中央線国分寺駅のホームは人で溢れていた。
駅員さんのアナウンスによると、三鷹駅付近で人身事故があったのだ。30分は待つ覚悟でいたが、幸いにも程なくして電車は到着した。あたしは半分人ごみに身を委ねるカタチで電車に乗り込んだ。
吉祥寺を過ぎた辺りだったと思う。ふいに、背中に人の指の感触を覚えた。それも、セーラー服の内側に。細い、滑らかな指。ドア越しにうっすら顔が見える。なんと、まだ中学生だ。しかも、大きな瞳とつやつやの長い髪が印象的な、かなりかわいい女の子だ。
指は肋骨をするすると撫で上げ、肩甲骨の辺りで止まった。そして、何ら臆することなく右側のブラジャーの紐を引っ張ると、あろうことか、そこに何か紙キレのようなモノを挟み込んだのだ。
あたしは不覚にも、一言も発することが出来なかった。男性に痴漢されたことは今までにもあったが、女性に、しかも中学生の少女に痴漢されるなんて、体験はもちろん、聞いたことすらなかったから。
彼女は何も無かった顔をして、中野駅で電車を降りていった。
新宿駅のトイレで、あたしはブラに挟まれたその紙キレを見てみた。紙にはこう書かれていた。
「あなたには、あたしが見えるのね」
短くて小さな、しかし確実な衝撃。
次の瞬間、ぼくの上体はゆっくりと(少なくともぼくにはそう感ぜられた)斜めに傾いた。
寒い。
ついさっきまで自分の体の一部をなしていた、温かくて真っ赤な液体を、右のわき腹から惜しげもなく流してみる。全ての自由と引き換えに。
目を閉じてみる。色とりどりの光の渦がまぶたの裏を駆け巡る。
やがてそれらは闇に飲み込まれていく。
闇。
しかしそれは暗くない。白い闇だ。
闇は白く光り輝いていてとても美しいもののように見える。しかし同時にひどく寂しいもののようにも見えた。そしてその孤独で美しい闇の中で、ぼくはどうすることも出来そうにない。
苦しくはない。でも早く楽になりたい。
赤い液体を、もっとたくさん流してみる。
例えば目とか、口とか、首の付け根とか、右手首とか。本当はそういう色んなところから、もっともっと一度に液体を流したいのに、それをすることが出来ない。
仕方がないので右手の小指に塗られたスカイブルーの爪のことを考える。
よく一緒に寝た、黒い髪とつり気味の目が印象的な女が、ふざけて塗った爪。
全てのことが終わった時、この爪はどうなるのだろう・・・
液体を流し終えたぼくは、だから今ここにいる。これからもずっと、永遠に。
先生、僕に向けられた罵詈雑言は全部、この鼓膜が粉々にしてなんともなくしてくれたんです。黒々とした石は、灰のように小さくなって僕のなかに吸収されて、だから僕は、その言葉を笑って受け流したり、それをネタに面白いことを言ってみたりすることができたんです。
でも、その鼓膜のフィルタが壊れてしまったんです、先生。ある言葉を彼女から聞いた瞬間に。先生、ずっと僕は、自分のことを愚かで卑しいと思ってきました。だからこの鼓膜も正常に働いてくれていたんです。でも、そうであると、今の僕は信じることができないのです。大多数の否定より、一人の肯定のほうが正しいような気がするのです。そう思うと、鼓膜がうまく働いてくれないのです。言葉の衝撃がそのまま身体中に伝わってしまうのです。先生、僕の鼓膜を治してください。お願いします。先生。どうして何もしてくれないんですか。鼓膜が病気なんです、彼女が「あなたの全部が、私は、好きだから」って言ってから。先生、なんでそんな眼をするんですか。
もうずっと前、あたしのママがあたしをつかまえた。あたしは蝶々みたいにピンで留められた。
あたしはどこか別のところから来たのだ。だからみんなあたしが嫌い。ちくちく針で刺すし、あたしの髪を引っ張る。突き飛ばされて血だらけ傷だらけ。
あたしは何もしてないし、何にもしたくない。何にもわからない。頭いっぱいの歪んだ音楽と、肺いっぱいの淀んだ空気。
ここはあたしのいるべき場所じゃない。早くどこかに帰りたい。
あたしは逃げる。逃げて逃げて眠る。あたしがうまれたベッドがあたしを守ってくれる。まだ陽が高いうちから、夢も見ない深いやさしい眠りに落ちる。
そうして次の朝目が覚める。まだ生きている。生きているってことに気付いて、恐怖があたしを貫く。
たすけて。
側頭葉の損傷による記銘障害のために、君は前日の記憶が残らない。朝起きるたび、ここがどこなのか、自分はどうしたのか、わからずにとまどう。昨夜の記憶と今日が繋がらない。毎朝医師の説明を受け、そのたびに驚く。
ベッドサイドテーブルの上の、自分の日記と称するものを読む。書いた憶えのない、とりつかれたような恋文の連続。
十四時、ひとりの娘が訪れる。なにくれとなく君の世話を焼き、対話の相手をしてくれる。どうしてこんなに懐かしいのか。はじめて会った気がしない。まさに彼女が、日記の中に繰り返しあらわれる娘であると思い至る前に(ときには後に)、君は恋に落ちる。
彼女が帰ったあと、なにか書き留めずにはいられなくなる。そうしてまた、日記のページが埋まる。あとになるほど、娘の帯びた懐かしさが強調される。出来事の記憶が失われても、衝撃が残っているのだ。
ある日を境に、ふっつりと娘は来なくなる。
十四時、奇妙な、暗い昂ぶりが水位を上げ、君の心臓を浸す。胸が高鳴ってゆく。期待と落胆がないなぜになったような、傾いた感情でいっぱいになる。感情は舷側を擦り合わせながら次々と難破してゆく。はじめ君は、自分になにが起きたかわからずにいる。やがてそれが、恋の不在、恋の音楽の残響だと気付く。さきほどまで読んでいた日記のなかで、日一日、輪唱のように積み重なり高まっていった恋だ。記憶にない恋のこだま。
君は、ふたたび日記をひもとき、娘が訪れた最後の日からの日数を数え上げる。その日数ぶん、こだますものはひびき終わっていくように思えて、なごりを惜しむ。
西側に大きな窓が一つだけある僕のアパートの部屋は、だから夕方になると、太陽がその光を惜しげもなく降り注いでくれる。
あたたかくて美しい、オレンジ色の世界。その光の優しさに、僕は自分が骨抜きになるのを感じる。
ある夕暮れのことだった。
いつものように窓の外を眺めていた僕は、はるか向こうにきれいな色の建物を見つけた。青。というか、群青に近い。とても遠くにあるのであろうそれは、注意していないと見過ごしてしまいそうなほどにそれは小さくて、そしてなんだか悲しそうだった。
「何の建物だろう」。僕はそう思ったが、地図で調べることはしなかった。何となく、敢えて。
その日以来、群青の建物を観察するのが日課になった僕はある時、建物の上に人がいることに気付いた。
すその長いワンピースを着た、長い髪の女性。彼女は少しも動かない。何をしているのだろう。
僕はしばらくの間、彼女を観察していた。夕日が沈み、建物が闇に包まれてしまうまで。
翌朝、僕が起きた時には建物はなくなっていた。
何が起きたのか。皆目見当もつかなかった。
働かない寝起きの頭を掻きながら、僕はテレビをつけた。もうすっかり朝の顔となった若手アナウンサーが、飛び降り自殺のニュースを読んでいた。遺体は髪の長い、若い女性だったという。
太古。
とある海辺で、最初の言葉を思いついたヒトが、衝撃で言葉を失う。
公園に散歩に出かけた。愛しあう二人をみかけた。二人は固く抱き合ってキスを交わしていた。二人は唇から溶けだして、二人の顔はひとつの白い塊りになり、二人の体はひとつの黒い塊りになり、二人の塊りはベンチに溶けていった。私の体も地面や木や草に溶け、二人も私も噴水もゴミ箱も夕日も境界線を失った。私は世界とひとつの塊りになり、目も眩む幸福感で満ち溢れた。そして戦く。私がこんなに幸せであってはいけない。私がこんなに幸せであるはずがない。
私は部屋に逃げ帰って茶わんを洗った。
くしゃみしそうになって、慌てて堪えた。
鼻水をすすり上げる。微熱臭くて酷い悪寒がしてきた。俺はさっきカジった風邪薬の欠片を唾で吐き出す。それは舞い散る粉雪を纏わりつかせ、小さな雪玉になり、目の前の小道を颯爽と駆けてった。
「なあなあ、早く、コートを脱げってば」と言うと、
隣で所在無さげに髪を弄る女は、やや視線を逸らす。
「こんなん、誰も来やしねーよう」
見渡す周囲は雪囲木で人獣の気配すら無い。で、女は断った。
「でも、さむい」
「それをさ、温めてヤルンダよ」という優しい心遣いなのに、これでは、サッパリズッポリだ。
懐に忍ばせたデジカメで、テストついでにと、唇を噛み締めて耐える女の姿を盗撮する。風邪薬が効かなかったのか。頭の中で錆びたテープが超ゆっくりに逆回転しているようで、頭デッカチに中軸がぶれる。
暫らくすると、女は厭々、コートを脱いでった。わずかに上気した頬の下には何も服を着てなく、白い裸体と、赤黒いミミズ腫れのような罅の入った陶製おっぱいが、寒風を避けて露わになる。
イイヨーイイヨー。
それが砕け散って「ち」まうのには、あと少しの心音の高鳴りでも、うん、十分だ。
僕は衝撃を受けた。虹造りの修行に出て3ヶ国目。この国では誰も空なんか見上げないのだ!虹は見る人の感動で伸びていく。もっと見たいと思うような魅力的な虹の根本を造るのが僕の仕事だ。でも見てもくれないんじゃ話にならない。今日はたまたま皆忙しいんだ。明日はきっと・・・。そう思いながら修行を続けて半年。僕はすっかり自信を失くした。これじゃあ1級建虹士の資格が取れない。我慢していた涙が一粒落ちた。
あーあ、と私は、いつもは下を向いてつくため息を上に向かってついてみた。うまくいかないなぁ。その時ポツンと顔に水滴があたった。こんなに晴れてるのに雨?その時視界の隅に細い虹が映った。わぁ!見とれると虹は少し伸びた。きれい!もう少し伸びた。すごい!ぐっと伸びた。ポカンと眺めているとぐんぐん伸びていく。衝撃的!まるで私の気持ちに合わせて大きくなってるみたい。信号待ちをしている人々がザワザワしだした。皆空を見上げている。あちこちで歓声があがる。虹はさらに伸びていく。
地球は線だった。ぼくたちは点です。
結婚して八年。俺たち夫婦には子供がいない。避妊をしている訳でもないし、行為をしていない訳じゃない。
2年前には医師に相談したが、共に問題は無かった。タイミングの問題だろうと半ば達観してもいる。
正直な話、俺は子供が好きではない。煩く、邪魔で、思い通りにゆかない。電車などで居合せた際には苛々する事も多い。
でも、自分の子供ならばかわいいのだろうと想像だけはしている。
「あなた」
普段と何も変わらない夕飯の席だった。妻の真剣な顔は不安を掻き立てるもののような気がした。
「子供が出来た」
抑揚に欠けたその言葉は、圧倒的な喜びから飽和してしまっているのだと思う。
「本当か?」
抑揚の無い声で答える。感情をどこかに置き忘れて来たような気分だ。ただ子供が出来る事が、こんなにも自分にとって大きな事だったとは。と、冷静になろうと思考をずらす。
暫くの沈黙の後、妻を見つめた。少しだけ感情の現れた顔になっただろうか。
妻も俺を見つめた。
「あなたの子供じゃないの」
小学校の中庭。ニワトリのコッコッコという鳴き声と、飼育委員のザッザッザとホウキで掃除する音と、吹奏楽部のプープーというクラリネットの響きが少女を躍らせる。コッコッコ、ザッザッザ、プープー。
そんな彼女の近くを団子虫が這っていく。腰を振りながら少女が人差し指でつんと触ると、それはくるっと丸くなった。目を輝かせた彼女もくるっと丸くなる。そしてごろごろとそのまま転がっていった。飼育委員は、目の前に来た彼女をホウキで元の位置まで押しやりながら、邪魔、と呟く。少女はきゃっきゃと笑った。コッコッコ、ザッザッザ、プープー。
団子虫がまだ丸いままだったので、少女はこりずにつんつん突いてみる。それからふとした思いつきで、その丸まっているかたまりをこじ開けようとした。小さな手で端と端とを掴み、丸を直線へ。
コッコッコ。
ザッザッザ。
プープー。
ぐきっ。
少女は体液の付いた手をまじまじと見つめて、それからもう動かないそれを慌てて放り出し水道へ向かう。蛇口をひねり水をざーと流したところでハンカチを忘れたことに思い当たり、気が抜けたのかしくしくと泣いた。コッコッコ、ザッザッザ、プープー、水音ざー。
自分が殺しをする場合、一番大切なのは、殺されないことだ。
万が一のため、自分を狙うものがあれば
そいつを間違いなく殺してくれるよう別の殺し屋に頼んでおく。
殺し屋のプロならそれくらいは常識だ。
その青年は今日ある殺し屋に護衛を頼まれた。
その殺し屋はまだ少年といえるほど若く、今日は
殺し屋としてのデビューを飾る日らしい。
その少年は今日ある殺し屋に護衛を頼まれた。
その殺し屋はもう中年といっていい年で、今日は
殺し屋としてデビューして20年目の記念日らしい。
その中年は今日ある殺し屋に護衛を頼まれた。
その殺し屋はもう老年といえる年で、今日は
殺し屋として引退する最後の日らしい。
その老人は今日ある殺し屋に護衛を頼まれた。
その殺し屋はまだ青年であり、今日は
殺し屋としての依頼が20回に到達した喜ばしい日らしい。
ふと、それぞれの四人は、それぞれが護衛すべき対象に、
銃口が向けられているのに気付いた。
緊張が走る。殺し屋としての使命を全うすべく、四人は
それぞれに向けた銃の引き金を引いた。
一瞬の衝撃が走り、後に残るは四つの死体。
慟哭を終わらせるはずのぼくは何も出来ず、ただ、泣いている女の子の前に立つ。何も言えないぼくはただ、嗚咽の声に怯えることしか出来ない。
女の子は泣き止まない。
限界だ。ぼくはこれ以上、夢の世界にいたくない。
無力なぼくは、この世界にいるべきじゃない。エゴイスティックな感情なのはわかっている。
こんな思いをさせられなくても、現在のぼく自身が無力なのは理解している。駄目だ、駄目なんだよ。だからお願いだ。
脆弱なぼくの心を吊し上げるのを、やめてくれ。
嗚咽の声は消えない。
ぼくは目を閉じた。女の子の姿が消える。
ぼくは耳を閉じた。泣き声が源を失った。
ぼくは目覚めを待った。この夢を結んだその時に、目覚めるために。
反響する泣き声が、神経にベットリと絡み付いている。流れる汗のように纏わり付いて、放れない。
駄目だ。こんなことじゃ、逃げられない。安易な逃避は成功しない。努力が足りない。
ぼくが干渉しなければ、夢は終らない。
泣き声はぼくの体からでて行かない。ぼくの心がぼくの前に晒されるのも止まらない。目を閉じても、耳を閉じても、ぼくはぼくから逃げ出すことができない。因が在るから果てがある。
ぼくは自分の愚考と愚行が、妥協した自分が、許せない。
ぼくに残された手段は、一つしかない。
ぼくはぼくの首を絞めていた。
僕は君の側に居ると幸せだった。
君の小さくて柔らかな手に包まれたり、お日様に照らされてキラキラした僕が君の瞳に映し出されるのが嬉しかったんだ。
ほんの少しだけ僕を輝かせてくれるお日様に興味を持ったけど。
君が僕を飲み込もうとするのを見て君のママが真っ青になって僕を君の手から弾き飛ばした。
僕は勢い余って窓から外の世界に飛び出たんだ。
一瞬お日様が僕に近づいたけど、あっという間に僕は右に左に転がって、その度に雪が僕に纏わりついてきたんだ。
僕はどんどん大きな雪玉になった。でも本当の僕は小さなビー玉。
沢山の雪の衣を纏ってもここは暗くて寒くてお日様がちっとも見えないよ。
僕は君の側に居ると本当に本当に幸せだったんだ。
音楽家の娘、それも年端もいかぬ娘がにわかに、たおやかに歌いはじめる。教えた憶えはない、聞き憶えもない歌。音楽家は一瞬呼吸を忘れる。
歌は、しあわせでできた土埃のように立ち籠める。視界が霞み、音楽家は自分の頬が濡れているのに気付く。心が追いつくより早く、身体が反応している。歌は音楽家の内部でどんどん大きくなる。彼の身体を聖堂のように使って。
「知らなかった。人間がこれほどの音楽を奏で得る楽器であったとは」彼は声を震わす。
これまで自分のやってきたことは音楽などではなかったと感じる。音楽家はきっぱり音楽家をやめて、音楽家になる決意をする。「ありがとう。生涯これほどの感動を味わう機会はないだろう」心よりわが娘に礼を言う。「自分の心が、この音楽をひびかせるだけの深遠さを備えていたことがうれしい」
娘は歌いながら、涙と鼻水でぐしゃぐしゃの父の顔を見上げる。(自分が人間の父親ではないと気付いたら、次になにになろうとするのかしら、この人は)
父はいっぱいになっている。父の限界を計測して、余分な力を抜く。だいぶ抜く必要がある。
塀の上。猫の恋人たちがキスした拍子にねずみを落とした。
送電線がびゅんとひと鳴り。はるか彼方で鉄塔がひとつ吹き飛んだ。そのとなりの鉄塔が倒れ、そのまたとなりの鉄塔が倒れた。こっちに向けて鉄塔がつぎつぎ倒れてくる。
ねずみはまだくるくる宙に浮いている。
ぴりっとした痛みに慌てて腕をひっこめた。手首ににじむ血のしみは、彼女の爪の跡だ。
「ここからつながるのよ。いつも、いつでも」
彼女の爪が、さらに俺の傷口に触れる。ずぶり。——入り込む。
俺は驚いて後じさるが、彼女は俺の手首を離さない。血が流れ出す傷の隙間に、彼女の指が入り込んでくる。俺は逃げようとするが動けない。
ずぶり。さらに奥へ。彼女の手が俺の手を内側から乗っ取っていくのがわかる。俺は逃げられない。彼女の手が俺の手を操り始める。
俺の指がひとりでに前方へと差し出される。彼女の指が俺の手のなかをもてあそぶ。
そのたとえようもない快感。
彼女が俺の首筋に歯をあてる。ずぶり。軽い痛みとともに、彼女が首からも入り込んでくるのがわかる。首筋がぞくりとするのは、俺が彼女を待ち望んでいるからなのか。
そのまま彼女の手にすべてを委ねる。頭のなか、しるしだから、と、彼女の声が響く。 聡い彼女は、俺の心変わりを知っている。
呆然と、弥勒は立ち尽くしている。
ちゃんと約束通り、五六億七千万年後に還ってきたのに。
すでに宇宙は閉まっている。
まっくらで誰もいない。
「今しがたおうち着いたー。もうヘトヘトぉ。。。」なんて携帯メールを送信してから、彼女は卓上に軽い夜食を用意する。ティーバッグからお湯の中へと茶色い靄々がまだ溢れ出はじめたばかりのうちに、携帯がピロピロ鳴って「お疲れさま!明日もがんばれ。さっさと寝なね。」てな速攻レス。ありがとーん、って微笑みながらソファに身を沈める。自分を癒すためのささやかなひととき。テレビをつけるとか、そんな無粋な真似はしないよ。お手軽サイズの寂寥感を楽しみながら、紅茶をひと口、ホットサンドをひと口。「はあふう」とため息をついてみる。「ひやあ疲れちゃいました」とひとりごちてみる。やがて目がとろとろしてくる。ふたたび紅茶を啜って、大きな欠伸して、あーっでも寝る前にシャワーだけは浴びなくっちゃ。壁の時計に目をやろうと頭をもたげる。
その瞬間。べらぼうな衝撃が彼女の全身を貫くのだ。脊髄が軋んで頭蓋が撓んで、ゴキキという嫌な響きを音というよりほとんど振動として鼓膜の内側から聞く。
なんなのっ?、とか思う間もなく彼女の認識を照らす光明がぱつーんと落ちて、一貫の終わり。もう二度とダーリンには会えない。パパにだってママにだって。
第五回「凄いものを出しあう」コンテスト。
その日、少年が出会った対戦者たちはいずれも強敵だった。一戦目の相手は法華経を書かれたご飯粒を出してきたが、顕微鏡で確認したところ、ただ真っ黒に塗りつぶしたものだと判明し、退場処分をくらった。二戦目の相手は箱の中からその箱よりも大きい箱を出し、その箱の中からさらに大きい箱を出したが、手品だと発覚し、退場処分をくらった。準決勝の相手は五千年以上も生きている亀を出したが、審査員のひとりでペットショップのオヤジが確認したところ生まれて数ヶ月の亀だと指摘され、退場処分をくらった。決勝戦の相手は準決勝までで持ちネタを使い切ったらしく、辞退した。
こうして、コンテストの優勝者となった少年の前に、チャンピオンが現れた。最後の戦いに、少年は用意してきた、たった一つの凄いもの、一本の髪の毛を百八回結んでメビウスの輪にしたものを出した。それを見たチャンピオンは豪快に笑うと、背後に用意していた、とてつもなく凄いものを持ち上げた。その瞬間、会場は大きく傾き、その場は騒然となった。
チャンピオンの凄いもの。それは、全長3000キロメートルの「日本列島」だった!!
潰れかけた豆腐と気紛れの鯡が街角で出会う。そのとき誰かがミシンのことを思い出したかどうかは分からないけど、このエピソードを知らない人にとっては普通の話になってしまう。どうしたらいいのか私にも分からない。きっとその人たちはこの豆腐と鯡の恋や友情物語がここから繰り広げられていくと期待しているのではないか。私だってそんな話が好きだったのにどうしてこうなってしまったのだろう。そもそも私もこの話は知らないのだ。どうしたらいいのだろう。
幸せに暮らしました。
細い路地を歩いていた時のことです。
「ガガブシャッ!」
何かが頭上を横切るような気配がして思わず身構えた瞬間、大きな衝撃音が辺りに響きました。
とっさに固く目を閉じ、熱を帯びた破片がわらわらと降り注いでくる中で動けずにいると、しばらくして酸っぱいような臭いが漂ってきました。
おそるおそる目を開いた時、私は全身血まみれになっていました。
わけが分からず辺りを見回すと、道路脇の排水溝に頭からのめり込むようにして、衣服をボロボロに引き裂かれた若い女性が倒れていました。
私の記憶は、ここで途切れています。
病院で気がついた時、身体のどこにも痛みはなく、傷を手当てした様子もない事を不思議に思いましたが、見舞いに来た母の説明で全てを理解しました。
その日、失恋の痛みと孤独に耐えかねた若い女性が、発作的にビルの屋上から飛び降りました。細い路地を挟んで向かい合って立つビルの両壁に何度もぶつかりながら落下した彼女の体は、高速で回転するおろし金にでも触れたように皮膚が削げ、血肉を空中に飛び散らせながら、たまたま下を通っていた私をかすめて地面に激突したのです。
その若い女性は、弟の元婚約者でした。
「どんな事があったって、僕の君への愛は揺るがないさ。
たとえ君が、バツ3、6人の子持ち、借金苦の性病持ち、年齢詐称で学歴詐称の全身整形オカマだって!!」
こくんと頷く彼女。というか彼。
「えっっ、本当にそうなのかい??」
「さすがは俺の息子、チャンスは逃さねえってわけだ」
「そこだけは似て欲しくなかった」
「男と女がひとつ部屋で暮らしていてなにもねえほうがヘンってもんよ」
「そういう問題じゃないわ」
夫と妻が言い争っている。
男の子と女の子の双子が生まれたとき、医師は「おどろくほど早熟です」と言った。その後、女の子が妊娠していることが確認されたのだ。
感情の激動を衝撃と呼ぶのならば
その時代の人々は常に衝撃に飢え、衝撃を求めて
毎日を過ごしていた。
テレビからは「衝撃的映像」と銘打った番組が垂れ流され
無意味に人がたくさん死ぬ場面や
子犬を救出する感動的な場面を
これでもかと人々に向かって投げつけた。
音楽、絵画といった芸術も、どのようにして受け取り手を
感動させるか、そればかりを考え
あまりに荘厳すぎる音楽や
理解不可能なくらい前衛的な絵画が次から次に
人々によって消費されていった。
そう、それは消費といって差し支えなかった。
いつしか人々の感性は麻痺し、知性は磨耗し
個性はなくなり、人性は消えたかに見えた。
しかしそれでも私たちにはほんの少しだけ理性が残された。
その残された理性でもって、衝撃的なものにあふれたこの時代を見、
私たちがもうすでに昔のように衝撃を
感じることが出来ないと思い知った瞬間
今まで経験したことのないような衝撃が、はしった。
低音が彼を圧迫する。高音が彼女を突き刺す。二人は手を繋ぐ。二人は音の衝撃を分かち合う。衝撃はメロディになる。
ひとびとの見守るなか、意を決した男は、ついに屋上から飛び降りる。
野次馬がわっと引く。
衝撃を予測して誰もが身を縮める。
男は舗道に叩きつけられる直前、カエルの舌に巻き取られ、ぱくり、と食べられる。
自殺は未遂。
祖父・洋次郎88歳。昭和21年8月生まれ。祖父の日課。昼間はうとうとしている。日が暮れる頃になると自室に籠る。白い手袋をはめる。ラックから1枚の擦り切れたLPレコードを取り出す。レコードジャケットをしみじみと眺める。ジャケットから薄いビニール袋に包まれたレコード盤を取り出す。スプレーを薄くかけクリーナーで溝にそって一点の曇りもないように丹念に拭き取る。盤にホコリをつけないよう注意しながらプレイヤーの上に乗せる。そっと針を落とす。じじじじじ...微かなノイズの後、コーンを震わせ大音響が鳴り響く。
お おおお おおおおお なに なに これ スゲェ 凄ぇよ
おぉ なに何 この音 どうなってんの これ おお カッチョえぇ
おおぉ なんか 熱い 熱いぜ この リズムが また
ちくしょっ 頭が 体が 勝手に なんか うひゃ キモチいい
スゲェ 凄ぇよ こんな 音楽が あったの か うぉお おおおお
祖父は、生まれて初めてあのレコードを聴いた夜を毎晩のように繰り返す。
家族の顔はもう覚えていない。
現実とはそんなものだ。
信じるだけの理由があったから、君は手を伸ばした。そうだね?
届いたと思った刹那、乾いた音がして君は我に返ったはずだ。
君の右手は彼女の手のひらに振り払われ、刹那は君の網膜に焼き付き、どうしようもな
いから君はその手を握りしめた。
彼女の手のひらは冷たかったかい?
ぼくの名前がない!
オレはやわらかいトンネルの中にいる。匍匐前進。ゆっくりゆっくり進む。
もう何十時間もこうして少しづつ進んでいる。どこへ向かっているのか、わかっている。でも、わかっていないのかもしれない。
頭が窮屈で痛い。とにかく狭いトンネルなのだ。頭でトンネルを押し広げながら進むしかない。
時折、トンネル全体がひずみ、身体中が締め付けられる。こんな痛みは初めてだ。気が遠くなる。それでも進むのをやめるわけにはいかない。
前方にかすかな光を感じ、オレはやや元気を回復した。とにかくあそこまで行けばいいのだ。
だんだんと光は大きくなってきた。しかし、それに伴い頭痛もひどくなっていく。「もう、だめだ」
今度こそ本当に気を失う、と思ったそのときオレは光の射す方へと一気に押し出された。強い光と冷たい空気がオレを突き刺す。さっきまでオレがいた、薄暗く暖かな世界とは大違いだ。
オレはこれからこんな世界で生きていくのか!
恐れ戦いたオレは、あらんかぎりの大
声で泣き叫んだ。
オレの渾身の叫びを聞いて喜んでいる女がいる。
朝から、ふわふわするなぁとは思っていたのだ。
放課後、今日もあなたと他愛ない話をして、気が付けば他の誰もいなかった。
古いくすんだ校舎の壁を、床を、橙の陽光が這う。
教室特有の大きな窓にもたれると、黒い影が長く伸びた。
頭が、殴られたようにガンガン痛む。
風邪をひいたかな。まだ寒いし。
入学したらね、春になったら桜を見に行こうよ。会いに行くから。
ここで桜を見て、それから北海道でもう一度見たら、二回も見れていいよね。
私が口に乗せるのは、どれもみんな楽しい予定、そのはずなのに。
あなたが、とても言いづらそうに、口をつぐむ。
……何を言いたいの?
言いづらい事なんて聞きたいと思わないけど、聞かなければならないような気がして、私も、口をつぐむ。
しばらくの沈黙の後、ゆっくりとあなたが口を開く。
淡々とした別れの言葉。
それは私のショックと反比例して。
あぁ、私の顔が影になっていて良かった。
新しい痛みを抱えて、告げるべき言葉を夕暮れの町に探した。
ごおごお何かが鳴っている。視界は頼りなく霞んで、ぐらぐら揺れていた。
何をしてたんだっけ、とぼんやり思いながら目を凝らす。とその途端、沸き起こった痛みに悲鳴を上げた。頭から背中、いや躰の後ろが全部痛い。万力で締められてるみたいだ。
呻きながらも目を閉じられずにいると、目の前の白い影が像を結んだ。彼女だ。びっくりしたように僕を見ている。
ああそうか、はねられたんだ。後ろから走ってきた車に気づき、慌てて退こうとした。でも間に合わなくて、あっという間に逆さに転がった。
彼女は無事だったのか。すぐ隣を歩いてた筈だ。訊こうとしたが、顎ががくがくしてうまくいかない。彼女はただ、きょとんとして目を見張った。
寒い。躰が痺れて重い。息が苦しい。これは、まずいかも。
でも彼女には分からないのか、小首を傾げ、黙って僕を見ていた。黒目がちの大きな瞳が、澄んで硬く光っている。笑っているようにも見える。
悲しくはないのか。怖くはないのか。
彼女の顔がぼやけた。周りがどんどん暗くなる。
このまま死ぬのかなと思った。怖くはなかったけれど、涙が溢れて止まらなかった。
うっ、うぅわーーーー!!
体重が5キロ増えてる!
衝撃が風景を震わせる。
視界の果てから果てまでを、断層が音速で横切る。魔法のように。
おどろいて蒼蠅は飛び立つが、かれには硝子が割れた理由はわからない。
そのとき、確実に何かがぼくのなかで変わったことに、
世界は全く気づかない。
そしていつか、ぼく自身もそのことを忘れていく。
それがなかったら、今この世界はこの姿ではなかったはずなのに。
しょっくが はやおき
うたたね ねむたげ
げんかく げんちょう
きつねも いっしょ
・・・っけねぇ。
また“段ボール”を轢いちまった。
なにかショックなことがあったにちがいない。
食パンのうえで黴が失神している。
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大空真樹、衝撃の歌手デビュー。作詞作曲は、○○○の○○○○!
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「大空真樹」衝撃の再デビュー! 熟女ヌード。
親子断絶! 大空○○の衝撃親子関係。
「信じられません。衝撃です」と大空○○の言。大空真樹自殺!!
あの頃の衝撃を! 大空真樹の未発表楽曲と未公開フォト。
中年層に衝撃拡散中。
その日は月が大きく赤かった。
四角と三角の主が争い、終にはボンベイと同じ熱が二人を煽りぶつけ合わせる。彼らは砕け、轟音が生まれ、そして。
僕の目の前で。
親友が落下していこうとしている。
突如出現した地割れに吸い込まれそうになって。
大地の大きな腕が彼を飲み込もうとするから。
僕も彼もその黒い荊を振り払おうとした。
目を開き鼻を広げ唇を歪めて必死に。
僕は手を伸ばした。可能な限り伸ばした。
その手は勢い獰猛な蛇になり。
獲物に喰らいつくかのように彼の腕を絡め取ろうとして。
追いかけた追いかけた追いかけた。
闇の王の笑い声が最初は小さく聞こえていた。
それがどんどん大きくなっていく。
最後は耳の中でくわんくわんと反響していた。
(お互いの腕がもっと長ければよかったのにね)
(そうすればまた二人一緒に現実の夢が見られただろうに)
僕はうなだれた。
(お前も私の中に来るかい)
僕が逡巡したところで、別れは決定的になった。
後に残るのはコンクリートが剥がれた地面と泣き叫ぶ声と炎のロンド。そして脳裏に刻まれた、最期の表情。
「ヘェ〜クション!」
風邪ひいたかな?
パソコンは大丈夫かな?
AIパソコンだからウイルスには超敏感に反応する、ましてこの頃変なウイルスが世界中を震撼させているもんな
…。
「ピィー」
「警告!新しいウイルスを感知しまし た。」
ありゃりゃ感染しちまったのか…。
こいつには、ウイルソン社のワクチンソフトが常に監視して更新してるのにな…。
「ピィー ピィー」
「新型ウイルス検知」
「キケン キケン キケン」
「保護回路作動」
「シャットダウン」
「ベンベコ ビン」
「ブ〜 再起動できません」
「ブ〜 再起動できません」
エェ! うそだろ‼
また、金がかかるよ
「ピンポン」
「はーい、何でしょう」
「保健局のものですが、お宅からウイ ルス情報が発信されてます」
パソコンも病院行きか、おいらも医者へ行って治さなくては。
「はいどうぞ、新型ウイルスに感染し たパソコンです。」
「おい何をするんだ‼
おれは医者に行けば治るんだよ」
「あなたが新型ウイルスの発生源です
、よって貴方を隔離します。」
衝撃が走った時の衝撃で、衝撃を生んだ衝撃が
衝撃を後から追いかけたことの
衝撃として、衝撃となって衝撃に伝わり
衝撃を受けた衝撃と衝撃を与えた
衝撃の衝撃とがそれぞれにぶつかりあって炎上。
「自損事故だ」解体屋がやってきて、衝撃をばらす。
行手重車を持って帰り、あとはジャンク山に投げた。
生まれてはじめて友だちの家に泊まったぼくは、夜中になってもちっとも眠たくならず、長い長い時間、憎たらしいぐらいぐっすり眠っている友だちの寝顔を見ていたんだ。
それは日付が変わったころ。部屋のすみで何かがうごめく気配がした。一匹じゃない。ものすごくたくさんいる。ざわざわ近づいてくるのが分かる。
豆電球のように光る小さな虫だった。大量のヒカリ虫は隣のふとんに群がって、寝息をたてている友だちをばりばり食べだした。次々と部屋のすみからあふれ出てきては、すごい勢いで友だちを食べていく。指が、頭が、肩が、砂が崩れるようになくなっていく。ヒカリ虫は友だちを食べ尽くすと少しずつふくらんで、隣どうし結合し、やがてふとんの上で、光る大きなかたまりになった。眠ってしまったら次はぼくの番だ。息を殺してぼくは一晩中まるいかたまりをにらんでいた。
明け方、かたまりがぐにゃぐにゃと動き出した。形を変え、色がついて、友だちそっくりの姿になった。何事もなかったように目覚めた友だちそっくりは、寝ぼけた顔でぼくにおはようと言う。
ほんの少しだけ背が伸びている気がした。
居眠りに溢れたこの世界がムカつくとあなたは言う、テレビの画面を凝視しながら。さらには実際の居眠り行為で手を汚す者より、その遙か上に立ちけっして現地に出向くこともなく机上の空論で人々の未来を軽々しく決めていくお偉がたこそ我慢ならない、あなたはそう憤る。でもね、俺は思うんだ。ワン・クッション置いてしまえば──つまりほんとにその状況に居合わせない限り、人間って恐怖感や罪悪感なんか感じられないものなんじゃないのかな?。システムを作り上げる奴らは現地で実際に手を下す人間じゃない、だから恐怖感や罪悪感に満ちみちたりはしないんだ。で、ね、そんなありさまって結局のとこ、この俺ら自身だってまったく同じことかも知れない、って可能性は、ないのかな?。ワン・クッションあり、ツー・クッションあり、スリー・クッションあり……、居眠りを繰り返す連中から俺らまで実際には幾層くらいの緩衝剤が詰まっているのか知らないけれど、各々の仕切り壁と仕切り壁の間で少しずつ衝撃は吸い取られ、居眠りする者たち或いは居眠りされる者たちのリアルな怯えや震えなんて、あなたや俺んとこまではとうてい伝わっちゃこないだろ。
……zzz。
自転車に乗って水を飲みに行く途中、左折してきたカバにコツンと当てられた。あっと思う間もなくゼブラゾーンに倒れ伏す。どこ見てんのよ!怒鳴ってみるがカバはオロオロするばかり。通りすがりのインパラが助け起こしてくれたので、立ち上がろうとしたのだが。カラダに力をいれた途端、ピシッと亀裂が走り抜け、パリンと砕けて飛散した。わたしと自転車、なにもかも。
なんてこったい。
君かい? 君なのかい?
僕の赤い糸が行き着く先は。
合わせ鏡の奥のほうで、一枚だけ、ひびが入っている。