久しぶりに海に来た。
帰りぎわ、砂浜にぽつんと脱ぎ捨てられた物を見つめながら、ふと思った。
「屋上バレーか!」
彼は、まだ生きているかもしれない。あの日、彼は死を決意した訳ではなかった。
何故、今まで気がつかなかったのだろう。
あの時、屋上で履物を脱いだりするからだ。
僕は勘違いした。
「そんなことして何になる!ばか!」
そう言った。
彼は泣きながら、去って行ってしまった。
それから会っていない。
そういや、あいつが脱いだのはサンダルだった。
勤務時間中だったから・・・
おニューを履いて歩いていたら、39年振りに記録を塗り替えてしまった。
本当にサカナにかわったの。青いつるりとしたサカナ。浅い川にサンダルごと足を沈めてみて。清らかな水が指の間を流れていくでしょう。
一瞬だから見逃さないでね。
やわらかな足の裏をすりぬけて、青いサカナが逃げていくから。サンダルがサカナになるなんて信じられない?
白いサンダルだって気をつけてね。ほら、あなたの足の下でばたばたしてるわ。今度はトリね。早く自由にしてあげて。
さあ、サンダルに逃げられてしまったわ。どうやって帰ろうか。
「しっかりするところはしっかりせよ。
学校も一種の社会やで。
シャツのスソはちゃんとズボンに入れよよ。
それからサンダルは履いてくるな。
うちは工業高校やで。
いろいろ危険な物が落ちとることもあるし。
実習で足の上に物が落ちる場合もある。
こらそこ聞いとんのか。
しゃべってばっかおったらいかんぞ、おい。
あとでしゃべれあとで。今は聞け。
お前らみたいなのが一番心配なんやで。
長いこと教師やっとるとな、
ほんとに事故で入院してまう奴とかも見るで。
工業ではバーナーも高電圧も切削器械も溶けた金属も扱う。
とうぜん何年かに1度は怪我人も出るわ。
骨みえたり指なくしたりな。
お前らの歳でそれはあんまりやろうが。
ええか、サンダルは履いてくるな。
サンダルのもんは授業うけさせん、怪我されてはたまらんで。
暑かろうが水虫やろうが汚れていいクツ履いてこい。
こらそこ分かったか。死ぬぞお前」
再会したその時に限って、安いサンダルを履いていた。
それだけで、自分と彼が結ばれぬ悲しい運命だとわかった。
そう思い込んでしまうのは勝手だが、
彼にしてみれば、安かろうがブランドものだろうが
登山にサンダルを履いてくるような女はごめんなんである。
だるい、だるい、だるい、と三回唱えて願い事をする。そうすればきっと、今の状況から抜け出せるかもしれない。ヨシオはもちろん仕事が無くて、すなわちお金も無かった。もっぱらの日課は家に居ることだ。
だからこそ、インターネットのオークションで見つけた<幸運サンダル>に入札してみたのは、藁にもすがる思いからだった。そのネーミングに、ヨシオの指は反射的に動いた。『健康』や『ダイエット』なら分かるが、『幸運』というのは初めて聞く。
結局、他に落札者も出ず、数日後には商品が手元に届けられた。ヨシオは期待に胸膨らんだ。このサンダルを履くだけで、本当に幸運が舞い降りてくるのだろうか?
しかし箱を開けてみると、サンダルとは呼べない代物がそこにあった。慌てて同封されていた薄っぺらい紙切れを読んでみる。
<毎度ありがとうございます。当社では、今までのサンダルという概念に捉われず、足に優しい素材を使い、履き易さ及び軽量化に重点を置きました。これならば、足の裏が蒸す夏も快適! 霜焼けに苦しむ冬も安心! 小判に似た形状が素敵! あなた様もきっとご満足され、素晴らしい幸運を手に出来ることと一同願っております>
「……これって要するに、ただの草鞋じゃん」
藁にすがった期待がワラワラと崩れ落ちて行く瞬間だった。けれど、ヨシオはチョッピリ思った。たまには外に出てみるのもいいかな……。
曇り空が紅に染まる頃、少女が老婆に問い掛けた。
「空が燃えているよ」 白い砂浜と水平線の彼方に浮かぶキノコ雲が、老婆の心の底からセピア色のアルバムを取り出した。
真っ青な空と明静な朝が時を刻み始めていた。しかし、それはひとつの鉄の塊によって暗黒の空と灰鳴な時間に創り返られた。
少女はその時の中を只ひたすらに走り続けた。気が付いた時、目の前に飛び込んできた情景は炎で燃え上がる町とその光で赤く染まった天雲であった。
「空が燃えているよ」振り向いた木陰にはサンダルを履いた女の子が座り込んでいた…。
「おやっ、これは一雨来そうだね。そろそろ帰ろうかね」
「うん」老婆と少女は手を繋いで紅の海辺を後にした。サンダルの足音を残しながら。
耳元を勢いよく風が通り過ぎた。痛みを感じる間もなく、僕の体は
バラバラになって路上に散乱した。
みるみる野次馬が集まって来る。
眼に涙する者、あきれる者、見えないふりをして遠ざかる者。
そのうちに警察官がやって来てビニール袋に僕の体を無造作に投げ込んで
行く。
炎天下に広がる真っ赤な海を、やはり真っ赤なサンダルがビルの屋上から
静かに見下ろしていた。
僕の最後の足跡の上に、まだ微かな体温が残っている。
一ヶ月前、始めてサンダルを履いた。いつもスニーカーばかりだったので、何かぎこちない。20歳にもなってサンダルを履いた事がない私に、余計なお世話の母が買ってくれたのだ。仕方がないのでちょっと出かける事にした。それでもお気に入りの場所に着いた頃には、何となく足に馴染んできたから不思議だ。素足にサンダル!浜辺をそのまま歩く事が出来るのだ。そう!海に来たのだ。バシャバシャ!!実に気持ちが良かった。余計なお世話の母に感謝した。そして、そのサンダルは余計なお世話の母の、最後のプレゼントとなった。わたしの母への感謝と供に・・・。
蔓が地から這い出して足に絡みついて。転んじゃったわ急いでるのに。サンダルなんか履いているから。蔓の隙間からしか足が見えないわ…。
そっかシマウマもサンダルね。
サバンナのピラミッドの頂点でない者。全身サンダル履きなのよ。
上がった息が二酸化炭素をまき散ちらす。
走ってたから。
日差しがキツイ。汗が素足とサンダルの間でべとついている。
動けない。蔓が!サンダルが!!
被食者である必要なんて、ないじゃない……!
ゴッ。
あたたた。サンダルに指が。
黒光りする鉄の靴底。足首を固定する革の帯は太くじょうぶで、それが甲側で交差する位置に錠がついている。サンダルというより拘束具だ。
ぼくは柵の外から羊男の行列を眺めている。彼らはみな前述のサンダルを履き、アフロヘアの下にはひきつった顔がある。先頭は小屋の戸口。中でバリカンがうなり、赤裸にされ、しくしく泣きながら出てくる。
何人かがとつぜん逃走を図る。ひとりぼくの方へ走ってくる。だが鉄のサンダルがアスファルトにガチャッと貼りつく。逃走防止用の電気磁石が埋めこまれているのだ。走ろうと足を前後させるが、ほとんど前には進めない。彼は目を見開き、ぼくに救いを求めるよう両手を上げ、ンメェ、メエエと絶叫する。だがぼくに羊語はわからない。やがて哀願する表情のまま、ムーンウォークで引きずられていく。
北のほうから色っぽい女が走ってきて、どさっと柵によりかかり肩で息をする。茶のソバージュを掻き上げ、胸元から鍵をとり出す。スカートに突っこみガチャリとひねると、股間の鎧みたいなものがゴトリと落ちた。それは革と金具と錠前とで出来ている。視線に気づき女は一瞬狼狽するが、すぐあだっぽい笑みを浮かべた。
「ねえ、一緒に逃げてくんない?」
かくしてぼくも羊男の運命となる。
川の流れにまかれていく小さな赤いサンダルが
目に焼きついて離れない。
導かれるように海へと向かった。
赤い小魚を拾った。
波間を見え隠れする小さな赤いサカナ。
なんでこんなところに。
手を伸ばすと当たり前のように手のひらの中に収まった。
帰りに金魚鉢を買い、持ってきた海の水と一緒に入れてやる。
精霊棚には片方だけの赤いサンダル。
気付くとサカナは消えており、
茄子の馬は濡れており、
そして精霊棚には揃えられた赤いサンダル。
おかえり。
昭和39年の夏。風鈴。
オリンピックムード一色の新聞の片隅に
「サンダル少年、日本一周」という記事があった。
扇風機。父親が記事を読んでくれた。
日本の浜辺をサンダルで踏破すると言ったきりその少年は家を出たそうだ。
幼かったぼくには、サンダル少年が英雄となった。
その後、海岸でサンダル少年らしき少年を見かけたという読者からの知らせは、
なかった。だれもほんもののサンダル少年というには決め手を欠いていた。
日の丸。日本選手団の行進。
ちゃぶ台。
英雄はもうそこまで来ていた。
ぼくは箸を置いた。
「おい、どこ行くんだ?」
「うるさいな、ハゲおやじ!」
海辺の浜に出た。寄せて返す波に立つぼくの足に、
流れついた黄色いサンダル。おかえりなさい。
サンダルをはいて街に出たら、男たちの視線が絡みついた。あんまり絡みついたので、手で振り払い振り払いしながら歩いていたら、偶然向こうから歩いてきた妹に、お姉ちゃん何そんな笹を掻き分けて歩くジャイアントパンダみたいな、と思いっきり怪訝そうな顔で言われた。これだから子供の頃、将来の夢は何?と聞かれて「動物園の飼育係」とか答えていたような奴は困るのだ。
どきどき心臓ははちきれんばかりで、うみへとつながる急な坂道を駆け降りてった。きいてしまったきいてしまったどうしよう? 振り返ったらサトルのぼうずあたまが見えた。あせかいて必死だ。あたしだって必死だ。 どうしようどうしよう?もう気が動転してしまってほんとにどこいったらいいのかわからなくなって、逃れたい一心でうみのほうへと駆けてった。おねがいおねがいもう追ってこないでぇ! 私の願いはこれっぽちもどこへもとどかずに、サトルもざばざばうみへ割ってはいる。うみぼうずが追っかけてくるみたいだ。必死で逃げて逃げて足がもうつかなくなってしまいそうになったとき、サトルが「すきだぁ〜」と叫んで、あたしのサンダルがかたっぽ、プカと浮かびあがった。
12歳の夏に。
ベトナム人の男の子から、赤いリボンのついたサンダルをもらった日に。
公園のトイレで、オカマの純さんにお化粧の仕方を教わった私は、きっと、世界で誰よりも美しい。
「もう間に合わねぇよ」
そう言ってうなだれる純さんは、とても神々しくて、私の心も折れそうになった。それでも、
私は走りはじめた。
(そうそう、純さんにはお礼を言っておいたけど、聞こえなかったかもしれない。そのとき、私は初めてヒトを許したんだ、純さん、わかってくれたかな?)
走りだして、ほんの少しで、足が痛くなってきた。
もらったサンダルのサイズが合っていないからだ。
どんなにがんばっても空を飛べないくせに、地上もまともに走れないなんて、死ぬほど恥ずかしい。
周りのみんなはどうしようもなく不幸なのに、私だけがこんなにも幸せなのはなぜだろう?
そして、どうして、このサンダルには彼の名前が刻まれているのだろう?
三田 留、36歳は、
夏になると出かける事が多い、というより利用される事の方が多いのかもしれない。
寒いのが苦手という彼。
体質が夏向きなのである。
綺麗な客に当たればラッキーだが・・
クセ〜奴に当たったら最悪。
外周りが主だが、部屋の中が主な奴は幸せだ。
綺麗に生涯を減らしてく。
夏。つっかけ。蹴られた猫。
「困るナァ、乱暴は!」
夏休みに帰ってきた姉ちゃんは、化粧をして、髪の毛も茶色くって、まるで別人みたいだった。玄関にはヒールの高い白いサンダル。「あんたにはまだ早いわよ」。居丈高な口調は前のままなのに。「なによ、あたしはちゃんとやってるわよ」。母さんとやり合う声も。
ヒールの高い白いサンダル。姉ちゃんはまだキッチンで母さんと。
そうっと静かに履いてみる。
少し目線が高くなる。あしもとがおぼつかなくて。でもおとなおとなおとなになった気分。これをはいて姉ちゃんは、歩いたんだ笑ったんだ飲んで浮かれて騒いで。そして。
恋をした。ゆらゆらゆれて。腕をからませる。しなだれかかる。あしもとがおぼつかなくて。ひとりじゃ立てない。ヒールの高いサンダル。
こんなのがおとななの?
「あんたにはわかんないよ」。向こうの部屋から姉ちゃんの大きな声。
わかんなくてもいいかな。ゆらゆらゆれながら。あたしはスニーカーに履き直す。そして駆けていく。真夏の太陽の下。
宇宙の侵略者。地球の言葉ではその名を発音する事すら出来ない、特殊で高度な技術力を持った「生命体」の巨大円盤が密かに、しかし確実にこの地球の遙か上空に待機していた。
彼らの侵略前のコメントである。特別に日本語に意訳している。
『コノ星ハ、マレニ見ル高度ナ科学力ヲ有シテイル』
『滅ボスベキカ、今ハ見守ルベキカ』
『コノ星ノヤリ方ノヒトツデ決メルトシヨウ』
ふと空を見上げたその少年は、「何か」が原っぱの先に落下するのを見つけた。子供らしい好奇心でそちらに向かって駈けて行く。
地面には少年の住む部屋がちょうどすっぽり入るぐらいの大きさで穴が開いていた。そしてその中央には・・・
・・・底を上に向けた「サンダル」が浅く地面に埋まる形で何故か「跳ね返りもせずに」白煙を立てていた。
少年は素直な気持ちで「予言」とも言える言葉を呟いた。
「明日は雨だぁ」と。
サンダルに、ハイテクエンジンを搭載する。これなら高スピードで歩けるぞ。出来栄えには自負している。
昨日の模型屋の店主の訝しげな顔などは気にかけず、高額な買い物も一ヶ月くらいなら部屋代を滞納しても大目に見てくれるだろうと高を括り、時間を忘れて組み立てに没頭した。
特許申請を相談しようと、恩師の家を訪ねるが、肌着姿の老教授は研究中の新理論について熱弁をふるうばかりで、サンダルには目もくれず、仕方なくぺたぺたと重い足取りで北西の果てに向かい、足裏にマメをこしらえ、港のベンチに座って常備してある傷テープを貼っていると、子供が興味深げに近寄ってくる。
「歯車は純金製だね」
「よくわかったな」
「見かけは立派だけど、構造上パワーには欠けるね」
何をぬかすかと言いかけて、よっこらしょとサンダルを引っ掛け、再び歩く。
コンパの会場は駅に近い居酒屋だった。5対5に組まれたメンバーの女の子は、カワイイ:普通:カワイクナイ=1:3:1。野郎はみんなカワイイ狙い。身の程知らずな奴ばかりである。
俺はその女をチラチラ見ながら冷酒をあおっていた。
テカテカと光った紫のミニスカートにミントグリーンのキャミソール。露出しまくりの肌にナチュラルとは程遠いメークがよく似合っている。
頭の中ではあんな女のどこがいいんだかなんて強がってみるが、アルコールが入って理性を失い始めた下半身は「ストライク! ストライク!」と連呼している。
トイレに行きたくなった俺は立ち上がり、履物を目で探した。
有名ブランドのマークが入った金色と黒色のサンダル。あの女のだ。いかにも買いたておろしたてではなく、履きこんで、いや履きつぶすに近いくらいしんなりとして底にはやや黒ずんだようなしみがついていた。
それを見た瞬間俺は倒れそうになった。まるで彼女を背後から抱きしめてそして彼女の髪の匂いやつけている香水やその陰に隠れているほのかな体臭までいっぺんに嗅いでしまった気がした。
「ストライク! ストライク!」
下半身はさっきより激しくアピールしていた。
その日の会議は最初から荒れ模様だった。
「だいたいさあ、サンダルにはポリシーってもんが無さすぎんだよなあ」
角刈りの頭を掻きながら、司会の下駄がうんざりといった表情でつぶやいた。
「そうよ、あたしらにはちゃぁんと役割があるんだから。あんたってホント中途半端」
「うう・・・」
ハイヒールがいつもの高飛車で人を小バカにしたような口調で言った後を受けて、ニヒルなウエスタンブーツがトドメの一撃を言い放った。
「用なしは消えな」
プチン・・
キレた。普段は蚊も殺せない内気なサンダルは、その日生まれて初めてキレた。
「黙って聞いてりゃ、好き放題言いやがって。おい、下駄!おまえ歩くたんびにカラコロうるせんだよ!ハイヒール!おまえは外反母趾の子をどう思ってんだ!ブーツ!いつも恰好ばっかつけてるけどな、臭くて鼻まがりそうなんだよ!」
「なんだと、コノヤロー」
下駄が鋭い眼光を向けた途端、サンダルは一目散にその場から逃げ出した。
その後、サンダルは貯金を全部はたいて整形し、ビーチサンダルに生まれ変わった。しかし、仲間のもとへ帰るわけにもいかず、一人海をぼんやり見ながら暮らした。
3年後。
夏が終わりを告げて誰もいなくなった海岸に、忘れ去られたようにぽつりと佇むビーチサンダルが一足。それはやがてさざ波にさらわれて静かに消えた・・。
誰も知らないサンダルの小さな物語。
先月、私は祖母の父親となり、彼女を大いに脅かしてしまった。
今日は一体、私は誰になるのだろう。開閉のたびにちゃちな音を立てる薄っぺらなドアを前にする時、私はいつも暗澹とした気持ちになるのだ。
この部屋は、清潔な白と光に満ちている。だが、どこか湿った空気に私はいつも馴染めない。頑健なベッドにささやかに腰掛けた祖母は、会う毎にしわしわと萎んでゆくような気がする。
サンダルが流されたの、とぼんやりとしたその口調には不似合いな、熱っぽい眼をした祖母はそう口走った。
「帰るまでに見つかるかしら」
嫣然と微笑む祖母を前に、私は自分でも呆れる程に動揺してしまった。白々とひかる螢光灯が、固い床に照り返して目が眩む。
突然ひゅう、と風が吹いて、途端にとっぷりと足首まで包むように浸される感触がした。私の足裏を、取り残すように流れてゆくものがある。視線を落とすと、波間で白いサンダルが片方、揺れていた。
二人して、じっとりとした潮風にさらされていた。祖母の記憶に落ちたのだ。
お気に入りのサンダルとワンピースで、跳ねるように彼の元へ。
彼は車で海へと向かう。
彼は不機嫌そうに砂浜をざくざくと歩いていく。
さらさらとした砂にヒールは埋まり、足をとられる。
「海に行くって言ってあったのに、なんでそんなもん履いてくんだよ。」
お気に入りのサンダルとワンピースで、跳ねるように彼の元へ。
彼は車で高速のインターチェンジ近くへ向かう。
手馴れた様子で入り口へ。
大してワタシをみるワケでもなく、
ただ素足のサンダルから視線をゆっくりとあげて。
「今日はとっても素敵だね。」
お気に入りのサンダルとワンピースで、跳ねるように彼の元へ。
彼は車で緑地公園へと向かう。
ベンチでぼんやりひなたぼっこをしていると、
耳までまっかにしてぽつり。
「なんか、今日、可愛いね。その格好、とっても似合ってる。」
海辺の彼とは別れ、
インターの彼とは自然に連絡がとだえ、
そして、ワタシは公園の彼と結婚した。
お気に入りのサンダルとワンピースで、跳ねるように彼の元へ。
風もないのにハスの葉ゆれた
赤いものひとつ浮いてきて
日頃から先輩議員から煙たがられていた新人議員がある日、何を思ってか国会へサンダルを履いて登院した。このことで待ってましたとばかりに懲罰委員会にかけられ、議員辞職を勧告された。
議員は激怒した。
「何が道理かをよく考えていただきたい。こうなったら意地でもサンダルを履いて登院します。私は選挙で国民から選ばれた議員であります。最後まで議席を全うする義務があります。サンダルを履いてて何が悪いんですか。他の議員の中には斡旋利得をやって、献金を女あさりに使っているようなふとどきな議員までいるんですよ。」
議員はサンダル登院を続けた。
マスコミには引っ張りだことなり、新人議員としては破格の有名議員となった。議員は絶えず新しい話題をふりまいた。ただしハチャメチャをやっているのでなく1つ1つが理に適っている。
この議員は新人でありながら辞職を勧告された、とんでもない議員のように思える。だが25年後には違っていた。日本国総理大臣となったのです。
その子は少し変わった子。
すごくスラッとしていて、肌も色白で、ショートでとても可愛い子。
でも僕は一度も狼に変身する事がなかった。なぜなら、おいらとあの子は友達だから。
そんな彼女が履いていた黄色い、黄色いサンダル。付け根の横には赤い、赤い桃のマークが付いている。
そんなサンダルを履いた彼女の青い、ブルーの瞳が僕を見つめている。
でもあの子は存在している様で、存在していない様な人。だからおいらの目の前にはあのサンダルしか見えない。
でも僕はそんな彼女を探し求める。いつ会えるのか(永遠に会えないかも…)分からないけれど、あのサンダルが僕の手にあるかぎり。
むかしむかし
ある所に
お兄ちゃんが
川で平泳ぎをしていると、
川上から
どんぶらこっこ・すっこっこ
と
サンダルが流れてきました。
「なんて大きなサンダルだろう」
そう思ったお兄ちゃんは
そのサンダルを持ち帰り
わたしにくれました。
わたしがそのサンダルの
“2−Bこうだみさき”
という文字を
灯油で消そうとしていると、
サンダルのなかから
《証拠を消さないで。》
《警察に通報して。》
という声がきこえました。
いつものように家を出ようとしたら、愛用するサンダルの片方だけが無くなっていた。
起きてからジャーロの姿を見ていないから、奴がくわえていったか、それとも、寝てるあいだ開けっ放しにしていた玄関から、狸か狐でも入って持っていったのだろう。
ふと思い立って僕は、しまい忘れたローカットのバッシュを足につっかけると、片方だけのサンダルを掴んで家の裏手に回った。
朝から空は底抜けに青く、蝉の声は歩いて三十歩の裏山で喧しく木霊している。いい加減貼り替えなきゃならない瓦屋根のはるか上、太陽は微笑んでいた。
田圃を挟んで二キロ離れたお隣さんにユルいとこだと思われてるけど、遅刻にだけはうるさい会社で、太陽があの位置ってことは、そうぼんやりもしてられない。
放ったらかしてたガーデニング用の小さなスコップで雑草だらけの庭に穴を掘る。誤ってミミズを真っ二つにしてしまったけど、適当に深く掘った穴に僕はサンダルを放り込んだ。
心ある人にはサンダルのお墓に見えるかもしれない、けれど僕は、芽が出て膨らんで、たわわにサンダルを実らせた木になることを期待して少しずつ土をかける。もちろん、実ったサンダルは片っぽだけ。そんなヘンテコな木—
恋のだるさや、やるせなさ
言えばたちまち夢破れ、言わねば何も得られずに
労のだるさや、わびしさや
汗水垂らして働けど、夢は離れていくばかり
生のだるさや、はかなさや
夕べには白骨の身となりて、散りゆく友をいと惜しく
「なんで、こんなところに・・・」
私は、犬の散歩で山道を歩いていると、よく靴が片方落ちているのを発見する。本当によくある。この人は一体どうやって帰ったんだ?だいたい、靴がぬげたことになぜ気がつかない?あほなのか?あほなのか?と、思う。しかし、今回はそういうことは考えなかった。なぜなら、落ちていたのは、子供用の赤いサンダルだったから。もう、あれしか思わない。あれしか。
「あぁ、かわいそうに。まだ小さな子なのに。かわいかったろうな。ころころっとしてて。むちむちっとしてて。笑顔はもう、天使だ、天使。犯人もそんな気で山へ来たんじゃなかったのかも。木の実狩りとかに来ていただけで。でも、あの子があんまりかわいかったものだから、つい・・・そうそう、なんかあんまりかわいい子を見るとかえってなんか、腕をぐにゅってやりたいとか考えちゃう。そういうことってあるある!仕方ねぇ、仕方ねぇよ!」
その時、若い夫婦がやって来た。
「パパ、気がつかないんだからもう!」
そう言いながらサンダルを拾い、去っていった。よく見ると、父親に背負われて眠っている、女の子の姿が。それでも私は思う。
「果たして本当に親子なのか・・・」
白く細い足首に紅いサンダルが映える。
ぺたんぺたんという規則正しい音。
ほこりっぽい田舎道は、山の向こうの入道雲へと続いている。
もう君はどこかへ行ってしまったんだね。
畦道でザリガニを追い回すことも、もうないし。
俯き加減で歩く僕の目の前を、彼女のサンダルが歩いていく。
振り向くと、麦わら帽子の影に太陽がぎらりと光った。
閃く白昼夢。
けたたましいブレーキの音と誰かの悲鳴。
宙に舞うのは、紅いサンダル。
宙に舞うのは、紅い・・・
気が付くと、紅いサンダルは今も僕の目の前を歩き続けている。
道の先に雨雲が見える。
風がどっと吹いて、辺りに咲いている曼珠沙華の花が揺れる。
夕立が来る。
巻貝の帽子を頭にのせた神が新しい旅に出ると、炎の帽子で髪の毛が縮れた大王が遣って来る。大王の家来は雷神と決まっている。
雷神はサンダルを履いていた。サンダルはゴム星人に作らせた特注物で、雷神のお気に入り。
「何だ、そのサンダルはミットモナイゾ!!」実は大王もそのサンダルがお気に入り。でも大王にサンダルはない、なぜなら融けてしまうから。そこで雷神は考えました。そして完成したのがこのサンダル。
「うむっなかなか似合うぞ」大王は大喜び。しかし、ある村人がこう言いました。
「大王様、相変わらず素晴らしいお足をお持ちで…」
「何を言うかこの馬鹿者め」村人はたちまち大王に黒焦げにされてしまいました。しばらくすると町中の村人が黒焦げになりました。それを見た雷神が言いました。
「大王様、実はそのサンダル正直者には見えない物なのです」
「そうか、ならばしかたない。地上へ降りるぞ」
それから地上ではそのサンダルがブームになりました。めでたし、めでたし?