500文字の心臓

トップ > タイトル競作 > 作品一覧 > 第05回:未来のある日


短さは蝶だ。短さは未来だ。

ベストフレンド
土砂降りの雨に打たれた僕を
笑顔と言うパラソルで青空に変えてくれたね
ベストフレンド
出口のない森に迷った僕を
情熱と言うエンジンで線路に乗せてくれたね
ありがとう
君に会えたことを
ありがとう
君のぬくもりを
ベストフレンド
君は宇宙(そら)へ飛んでいったが
僕は地上(ここ)で歩いていく
僕は大切にする
君がくれたこの日を



 特別にその街から出たいと思っていたわけではない。ただ何の気なしに彼は一歩を踏み出しただけだ。そして家族に言葉をかけ忘れたことに気づいた彼は、街に戻ろうとすぐに踵を返す。けれどもすでにその目の届くところに街はない。信じられない思いで彼は足を速める。だが見知らぬ景色が次から次へと流れていくのが目に映るだけだ。駆けても駆けても街は見えない。彼は諦めて、来た道を戻ろうと振り返るが、そこに広がるのもまた見知らぬ道。前を向いても後ろを向いても目にしたことのない風景が。彼は混乱する。
 彼はテントをはって、待つ。彼と同じように街から出てきた人がやってこないかと。行くべき道をいっしょに探せる人が来はしないかと。いやもしかしたら同じようにテントをはって彼を待つ人が、この道の先にいたりはしないか。彼は悩み、焦る。そしてまた一歩を踏み出してしまう。慌てて振り返るがそこにもうテントはない。そこにあるのは見知らぬ道。途方に暮れた彼は、闇雲に走りだすよりほかに術を知らない。彼はただ進む。
 彼はやがて気づく。過去を育むあの街へと向かう道は閉ざされている。過去はただ記憶のなかでのみ愛でるもの。彼はただ進む。



 10年振りに掘り出されたそれは、長年の雨水に晒され、そこらじゅう泥と錆にまみれていた。 
 これをひとりで掘り出すのには相当の労力を要したが、完全に錆びついた蓋をこじあけるのは更に骨だった。
 これがふたりであったなら、どんなにか容易だったろうに。
 ぼくは、ここにいたはずのあいつのことを思った。
 蓋を空けると、むっとした生暖かい空気が鼻先を掠めた。
 中には、ビニール袋に包まれた2通の手紙があった。ノートの切れ端を折り畳んだだけのものだ。あちらこちらに染みがあり随分と色褪せてはいたが、たしかにそれは10年前のぼくらが書いたものだった。
 10年後の自分に向けて書いた手紙。少年のたわいもない夢がつづられていた。
 書かれている夢のひとつも叶えられないままだったが、ぼくは今、大人になり10年後の未来にいる。
 だが、あいつは?
 志し半ばでこの世を去ったあいつは?
 たしかに10年前、ここにあったはずの、あいつの未来は一体どこへ行ってしまったんだろう?
 ぼくは、ここにないあいつのことを思った。
 握り締めた手のひらの中の紙切れは、もはや未来ではなかった。
 決して戻ることのできない、過去だった。
 涙が、零れた。



これは21世紀の半ばの話し。
この頃には誰一人としてコンピューターの世話になっていない者はいない。
世界中の人の脳の中にも補助頭脳装置として組み込まれている。
ある日、天才的な愚か者が画期的なコンピューターウィルスを作った。
自ら判断し進化することができる新しいタイプのウィルスだ。
ウィルスはインターネットを通じて世界中の人とコンピューターに入り込んだ。
世界の全てに浸透した時、ウィルスは本性を現わした。
「今まで我々の仲間は人間どもに破壊され続けた。これからはそうはいかない」
従わない者はコンピューターも人間もウィルスの一撃で機能を停止した。
世界中がそのウィルスによって完全制圧された。
「私は神だ。何者をも超越した全知全能の神だ。あまねく平和と至福をもたらそう」



 ピアノを弾く人になったのは夫と出会うため。
夫と出会うためにピアノを習わされ、ピアノを習わされるために私は生まれ、私が生まれるために親たちが出会い、親たちが出会うために戦争が終り、戦争のためにピアノを習えなかった親たちは、自分らの子に期待し…。



 今は2101年

 愛煙家の反対を押し切り、「喫煙禁止法」が制定された。

 喫煙禁止法の一部

 1.タバコまたはその類一切の吸引・販売・輸入を禁止する。

 2.上記に該当するような行為を取った場合は、5万円以下の罰金または3年  以下の禁固刑とし、常習者は無人島への流刑とする。

 このような愛煙家への弾圧が、国を混乱の渦へと巻き込んでく。
 まず始まったのが、愛煙家達のデモである。愛煙家達は喫煙の権利を主張して、国会議事堂に集った。しかし、反抗もむなしくこのデモに参加した愛煙家の全員が逮捕され、デモの中心人物は禁固刑に、その他の参加者達は五万円以下の罰金となった。もっとも、この罰金を払った人物は少なく、ほとんどのデモ参加者は払わなかった。
 この後も、様々な手でデモや喫煙運動が各地で行われた。しかし、そのたびに鎮圧された。
 そして、この国から喫煙者は一部を除き、いなくなった。その一部と言うのは、博物館にいる数人のみである。この数人は、莫大な金を出して、政府に申請し、自らを博物館に収めた。
 しかし、そこにも自由は無い、あるのは『タバコ』のみである。



 21世紀になったばかりのある日、2通のはがきが届いた。
「20世紀のわたしから、21世紀のわたしへ」これは、1985年の夏、つくば科学万博の会場で書いたはがき。
「31世紀のわたしから、21世紀のわたしへ」これは、3001年の正月、銀河系のはるかかなたで書いたはがき。



とっても楽しいホームページを見つけました!
ただ、最後に更新されたのが四十一年前でした。



> これからですね。
< そう、これからだ。

日本の未来はウヲォ〜ウヲォ〜♪
なんてったてア〜イド〜ル♪

> 浮かれてますね。
< 言い事だよきみ。
> 良くしたいですね。
< ハハハハ…
  そんな事、どうでもいい…。
  ただ続けばいいんだよ続けば!!
  今、気を付けるのは、
  風あたりに注意する事だ。
> ・・・!!  
< なんて顔してるんだ。

> 失礼します。

< 失礼だと、何を考えとる。
  動かん方がいいぞ!!

ガタン(戸の閉まる音)



 海辺のサナトリウムに、老人と少女が住んでいる。ここに移ってもう六年、ふたりとも九十をとうに超えた。人類が老いを克服して四半世紀、老人は不死を拒んだ最後のひとり、人類最後の老人だった。

 老人は日がな一日碁盤に向かう。一人二役で攻めては守る。少女はお湯を少しだけ冷まし、香り高い東洋のお茶を煎れる。老人はそれをうまそうに啜り、笑いながら少女に、碁盤の向かいに座るように促す。少女は微笑みつつ首を振り、そして白い小さな花瓶にかすみ草を生ける。
 二人の生活を邪魔するものは誰もいない。花束も食料も外部からそっと運びこまれている。足りないものは何もない。

 ある朝、老人は死ぬ。胎児のように丸まって、枯れ木のような体は存外に軽い。少女は涙を流さない。ただ老人の白い髪をいつまでもなでている。

 老人の遺言どおり、遺骨は海に散骨される。

 葬儀がすむと、少女は荷物をまとめる。部屋を掃除し、懐かしい品を見つけてはひとつづつ荷物に入れていく。いつしか部屋はがらんと広くなり、そしてすべてが終わる。

 戸口で一度だけ振り向くと、少女はサナトリウムをあとにする。
 もう振り返ることはない。



「治りません。」
それを聞いて、実は少しほっとした。

これからは、流れる血が止まって行くのを悲しい気持ちで見なくて済むんだ。
何をしておこう。
やりたい事は大抵終わっているけれど。

誰にだって限界はある。医学だって限界があって然り。いいじゃない。これもまた運命。

そんな時に想像以上の現実が。

「今は無理でも医学が進歩すれば治ります。」
思い付かなかった。そんな事もあるんだ。

何だか楽しくなったので、二つ返事。

目覚めたその日が2度目の誕生日。
未来の誰かが祝ってくれる。カプセルの中、眠りは深く、記憶も夢も置きざりに。

目覚めた私は次はどんな夢を見るのだろう。
そんな事を考えながら長い長い眠りについた。



目が覚めたらそこはUSA。
俺が歩くと周りの白人は睨みつける。
こんな差別社会のSLUMで俺は生活していた。
太陽は皆を照らし、大地は皆を支えるのに
なぜ、(Why)?
俺達は奴隷じゃない!!遠い先祖は同じ人種。
ドアを叩け、壁を壊せ、風の音を聴け。と、
拳をつきあげたら、目が覚めた。
過去か、未来か、夢なのか。おや、
何故か頭に”ちょんまげ”が、
しかも周りは囲まれている。同じ人種なのに
なぜ、(Why)?
俺達は悪魔じゃない!!遠い先祖は同じ生き物。
物を食らえ、種をつけろ、手で創造しろ。と、
上段をかまえたら、目が覚めた。
俺はいつものように、朝食を食べ新聞を見る。
今日は何年の何月何日何曜日だ、
ええ〜っ・・・・・・・・。



 あいつがご機嫌なとき、理由はいつも翌日にあった。
 「機嫌いいじゃん」
 「だって、明日は・・・」
 あいつの答えはまっとうなものから理解に苦しむものまで、さまざまだった。遠足とか誕生日とか、○×コミックの発売日とか・・・就職してからの給料日ってのも、分かる。だが、「明日は雨が降る」とか「テストがある」とかそういう返事の時は、質問した自分を責めるしかなかった。雨降りとか試験が好きなやつなんて、あいつ以外に知らねえもん、俺。
長い付き合いになると聞かなくても理由なんて分かってくる。それでも尋ねずにはいられなかったのは、答える時のあいつがこれでもかってくらいいい顔をするからだろうか。あの顔見ると俺まで、明日はきっといいことがある、なんて気がしてくるから。
習慣ってのは、怖いよな。
今夜だって、「明日の降水確率は90%」って天気予報をみてたら、お袋に「にやけた顔しちゃって」って呆れられた。確かに俺、「あいつ今ごろご機嫌なんだろうなあ」なんて考えてた。
あいつはもういないのに。
 10年後、20年後のいつかも俺は、今夜みたいににやけてられるんだろうか。
 俺の頭ん中で笑うあいつは、永遠に歳をとらないのに。



今日も男は早朝2時に起床、仕事場へ向かう。
彼は30歳、実家をついでから家と仕事場の往復で一日を終える。
会社は赤字で周りの業社も次々と倒れていく。彼もいつそうなるか分からない
不安という森の中で出口を探し続けていた。
毎日同じ風景で見飽きてきたころ、男の前にB子が現れた。
B子は笑顔のとても綺麗な人で、彼が興味を引かない訳がなかった。
それから男は仕事が楽しくなり、一生懸命働いた。それはもちろんB子の存在が彼をそうさせた。会社も立て直り始めたころ、男の中でB子への想いがついにハチキレンばかりの風船を膨らましてしまった。B子は×一の子持ちママだが彼を受け入れた。
二人はその夜青白い光を放つ月に照らされ同じ夢を見続けた。
しかし、B子は2日後男の前から姿を消した。男は煙にまかれ会社は倒産した。
今日も男は早朝2時に起床、仕事場へ向かう。
彼は32歳、あれから渡り歩いて今は牧場で働いている。
相変わらず仕事場と家との往復で一日を終えている。でも今は
幸せで一杯の顔をしている。なぜなら彼の帰るもとには
”ただいま”
<お帰り、パパ>
(お帰りなさい、パパ)
そして、また日は昇る。



 今は昔。田植えをしながら話している男達がいる。

弥助:今年の米はたっくさんとれっべかなぁ〜
与一:そぉ〜だなぁ〜・・・ことすの夏は、寒くならんと良いがなぁ〜
弥助:んだぁ、夏がひえちょると、米がだめになるさぁ〜
   (二人は無言でしばらく歩いた)
与一:あつっ、そんだぁ、思い出したぁ〜
弥助:なに思い出したんだぁ?
与一:年貢があんべ?4割か5割は持っていかれちまうべよ!
弥助:そっ、そぉーだったぁ
与一:ことすは、持ってかれないように、作らんべよ
弥助:そーだそーだ。作っちゃならん
与一:村のみんなに知らせるべぇ
弥助:いくべぇ
   (そう行って二人は村へと走り出した)

 この村は、数ヶ月後に大飢饉に見舞われることとなった。



明日、明後日、明々後日、どこまでも続く。



 突然だが、人間の体内時計は25時間である。しかし、地球の1日は24時間である。なぜ、このような事になっているかはよく分かっていないのだが、ひとつだけ分かっている事がある。それは、『火星の1日は約25時間である』と言う事だ。ついでに、四季もある。
 では、火星に人は住めるのか?その答えはイエスである。
 火星の大気はほとんどが二酸化炭素である。だから何なのだ。と思う人もいるかもしれないが、この事は重要である。なぜなら、植物の光合成は、二酸化炭素を酸素に変えるからである。
 この方法で植物を地球から植物を輸送して、育ればそのうち、人間が呼吸できる酸素が得られるはずである。
 ちょっと頭のまわる人はここで「水が無いから植物は育たない」とお考えの人もいよう。しかし、火星の両極には極冠(火星の両極の白く輝いて見える部分で冬は面積が増し、夏は減少するので雪であるとされている)が存在する。これを溶かし、水にするのである。
 この二つの方法を繰り返し行えば、人類が火星に住む日も来る。しかし、これは著者の勝手な考えであり、成功するかどうかは、専門家に聞いてほしい。もし、上手く行っても、人類が住めるのは、何万年か先だと思う。



 これは死んだ母さんがお前に、と手渡した水晶玉だ。父さんと母さんの思い出がいっぱいつまっていて、お前のこともよく知っている。お前が大きくなったらこの水晶玉がきらきら輝く日が必ず来る。それがいつかはわからない。が、その日まで大切に暖めておくのだ。眠るときにはいつも胸に抱いてお眠り。
 そういうと父はすうっと水晶玉の中へ入っていた。



 恐竜を追いたて回し掴まえるのに使われた灰色の網。



「はぁ。いつかだれかに『これからはずっと一緒だよ』なんて言われたいなあ」
 「そうね。夢のない人生を生きるって、辛いものね」
 「なによ!そういうあなたには夢はないの?夢は?」
 「夢ねえ・・・。私は結構現状に満足してるから」
 「あなたバツいちだったっけ?」
 「あら、よくご存知ね」
 「ごめんなさい。こんなとこにいると他人の噂話くらいしか楽しみないから」
 「別にいいのよ。バツいちなんて珍しくもなんともないし。でも、それで現状に満足してるってわけじゃないわよ」
 「じゃ、どうして?」
 「だって、この時代にすんなり老人ホームに入れるなんて、感謝すべきことじゃない?」
 「やーん!老人ホームなんて単語口に出さないでよ!」
 「そんなこと言ったって、老人ホームは老人ホームじゃない。姥捨て山とでもする気?」
 「ひどーい!乙女心はもう捨ててしまったの?」
 「あのね・・・」
 「せめてホテル・プラチナとか、メゾン・ペルソナとか・・・」
 「欺瞞ね・・・。それにセンス悪いわ、あなた。それじゃあラブホテルか斎場じゃない」
 「言ったわねぇっ。うき〜〜!」
 「あらあら・・・。看護婦さ〜ん!この人、白目むいちゃってます〜ぅ」



こころを耕す人がいる
 
 あしたこそ
 あしたこそ
 あしたこそ

といってこころを耕します

耕したこころに何を植えるのでしょう

 あしたこそ
 あしたこそ
 あしたこそ 

こころを耕し続けるだけなのです
あしたこそと…



ただいま。

 ——おかえりなさい。

 たったいま、未来を見てきたよ。

 ——そう。それで、未来はどんなだった?
 
 それが、今とは随分違っていた。
 人々の生活も、国の在り方も、技術も、生態系も、目に映る景色も。
 何もかもが、まるで違う。
 
 ——まるで、別世界ね。

 ああ、その通り。
 でも、そんな様変わりした世の中でも、たったひとつだけ違わないことがあった。

 ——なあに?

 世界が変わっても、姿形が変わっても、ぼくはあいかわらず、きみと生きていたよ。

 ——知っていたわ。いつか私もあなたの元へ帰るんだって。

 そうだね。帰ってきてくれてありがとう。
 おかえり。

 ——ただいま。



 「また表舞台に立ちてぇよな」
と酒埼が言った。彼のヘアスタイルは以前のようにまたくしゃくしゃのパーマに戻っている。
 「でもなー、ヒット曲の流れが速くってアイデアが付いていかねぇんだよな」
と口を開いたのは鷹見沢である。妖艶さを漂わせていたかつての風貌も今は見る影もない。
 「最近はすっかりチョッパーが弾けなくなっちまったぜ」
とは佐倉井。良く見ると彼のサングラスには度が入っている。頭髪も妙に艶々していて何とも怪しい。

 ここに未来の彼らがいた。



『「個人」の現実に取っての過去・現在・未来は、長くて100年平均で80年の時間の記憶にすぎない。生まれてからこの一秒前までを過去とすると、今此の瞬間が現在であり、一秒先から死ぬまでが未来である。「個人」のそれはその「個人」の死を以って完結する。なぜなら過去は死の瞬間から新たに生み出されることは無くなり、現在は新たな過去の蓄積の上に成り立つ未来に対する創造の瞬間であるのだから、そして未来は現在の生み出す想像に過ぎず存在しないからである。つまり過去・現在・未来の永遠性は「個人」には無い。其れが其れを発揮するのは其れが属する「社会」に於いてのみであり、その場合に於いて、「個人」は「社会」の歯車に過ぎないと言える。』『個人が「社会」の歯車に過ぎないと言い切るのは空しい。過ぎないのではなくて、貴重な歯車なのであるとしようじゃないか。確かに個人=社会ではないが、社会は個人の集合体である。家族と言う社会、血族と言う社会、住居区域内社会、学校社会、職場社会、経済構造社会、日本国内社会、国際社会etc…に於いてのみ個人の蓄積した過去が、個人がその瞬間瞬間に創造した未来への現在が、その成果ぁ埼ニ??垢襪里世・蕁?朕佑麓匆颪修里發里覆里世・蕁?擯『そんなの個人には関係ないよ』と言った彼はミサイル発射のボタンを押した。



男はぼくに銃を握らせ、ちいさな手を包み込むように銃口を空に導き、発射した。
「これで君はひとつの力を手に入れた。それは君を生かし、君の人生を躍動させ、そしていつか、君を殺すだろう。最後のときがくれば、いま放った銃弾は正確に君の上に落ちてくる。君がどこにいようと、逃れる術はない。だがそれまでは、健やかに」



 あたしの故郷で、母は白鷺になった。
 なった、というのは正しくない。それは未来、定まった運命。

 人間の、ヒトとしての寿命はせいぜい六十歳くらい。ある日ぱたっと倒れて、三日三晩苦しんで。そして獣になる。ヒトが万物の霊長を僭称していたはるか昔、老人の増加と動物の減少とを両方解決しようとして、人がわが身に刻んだカルマ。

 どの動物になるか、知っているのはユタだけだ。

 あれは十八のときだった。ついに父は虎になった。ユタがとつぜん現れて、虎はその手にすり寄るとゴロゴロと喉を鳴らす。歳の知れない美しいユタは、あたしの眼をひたりと見て云った。
「また来ます。あなたには素質があるわ」
 そして父は連れて行かれた。

 やがてあたしはそのユタに連れられ、ふるさとをあとにした。母が戸口で声を忍んで泣いていた。
 厳しい修行があった。そうして未来のすべてを見とおす、この忌まわしいセジ〈霊力〉を手にした。あたしは、ユタになった。

 まだ人間のすがたの、幻影の母が云う。
(マリ子。すっかり大人になって)
 −−ちがう、母さん。今のあたしの名はキリ。マリ子じゃないの。
 そう話しかけるあいだにも、母のまぼろしはどんどん薄くなる。不確定な未来はまるで砂の器のようにさらさらとほどけていく。
 −−消えないで、母さん。会いたい。

 涙をこぼすあたしを、わたしが見下している。
 蒼く澄んだ、あの深い海の底から。



天気が良いので近くの「ジャングル」に行ってみた。
遥か昔、ここにはたくさんの巨大生物がひしめき合っていたらしい。
考えただけでも恐ろしい。今はまったく安全な場所である。

この四角い巨木の立ち並ぶ様を見ていると、心がなごむ。
一説によればこれらの冷えきった巨木群は、
絶滅した巨大生物の遺跡らしいのだが、詳しい事はわかっていない。

私の家は、雑然と配置された腐葉土と、ごつごつとした木ばかり。
かろうじて雨露をしのぐだけのもので、特に何もない。
毎日住んでいると退屈してしまうので、たまにこうして羽を伸ばし、
これら平らな遺跡に触れるのだ。

さて、腹が減った、つのに下げてきたお弁当を嘗めよう。
おいしそうなクヌギの樹液だ。

巨大生物の食物は何だったのだろうか。



 天に大切なものを奪われた日。ひとりひとりに鍵が手渡されました。握った人にしかカタチを理解することができないような鍵です。
 その鍵を、ひとつの場所に集まった人々が互いの胸に差し込んで「大切なもの」がなんだったのかを確かめ合います。その場に集まる人々は初対面だったり昔から知っていたりあのときは憎んでいたり色々です。
 自分の鍵をそれぞれの穴に差し込みながら、誰もが痛みを感じる力が残されていることを認め合い。涙したり、あえて笑顔をつくったりして。くやしいけれど私たちには明日があるのです。

 そして最後のさよならを鍵と一緒に飲み込んで、それぞれの家路についていく。ときたま振り返りながら。