500文字の心臓

トップ > タイトル競作 > 作品一覧 > 第16回:ロケット男爵


短さは蝶だ。短さは未来だ。

 お姉ちゃんのロケットはキラキラのハート型。その中には小人が七人住んでるの。小人達はみんなお向かいの家のブルテリアみたいにぶきっちょでずんぐり。中で一番偉そうなのは、いつもあごヒゲをちょこんとリボンで結んでんの。
 ある時、お姉ちゃんの部屋をちょっとのぞいたら、あのヒゲの小人が机の上で飛びはねてた。その前でお姉ちゃんはつんとすまして頬杖ついてる。まるで、お月様にむかって跳ねるカエルみたい。しばらくはおもしろくって見てたけど、どうも小人は怒ってるよう。顔を真っ赤にして金切り声をあげてるの。するとお姉ちゃんは小人の襟首をつまみあげ、ぽいっと窓の外へ。つぎつぎとね。七人がすっかり窓の外へ飛んでったのを見届けて、私はドアをゆっくり閉めたわ。
 次の日、こっそりあのロケットを持ち出してそぅっと中をのぞいてみたの。すると馬にまたがった小人の影が一目散に窓の外へ駆けだしていった。小人のホラもたまには本当があんのね。



 どうやら、ここは薄暗い石敷きの一室のようでありました。
 「お目覚めかね、コバヤシ君」
 「あ、お前は、Baron Rakete!」
 コバヤシ君は起き上がろうとしましたが、すぐに、床にうっぷしてしまいました。それもそのはず、コバヤシ君の両手両足は荒縄でしっかと縛られていました。
 「そうだ、コバヤシ君。今、君は、偉大なる”ほら吹き男爵”の子であるワガ輩の名を叫んだな。しかし、君が突然、ワガ輩の車の前に飛び出してきた時には、まったく驚かされたよ」
 「しまった。そうだったのか!」うまく逃げ出したと思った先が、まさか、男爵の胸の内だったとは、コバヤシ君、無念の一字。
 「どうだね、もう観念したかね?」「そんなこと絶対にするもんか!先生さえ居れば、お前なんか・・」
 「ハハハ、君の先生なら、今頃パリだろう。君を助けに来るには、それこそロケットでも使わなければ無理では無いかね」
 「やだやだやだ」「駄々を捏ねても無駄だ。おい、この子は大事なお客だから、丁重におもてなしをしなさい」
 男爵の下僕である逆噴射男が現れました。
 「では、応接室へ」「馬鹿者。そういう意味ではない。例の水牢へ閉じ込めておけ」「はあ」

 さて、コバヤシ君の運命はどうなるのでしょうか?

 次回、「逆噴射男の正体は?」へ続く。



砂漠を歩いていると影が急に起きあがって爵位をくれようとする。
いらないと断ったらものすごい早さでどっかへいった。



♪おいも おいも おいも〜
♪おいもを食べると〜
♪よくオナラがでるのよ〜
・・・ね、だんしゃくさん

そう我輩はこの子と何時も一緒にいる。

この子の首からチッサイ胸の所にぶら下がっている。

我輩の腹の中にはこの子の母さんの写真が入っている。

我輩はこの子の母さんとも一緒にいた。



「母さん、俺もうヤだよこんな名前!だってこの名前のせいで
ロケット男爵ってあだ名付けられるんだよ!」

「みんながロケット男爵、ロケット男爵って俺のことを馬鹿にするんだよ。」

「幼稚園から高校まで友達が変わってもずっと同じあだ名でさぁ、
こんな名前じゃなけりゃ、ロケット男爵なんて呼ばれなくて良かったんだよ!」

「・・・仕方ないでしょ、あなたの名前はお父さんが尊敬していた
おじいちゃんの名前をもらって付けてくれたの。我慢なさい。」

「じゃあ、おじいちゃんもあだ名はロケット男爵だったの?」

「いいえ、ずっとフナ虫って呼ばれてたみたいよ。」



 ポケット公爵は懐中から時計を取り出す。開始はまだか。
 ジャケット侯爵はたった今到着して上着をぬぐ。ぎりぎり間に合う。
 チケット伯爵は入場券を買いそびれて欠席。(ラケット夫人らとテニスに興じる)
 ビスケット子爵はティータイムを省いてまで出席。はたして期待はできるのか。

 ロケット男爵はいよいよ発射台に登る。来賓を前にして緊張する。
 ソケット博士がコードをつなぐと、装置はうなりを上げる。子猫のバスケットは驚いてかごの中に飛び込む。
 エチケット市長のあいさつを待ちきれず、ロケット男爵はついに口から火を吹いた。



 金色のタキシードを身にまとい、僕は仰向けに寝かされる。
 頭に背の高いシルクハットをのせて、ねじりあげた嘘っぽい付け髭をたくわえて、僕はじっと横たわっている。
 血の滴るような真っ赤な色の服を着た看護婦が、優しく僕のズボンを脱がせてくれる。
 白いブリーフも優しく脱がせてくれる。
 足を上げて、自分で自分のひざの裏側の辺りをつかんで足を上げたままにして、お尻の穴を看護婦によく見えるようにする。
——息をゆっくりと吐いて、体の力を抜くように…… 
 ロケットのような形のクスリを看護婦はゆっくりと挿入する。
 ゆっくり、ゆっくりと挿し込まれるにしたがって、僕のペニスがゆっくり、ゆっくりと屹立していく。
 幼き日の記憶。快楽のファンタジー。
 僕は男爵。ロケット男爵。
 I am baron of rocket pencil.



かなたより黒い点が、みるみる大きくなる。
声が聞こえる。やや高い声で、だんだん大きく
 ごー
  きー
   げー
轟々と猛スピードのつむじ風。
あっという間にすれちがう。
そのとき、低い声で
 んよう…
風に消えた。



 最近、どうにも僕は機嫌が悪い。
 なぜかって、ここ何日かずっと寝不足が続いているからだ。明け方になると決まって見る夢が、ぼくの眠りをどうにも浅いものにしているらしい。
 その夢の中でぼくはいつもある男に追いかけられている。怪しい燕尾服を着てちょび髭をはやしたその老人は、その容姿からは想像出来ないほどの恐ろしいスピードで僕の背後をつきまとうのだ。
「しっかりせいよ!」
 そんな怒鳴り声を発しながら、必死に逃げる僕を嘲笑うかのようににやりと笑ったりする。
「しっかりせいよ!」
 うるせえよ、くそジジィ!ある日、僕は声を張り上げて反撃するとそのくそジジイはいつものようににやりと笑うと瞬時に消えうせた。それ以来、ジジイは二度とぼくの夢に出てこなくなった・・・。
 最近、僕は機嫌が悪い。なぜかってあの口煩いくそジジイに会えないからだ。ぼくは本当は知っていたんだ。そのジジイの正体は、随分前に亡くなった僕のおじいちゃんだということを。明治生まれのロケット男爵、僕の自慢のおじいちゃんだった。



「ワシの頭の中を赤いロケットがぐ〜るぐる廻っとる」
男爵と名乗るその男は、私の手を握る。
「赤い…ですか?」スイッチをON
「赤いロケットが手袋を脱ごうとしないのは失礼のことじゃ」
「ほう、手袋を!」スイッチをOFF
「ぶ、ぶつかる!」
「どこにですか?」スイッチをON
「その前に水を一杯、一杯のそれを持ってきて祓えたまえ、君」
「残念ながら水はお持ちできません」スイッチをOFF
「マントの下にある」
「男爵は赤いマント…ですか?」スイッチをON
「次の頁を読み上げたまえ」
「いいですか?」スイッチをON「ワシの頭の中を赤いロケットがぐ〜るぐる廻っとる」スイッチをOFFそしてOFF…

 私は「部屋」を出た。
 相棒が難しそうな顔で「いけませんね。ロケットと男爵の相関関係は認められませんでした」。
「君はいつからそんなことを始めたんだい?」スイッチをON



 納屋の片隅に広げられているじゃがいもを1個救出する。用意するものはマジック1本。エンジンを書き込み、ブースターを書き込み、ノーズキャップを書き込み。ついでに男爵のシンボルである蝶ネクタイも書き込み。
 「行け、ロケット男爵、月を越えて飛んでいけ。」
 祈りをこめて力いっぱい投げ上げる。ロケット男爵は飛んでいく。大気圏を突き抜け、地球の重力をかなぐり捨て、月を横目に飛んでいく。光る流れ星、ロケット男爵の姿はあまりに小さくて見えやしないが、ぼくにははっきりわかる。ロケット男爵はいま火星の運河を横切り、ガニメデの氷山を目撃し、オールトの雲に突入するところだ。ぼくの脳裡にはっきりと浮かぶ。色をもった宇宙の遠景。
 夕食はじゃがいもいっぱいのカレーだった。「芋に落書きしたらあかん言うたやろー。食べもんを粗末にしたらあかん。」母さんのいつもの小言が始まったが、ぼくは気にしない。ぼくの男爵はここにはいない。ぼくの夢を乗せて今でもずんずんと外宇宙を切りさき飛び続けているのだ。



3月15日、ベルゲンバウアーベルク教区の人々から影が消えた。

一人の男爵が原因を辿るべく自らの腹を割ってみたがそこは光のもとはなかった。
胸を裂いても、腿を斬っても、横腹や背を深く断っても光の源はあらわれなかった。
深紅の血の海に突っ伏し、口から血の泡を噴きながら、なおも男爵は首を傾げ、
その光がどこから来たのか考え込んでいた。

男爵はいよいよ力を振り絞って脳天を割ってみたが、そこにも光はなかった。
では最後に目玉の中を、と、手にした太刀の切っ先を瞳の中にズブリと刺した途端、
月を五万個束ねたような光があふれ出し、音を立てて地面に噴き出した。
男爵が「これダ!」と叫ぶと同時に、光は圧倒的な圧力で、ズタズタになった男爵を持ち上げ、
ロケットのように高速で天へと突き上げた。

翌年、ベルゲンバウアーベルク教区で新しい聖人が承認され、人々は祭りを催したのであった。



声が聞こえてからじゃ遅いのです。
あまりにも速いので、
先に気持ちが届くのです。



トロケツトロケツトロッケツ!ぐんぐん伸びるぞどバッバッバッバーン!
ケツトロケツトロケツトロローッ!壁を破ってズッパッパッパーン!
西ベルリンを解放だ!東独市民で占領だ!乗っ取れやっとれドッキュッキュッキューン!

パイプの口からロケットタバコーッ。真っ赤な真っ赤な煙がモモモモォォォォーン!
彼は行く!俺も行く!ドイツの大地をゴゴゴゴーッ!西へ西へとズドドドーン!
五月蝿い五月蝿いチョー五月蝿い。史上最強最強貴族!

赤いチャイカの男爵様だ。東独最後の一人!東欧一の真っ赤な貴族!
ゆけゆけ!幻の人!
ゆけゆけ!マルクスの使徒!

「ワタシが社会主義の守護神、ロケット男爵です」

ジャーン。(また来週!!)



「カーン カーン」
「ロケット男爵の奴、又やってやがる。」鬼が笑う。
極楽浄土、はるかに遠く。
「カーン カーン」地獄の底に悲しげな槌音響く。
男の望み、ちりあくたの如し。



空を割き、雲を造り、酸素を食らう。
俺達が汗を搾り握り締めた価値ある紙を、羊のごとく食らっていく。
地球の船にいる仲間の書物に『ドリームカムトゥルー』の文字は見当たらない。それでもまた、
空を割き、雲を造り、酸素を食らう。
地球の船を下りる仲間の書物に『ドリームカムトゥルー』と書き込む作家はレコードに刻み込まれる。
僕らもいずれ船をおり、彼に乗り込む。



そこに浮かんでいるのはそっくりさん。
同じように暗い世界で、自分一人黄色い。
ねぇ、兄弟たちよ!
きっと、あれはお母さんなんだ。
この夜空に浮かぶ、あの黄色いまん丸はきっとお母さんなんだ。
ほんのちょっと前まで、みんなお母さんの隣で小さなまん丸だったんだ!
だからみんな、お母さんの側に戻らなくちゃならないんだ!
目指すは宇宙食だ。



 4 ロケット男爵は、僕の数少ない友人の一人だ。
  (彼はとても目立つ。と断言。すぐに換言。僕のように周りにとけこむという事はない。彼の個体識別信号の発信力はあまりに純化、そして強化されていて、魚類のヒラメより明確だ)

 3 僕の家の裏手には、七坂マガマガ神社という、とても素敵な宗教建造物がある。
  (そこの境内で、僕とロケット男爵は、よく話をした。彼は、ロケットの事にとても詳しく、何でそんなに詳しいの?と訊いたこともあったが、何も答えてはくれなかった。他人には言えない事情があるのだろう。死んだお祖父さんの遺言とか、きっと、そんな感じ)

 2 僕は、ロケット男爵を殺した。
  (理由はない。気が付くと、僕は神社の境内に敷き詰められた玉砂利の所で、ロケット男爵の上に馬乗りになって、彼の顔を、殴って、殴って、殴った。死ぬまで)

 1 僕は、おいてけぼり。
  (その間のロケット男爵は、僕を打ち上げるための機械的な発射装置で、もしくは、ただの相対的な階段だったのかもしれない。でも、倒れたロケット男爵の体の周りの玉砂利は、ひどく乱れていて、それが、僕には、噴射する煙のように見えて、突然、どうすればいいのか判らなくなって、とにかく、僕はそこから少しでも離れようと思った)

 0 そして、誰もいなくなった。
  (もし、そうならば、どんなに良かっただろう)  



コンビニからの帰り道、ロケット男爵に出会った。
 そんなつもりはなかったのだが、つやつやと光る腕が、ものすごく私好みな形だったので、ついつい連れて帰って来てしまった。
 私は親元で暮らしている。男爵を両親に紹介しようかと考えたが、父はあまり機械の類を快くおもっていない。結局、見つからないように、男爵をシャツの中に抱いて部屋に入った。ぴとりとした感触と冷たさに、全身の皮膚が粟立つ。予想以上に持ち重りのするカラダだった。
 一応お客なのだから、とお茶を出してやる。お構いなく、と男爵は言った。いい茶碗だ、しかし本当に粗茶ですね。
 弁えたひとだと感心し、あけすけなヤツだと考え直す。ロケットとは大抵失礼なものなのか、それとも爵位がそうさせるのか。
 流れるように抱き合い、その後で男爵は黙って立ち上がった。そしてさっさと帰り仕度を始めてしまう。引き留めたくて、私は男爵の肩を甘噛みする。チリチリと音がした。
 次会う時には、新茶買っときますよ。
 私の言葉に、男爵はひっそりと笑った。



 日に焼けてなお豪奢なテラス、丸テーブルの端を初夏の陽光が照らしている。揺り椅子にすわる年老いた男、その膝には猫が丸くなっている。きょう老人は空を見上げて、前世がロケットの電子頭脳だったことを思い出した。

「どどどど。ごごごう」

 部屋の中から女たちのくすくす笑いが聞こえる。あの男爵さまが、あれまあ、すっかりかわいくなっちゃって。昔は走り出したら止まらない人だったのにねえ。
 猫が耳をぴくりとさせて、老人を見上げた。にゃあ。訊ねるように瞳をきゅっと細くする。こいつの前世は、ほうき星。老人は微かにほほえむ。するとプイッと跳びおりた。すこし伸びをすると、尾を水平にどこかへ走っていってしまう。ごきげんよう。

「どどどど。しゅごーっ…」

 老人の手がぱたりと落ちる。空はどこまでも青い。
 さあ、出発だ。



 のちに「ロケット男爵」と呼ばれる事となる男がいた。
 「高い城壁を前にしての城攻め」に関し、新たな戦略とし「火薬による推力を利用し、城壁を越えて兵卒単位で攻め込む」と言う、突飛な作戦を考案した。
 奇しくも、国王の招集により隣国に攻め入る機会があったため、男爵は自ら率先して大砲の中に身を投じ、城壁の遙か上空に飛び上がったのだが・・・。


 なお、パラシュートが発明されるのはさらに後世、20世紀に入ってからの事となる。



 最後に男が求めたものは、たばこではなく染料の甕であった。驚く執行官の目の前で、男は一気に藍を飲み干した。刑場に連れ出された男は、手際よく火薬の筒にくくりつけられた。前方にそびえ立つのは「審判の壁」。正しき者はカスミのごとく通し、罪人の通過は断固としてこれを阻むというその壁には、赤黒い痕がいくつも残っている。いよいよ松明が運び込まれ、観衆が沸き、男の罪状が読み上げられた。それは平民であるにもかかわらず、自らを貴族と名乗る罪であった。男は何かを言おうとしたが、口からあふれそうな青い液体をぐっと押し戻すに留めた。ついに導火線に火がついた。火は踊りながらその時めがけて走っていく。彼が「ロケット男爵」として語り継がれることとなるその時を。



ジツハサイタマウマレ。
サテ、ワタシハダレデショウ?



 ジャガイモ畑が緑々と茂っている。今年は豊作間違いなしだ。
試しに1本掘ってみた。「あれっ?!」、ちょっとおかしいぞ、これは。
少し離れた何か所かのジャガイモも掘ってみた。丸っこいのが男爵という品種の特徴なんだが、どれもこれも長くロケットのような形をしている。こんなのでは規格外品として半値ぐらいでしか売れやしない。
眠れないままに一晩考えた。新品種として売り出そう。ロケットのような形をしている男爵だから「ロケット男爵」という名前にしよう。
農協を通じ売りに出された。名前が良かったのか、なかなか評判が良い。
某テレビ局がうわさを聞きつけ取材に来た。飛ぶように売れだした。

 芋の中でも一際大きなロケット男爵様は神棚に鎮座ましまして、今にも発射する勢いだ。「スリートゥーワンッゴー。」、あ、発射した!!
戸の隙間をうまくかいくぐり、外へ飛び出し、そのまま南の空へ。
ロケット男爵様に顔が現れ何やらしゃべった。
「俺様はジダンコ星人よ。芋を喰った連中のDNAが変化してジダンコ星人ができるようにしてあるのよ。」
知らない、知らない、おら知らない、どうなっても知らないよーっ。



 しかし、と、俺は思うんだ。駄目だ。問題は高さ。馬鹿みてえに真直ぐ飛ぶなんてのは誰にでもできる。ちょっとくらいなら俺だって。確かにあのおやじだって、びゅーんって飛べただろうよ。あのおやじはきっと、まあ絶対だが、しゃちほこばった妙にぴいんと直立不動の姿勢で飛んだに違えねえ。飛んでる最中にはよ、あのヒゲ面で見下ろして微笑んでらっしゃった知れねえな、あの男爵さまはよ。しかし、だ。駄目だろ、それだけじゃ。
 しかし、どっかの馬鹿に煽られたからって、何でそう真に受けるかねえ。まあ、妙に自身あり気だったから、もしかして凄え勢いで飛べたのかも知れねえ。だったらだったで、もっとやべえって事だ。確かに、誰も見てねえ。あのおやじがドアから出てって、その後すぐに皆でビール片手に追い掛けたら、もうどこにも見えなかった、ってだけだ。でも、それからだよ、あのおやじにそんなあだ名が付いたの。
 しかし、まだ生きてるかも知れない、あんた、そう言いたそうだな。なら何であれ以来うちに来ねえんだ。あのおやじ毎週来てたんだぜ。現に来やがらねえってのが、何よりの証拠じゃねえか。どうやって垂直に着陸するってんだ、ヘリコプタじゃあるまいし。飛ぶより着陸の方が難しいんだぜ。海に落ちたとしたって、海まで飛べる勢いで落ちたんなら地面に落ちるのと変わらねえだろうからなあ。
 しかし、あんたヘリコプタがどうやって前に進むのか、知っているかい。



本日は快晴、東京第11R日本(ニッポン)ダービーが行われる。
そこに揃った18頭は数え切れないライバル達を斥けて来た兵(つわもの)である。だが、その栄光を掴み取るのはたった一頭。
今からその物凄いレースが始まるのだ。このレースを静かに見つめる少年がいる。
「僕、怖いんだ。明日死んじゃうかもしれないから」
「大丈夫、この馬達も一緒だよ。でも僅かな可能性を求め走り続けるんだ」
【さあ最終コーナーを回って先頭はハナタレコゾウ、後続馬も押し寄せてくるぞ。先頭はハナタレコゾウ残り200Mをきった。しかし、並ばれそうだ、並んだ、かわされた】次々と後続馬が先頭の馬に襲い掛かる。
「ガンバレー」少年の手が汗を握り締める。【おっと後方から物凄い脚で一頭やって来るぞ、凄い、凄い脚だ。残り50M、届くか、どうだ、・・・やった差した、差しきったあ〜、優勝はロケットダンシャクだあ】少年は最後にこう言った。
「僕、ロケットダンシャクになる」そして彼は手術台と言う物凄いレース場へ向かっていった。



「博士、ついに完成しましたね」
『アア、私モコノ時ヲ待ッテイタ。1980年T作家ノ漫画ニ登場シテイライ、実ニ22年』
『私ガ生マレテ今日デ7年目、私モ之ホド早ク歳ヲ取ルトハ想像モシテナカッタヨ』
「僕もびっくりしました。博士と初めて会ったのは研究員のころで、あっという間に追い越されてしまった。いや、しました」
『ウム、デハ早速ビデオニ撮ッテオコウ』
「はいっ博士」
『準備ハイイカネ』
「はいっOKです」
『ヨシ、デハソノオ湯ニジャガ芋ヲユックリ投入シテクレ』
「わかりました」
1分後、五,四,三,二,一・・・。沸騰したお湯の中からジャガイモが飛び出した。しかも、皮だけスッポリと脱いだ綺麗な肌をしている。
「すばらしい」皆がそのVTRを見てスタンディングオーベーション。
「博士、君は最高のクローンだ」 もう言うまでもないが、このジャガイモの名称は・・・・・・。