。
■ホラー超短篇20 殺しても死なない
> 妻が二番目に産んだ子どもは母だった。
題名がいいです。長男の言葉が聞き取れないという設定もすばらしい。3行で深さを感じさせる作品です。
■ホラー超短篇21 墓標
> 紫紺に染まる夜の土は鉱石のような固さに覆われていた。風のない闇に、ひんや
うまい、綺麗、叙情的な作品。超短編的にはレベルが高いです。もう一押し怖さがあれば、一番だったのですが。
■ホラー超短篇22 太鼓売り
> 散歩のおりに神社のそばを通ると、道端に太鼓を売っている男がいた。物置か
これも最終候補の一つ。スピード感ある文章、迫力に満ちていいのですが、最後の2行は説話としてはよいのですが、ホラーとしては直球過ぎたような。
■ホラー超短篇23 朝餉
> 「やっぱ今日の味噌汁臭いね」
「開いてる方から眼球が転げ落ちた。」に至る経過がさりげなくていいです。
■ホラー超短篇24 スポーツバッグ
> どうやら上の兄貴は感づいてるようだ。
兄貴の庭でのバレーが秀逸。親父はなぜ殺されたのでしょうか?