500文字の心臓

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短さは蝶だ。短さは未来だ。

ひょんの木 作者:空虹桜

「あ”っ!」
 自分でも驚きの声に、ウイスキィボトルの向きを微調整してたマスタまで、わたしを見た。
「・・・大丈夫?」
 ドライマティーニ嘗めながら次の段取り確認してただろう隣の男は、フリーズからの復帰に30秒超費やした。
「大丈夫。気にしないで」
(『にょんの月』なだけだから)
 まで言わない。さすがに自制心はあるよ。人並みに。羞恥心だって。
 毎日が「日常」なんて名前でグルグルするから、中学からやってるブログを「にょんの月」にタイトル変更。毎月変えるつもりで。脳内ガッツポーズするぐらいのダサカワフレーズだけど、旧友たちはイマイチな呟き。
 翌日。通勤電車で「ひゃん」とか似合わぬ可愛い悲鳴あげちゃうほど尻まさぐられ、その手を思わず捻りあげて出すとこ出したら、財務官僚だった火曜。水曜は朝の9時から夜の9時まで1時間1セットで全部違う案件の12時間耐久打合せ(昼抜き)
 で、今日。数あわせで連行された合コンで、ひょんなことから持ち帰られよかどうしよか。な、今現在。
「にょんの月」で「ひゃんの火」に「ひゅんの水」と来て、明日は「みゃんの金」か? しょーもな! と、気づいちゃったから出た、さっきの「あ”っ!」



もみじ 作者:よもぎ

「どこかにいい場所はないかなあ」
もみじは風に乗って、くるくる回りながら落ちる場所を探していました。
「あ、あそこがいい」
乾いた土とまばらな草のあいだに、ぽっこりとした小さな丸い泥の山があるのでした。もみじはそこに降りました。そしてすぐに気がつきました。
「あれ?これ、あんぱんだ」
おもてにこそ泥がついていましたが、それは食べかけのあんぱんでした。カビが生え、腐りかけていましたが、それはあんぱんなのでした。もみじは、降りた場所が腐ったあんぱんだったので少しがっかりしました。けれども、あんぱんはほんのりと温かく湿っていて、なつかしい土の匂いがするのでした。もみじはここに根を下ろすことにしました。
「おひさま、おはよう」
毎日、太陽に向かって背伸びをして、もみじはすくすくと育ちました。
ある秋の日、もみじは青い空に茶色いマントをひるがえして飛んでいく者を見ました。
「うわぁ!カッコイイ!」
小さくなっていくその姿を見つめ、もみじは陽に透けて赤く輝く手をいっぱいに振りつづけました。



あなたと出会った場所 作者:Y

ですから、何度も言いましょう。

あなたは、オタマジャクシ。
いっぽうで、わたしはタマゴなわけです。

にもかかわらず、わたしは生まれた。
あなたと出逢ったから、わたしは産まれた。

リアリズムの追求か、イデアリズムの果てか。
ガイアが先で、ウーラノスが後か。
とりとめのない議論の中、私は埋まれた。

うん、そうだ、生まれたとき、そこで出会ったんだ。

 ですから何度も言いましょう――



青い鳥 作者:氷砂糖

 ぴちゅちゅぴちゅちゅと赤い鳥は囀ります。軽やかな嘘で彩られた歌声は、今日も夏の森を鮮やかに染めています。誰もが赤い鳥のことを好いていました。赤い鳥は誰も傷つけることがなかったからです。
 ある日、赤い鳥は太陽へ向けて飛び立ちました。小さな翼を羽ばたかせ、雲より高くまだ遠く。森の木陰で暮らしてきた赤い鳥にはちょっとした革命でした。強い光は森の上に補色の影を作ります。限界の高さを知った赤い鳥は、ゆっくりと下降してゆきました。
 森に戻った赤い鳥は、試しに真実を歌ってみました。力強く、悲哀と重みが入り混じった囀りが森中に響きます。変則的な音階に、ある者は耳を塞ぎ、またある者は逃げ惑いました。しかし、別のある者は真剣に聴き入っていました。傷つけられたと赤い鳥のことを嫌う者が出てきましたが、それ以上に慕うものも多く現れたのです。
 それまでとは違うぴちゅちゅぴちゅちゅを歌い続ける赤い鳥に、誰かがあのときの影の色の花を贈りました。初めてのことに喜んだ赤い鳥は、花を寝床に持ち帰りました。花は毎日贈られました。毎日。花に埋め尽くされて眠る赤い鳥の体は、ゆっくりとゆっくりと花の色素に侵されてゆきました。



メビウスの帯 作者:はやみかつとし

 カイパーベルトを突き抜ければぼくはぼくではない何かに変わってしまうのでさようならそしてこんにちは!



青い鳥 作者:氷砂糖

 ぴちゅちゅぴちゅちゅと赤い鳥は囀ります。軽やかな嘘で彩られた歌声は、今日も夏の森を鮮やかに染めています。誰もが赤い鳥のことを好いていました。赤い鳥は誰も傷つけることがなかったからです。
 ある日、赤い鳥は太陽へ向けて飛び立ちました。小さな翼を羽ばたかせ、雲より高くまだ遠く。森の木陰で暮らしてきた赤い鳥にはちょっとした革命でした。強い光は森の上に補色の影を作ります。限界の高さを知った赤い鳥は、ゆっくりと下降してゆきました。
 森に戻った赤い鳥は、試しに真実を歌ってみました。力強く、悲哀と重みが入り混じった囀りが森中に響きます。変則的な音階に、ある者は耳を塞ぎ、またある者は逃げ惑いました。しかし、別のある者は真剣に聴き入っていました。傷つけられたと赤い鳥のことを嫌う者が出てきましたが、それ以上に慕うものも多く現れたのです。
 それまでとは違うぴちゅちゅぴちゅちゅを歌い続ける赤い鳥に、誰かがあのときの影の色の花を贈りました。初めてのことに喜んだ赤い鳥は、花を寝床に持ち帰りました。花は毎日贈られました。毎日。花に埋め尽くされて眠る赤い鳥の体は、ゆっくりとゆっくりと花の色素に侵されてゆきました。



最終電車 作者:雨宮

例えば、同じ車窓に映っているあどけない寝顔を無防備に晒す美しい少女が終点まで乗り過ごしてしまったら、彼女はどんなにか困ることだろう。
むくむくと膨れ上がる嫉妬心に気が狂いそうになる。
終点の無人駅で、一晩中身を縮め凍えるのだろうか。山の裾野だ、野犬に襲われるかもしれない。
震える萎びた手でポーチの中から赤い目薬を取りだし、少女の真っ赤な唇に差し入れた。



河童 作者:トゥーサ・ヴァッキーノ

「これは?」
古生物学者が、眉をひそめた。
「そんなに珍しいものではありませんが、たしかに現代社会では考えられません」
民俗学者が、ぐるりとひと周りしてため息をついた。
「・・・」
科学者は、相変わらず不機嫌だ。

「天頂部が特徴的ですな」
古生物学者が、そっと触る。
「起源は、江戸時代前期まで遡るのですが、実際見たのは初めてだ」
民俗学者も困惑しながら、興味深々といった面持ちで、顔を近づける。

ずっと怒りをこらえて体を震わせていた科学者が、2人の態度に我慢の限界がきたようで、古生物学者の手を払うと、おもむろに立ち上がり、民俗学者の顔面に頭突きを喰らわせて、叫んだ。

「やめろ! 俺の頭にペタペタ触んじゃねえ! 起源は江戸? 天頂部が特徴的? 俺は10年前からハゲはじめたんだよ! ちっくっしょー! 天頂ハゲがマシュマロヘアにしてなにが悪い!」



 妖精をつかまえる。 作者:トゥーサ・ヴァッキーノ

ん?。

どうしたんだい?

あのね。
なんか変なの。

変?
なにが?

だって。
ほら。
ねえ。これは何?。
さっきからずっと私のそばにいる。
これ。

ああ それは妖精だよ

妖精?。
妖精って。
こんなに小さくて。
こんなに近くにいるのね。

そうだよ
いつでもそばにいて
だけど
よーく見ていないと
なかなか気がつかないんだ
妖精ってのは
そういうもんさ

ふーん。
妖精。
まん丸くて。
小さな妖精。
いつも私のそばにいたのね。
じゃあ。
あなたにも。
妖精はいるんでしょ?。

ううん
僕には
いないんだ
それでもいいと思ってるからね

ねえ?。
この妖精を。
つかまえることは。
できるの?。

できるさ
簡単だよ
「こんなふうにしてつかまえるんだ」

わかった。
やってみるね。

「こう?」。

そうそう
その調子

  。


「それ」。

もう少し



「 」

。「 」。

えい。

「 。

。」

今度こそ。

妖精をつかまえる「。」



 情熱の舟 作者:トゥーサ・ヴァッキーノ

「ねえ、あなた・・・私、こんなに感じちゃってるのよ」
腰をくねらせ、和服の裾を開いて見せながら、女が男に迫る。

貞淑なはずの女の豹変ぶりに、男は焦りに焦る。
「ダメだ。まだこんなに日が高いじゃないか。よせったら」
男は拒むが、女は男の上に馬乗りになって、結っていた髪を振り払う。

「久しぶりじゃないの。こんなに燃え上がってるのよ。抱いてちょうだいよ。ね?ねえったら」
と言って、女は興奮して息を荒げながら帯を外し、和服を脱ぎ捨て、素っ裸になると、男の顔面に自分の乳房を擦り付ける。

「し、辛抱たまらん!」
男は、熟れきった女の乳首に貪りつく。

「あ、ああ! 感じるわあ!」
女は情熱的な喘ぎ声をあげる。

「そんなに大きな声を出したら、子供たちに気づかれちまうぞ」
男は、意地悪そうに言いながら、女の熱くなった陰部をまさぐる。

「あ、あ、ああ・・・カツオとワカメに気づかれたっていいわ! もっとメチャクチャにしてちょうだい!」