500文字の心臓

トップ > タイトル競作 > 作品一覧 > 第04回:冷たくしないで


短さは蝶だ。短さは未来だ。

 これで、彼女に求愛したのは四人目だった。しかし、彼女の心は一つ。
「愛しているのは、やっぱり彼だわ。」
 ため息がもれた。でも‥
 彼は世界中をびゅんびゅんと飛び回ってばかり。大地のように作物を育てることも、水のように潤してくれることもない。彼と一緒になることが、女の幸せなのかしら。
 そんなわけで、彼女が結ばれたのは、神々の王。太陽神だった。
 だって、一番地位が高くって、貢ぎ物も一番立派なのだもの。
 裏切られた風の神は、以来彼女の姿を見かけると、流れ星より速く駆けていく。寒さに震えた彼女のために、太陽神はいっそう、日差しをふりそそぐ。
 冗談じゃないわ!日焼けしちゃうじゃない!!
 彼女は、空に向かって怒鳴りつけた。
 くしゅんっ。
 暑っ苦しい男も、意気地のない男も大っ嫌い!



 「冷たくしないで」とか細い声でお雪が囁いた。構うものか、と巳之吉は思った。そもそもが得体の知れない薄気味の悪い女だ。不健康そうな顔色で滅多に笑顔を見せず、そのくせ、夜の生活では恥じらいもなく巳之吉を貪欲に求めてくる。お陰で欲しくもない子供が10人も出来た。
 巳之吉はふと思う。18歳のあの冬の夜、吹雪の渡し守りの小屋で見た白装束の不思議な女。寝ていた連れの茂作に白い息を吹きかけて凍死させた許せない仇。あの女はこのお雪ではないか。だとすればこの機会にそれ相当の償いをさせなければならない。
 お雪はきっと雪女だ。そして皮肉にも人間の暖かさを求めている。だとすれば、一番効果的な苦しめ方は。
 「冷たくしないで」とか細い声でもう一度お雪が囁いた。構うものか。巳之吉は大きな動作で妻に背を向けた。



部屋の窓から、大きな煙突が見えるんです。
 煉瓦造りの煙突で、頂きの漏斗のようになったところに黒く尖った避雷針がついています。今日は8日目の月で、夜9時ごろ窓を開けて外を眺めると、針の先にひしゃげた青い光が乗っかっていました。
雨が続いたせいで珍しく空気が湿り気を帯びていて、中途半端な月でも漆黒の空に落とす染みは白くて丸くて。
 ザーッ。
 遠くの街の灯りがたちこめる蒸気に反射していやに赤く。
 ザーッ。
産毛を残した若葉が風に驚く様子がわざとらしく。
 ザーッ。
アスファルト路面で磨り減るタイヤの悲鳴が沈黙を際立たせ。
寒くてたまらなくなって、窓を閉めました。
あなたのことなど、考えたくないのに。
なのに、艶やかな月の形はだれかの冗談に笑うあなたの横顔を、狂おしい空の色はあなたの吐息のぬるりとした感触を思い出させるのです。
窓に鍵をかけカーテンを引いても、あなたの残像が追いかけてきます。
どうして。
生命の息吹に溢れた春の風も、氷で刺すように痛いのです。
どうして。
冬のセーターを着込んで熱い紅茶を飲んでも、少しも温かく感じないのです。
どうして。
どうして。
どうして、あなたは。



 ねえ、待って。
 彼は早足で前を歩く。わたしは彼の手をつかもうとする。彼はさっと身をかわす。
 それだけのこと。なのに、悲しくなる。「冷たくしないで」

 目の前を歩くのは、クラスメートの女学生たち。ふふふふ、ふふふふ。わたしは後ろから、一人でとぼとぼついて行く。彼女たちは時々振り返り、これ見よがしに含み笑い。
 何してんのよ、ちゃんとついて来なよ。
 ついて行くよ。ついて行くから、わたしも仲間に入れて。「冷たくしないで」

 何してんのよ、この子は。さっさとしなさい、愚図。
 泣き出した妹に、お母さんはますます腹を立てる。わたしのことは、見向きもしない。なぜか苛々して、わたしは妹を殴る。
 何してんの。あんた、お姉ちゃんでしょ?
 妹を抱いて、お母さんはあっちへ行ってしまう。「冷たくしないで。あたしも抱っこして」

「そんなつもりじゃなかったんだよ。誤解だよ」彼は下を向いて、いくらか優しい口調で慰めてくれる。「僕にどうして欲しいの?」
 自分でもわからない。言えるのはただ、「冷たくしないで」のひとこと。



春さんから夏さんへ
少し温かくしてね

夏さんから秋さんへ
少し冷たくしてね

秋さんから冬さんへ
もっと冷たくしてね

冬さんから春さんへ
冷たくしないでね



 こんなことになるんだったらあたたかくしてあげればよかった。これじゃバカじゃん。ほんとうにバカじゃん。まるっきりバカじゃん。豆腐の角じゃん。
 なによアンタ、そんなチンケな白い布1枚顔に貼り付けて誤魔化さないでよ。「またやっちゃいました」って舌だして笑いなさいよ。
『嘘って言って』
 頬にふれたら拒否されるほど冷たくて、すべては自分が出した答えなんだとドライアイスで火傷したみたいに体中が熱くなった。
 隣で初対面の女も泣いている。その感情はアタシにはわかりたくもない。



前々から貴男のこと、お慕い申し上げておりますのよ。
この前の吹雪の激しい晩には、
貴男のために真心こめて、手料理を作って差し上げましたのに。
あたたかい豚汁はお嫌いですの? 
何も私の目の前でお椀をひっくり返さなくてもよろしいじゃございませんの。
そのせいで私の真っ白なお着物に、シミがついてしまいましたわ。
いつぞやの大雪の日には、歌をうたって差し上げましたわね。
これでも声には自信がありますのよ。
それなのに貴男ったら、それをかき消すようにダミ声で吠えまくったりして。
せっかくのムードが台なしじゃございませんの。
決して乱暴なことはなさらないでね。
万が一私の雪ような白い肌に、アザなどできたらたいへんですわ。
そりゃ確かに貴男は、野卑で毛むくじゃらの大男だけれども、
少しは私の愛を受け取っていただきたいですわ。
ねっ、お互い雪山の妖怪同士じゃない、仲良くしましょ。
ああそれなのに、貴男はいつも私に冷たくするのね、もうっ!
あまりにも欲求不満なので、これからまた愚かな人間どもを見つけて、
手当りしだい、凍死させてやりますわ。



これは温泉郷に住む者たちの物語である。
晴晴とした空気の澄む香栖山峡(架空)には
今日も仕事を終えた美女?が温泉に浸かっている。
彼女の名は地野芽芋子さん、温泉の常連さんである。
「はあ〜っ気持ちいいわぁ、体が温まって。
やっぱり温泉はいいわね〜。」まさに極楽である。
そこへ筋肉隆々の技優肉雄が飛び込んできた。
「ザッブーンッ」
「きゃ〜っ」
「おおっ居たのか芋子、わりいわりいっ。」
「ちょっとー、飛び込み禁止よ〜っ!!もうっ。」
「そんなことよりも、相変わらずいい乳してんなあおいっ」
「ちょっと止めてよ、セクハラで訴えるわよっ!!」
「ひょーっ怖い怖い、でも減るもんでもないからよ。」
「それもセクハラよ。」
そんな中キリリとした美男子、二院仁が入ってきた。
「相変わらず仲がいいですね、お二人さん。」
「おおっ仁か、今日も格好いいじゃねえか。え〜っ」
「そんなこと言うと、照れるじゃないですか。」
「それより、芋子さん今日も御綺麗ですね。」
「まあっかわいい。」
「ほんとっ別嬪だよなあ〜。」
「それもセクハラよ!!」
そして慌てて入ってきたのが玉根義衣だ。
「ふい〜っ間に合った。」
「おおっなんか白く濁ってねえか?」
「これがいいのよ、特にこの肌にはね。」
「おおっだいぶ煮立ってきたな。仁、真っ赤じゃねえか?」
「芋子もホクホクで柔らかそう、特にその乳が!!」
「もう!!いい加減にして、・・・・・・・・・何か音がしなかった?」
「そうですか?僕には何も。」
「それより、何かぬるくないか?」
「ぬるいぬるいわ、どうゆうこと?管理人さん〜。」
「あれ?居ないわよ、どこ行ったのよ。」
「そういえば、さっき玄関のほうに走っていきましたよ。」
「やばいじゃねえか、このままじゃ冷めちまう。」
そして、皆顔を見合わせた。
「管理人さ〜ん、冷たくしないで〜!!」
なお、管理人こと主婦は玄関で長話をし始めたことは言うまでもない。



今、人類は究極を手にした。常温で超電動が起こせる技術が開発された。
これがどんなに画期的かというと、普通、超電動というと極低温が必要。
少なくともマイナス200度前後の極低温、それが必要だった。
ところが今回、開発されたのはプラス50度以下で十分に超電動が起こる。
極低温を作る冷却装置も保冷装置も必要ないのだ。
今回の開発を応用すればエネルギーロスが全く無い送電線も作れる。
小さなバッテリーで半永久的に大容量の蓄電ができるようになる。
工場も家電製品もみな、これが使われるようになる。
世界中にこれが使われるようになれば温暖化現象もストップする。
世界中に繁栄をもたらし、日本経済も再び活性化する。
そんな魔法のような開発がされたのだ。日本人が世界最大の貢献をしたのだ。
常温での超電動技術を開発した一民間人、植松正さんに絶大なる称賛を送ろう。



女は苛ついていた。
男はいつもつまらない冗談ばかり言っていた。

『なんでこんなクソ熱い日に暖房をかけてるわけ?』
『最近、俺が冷たいっていつも言ってるだろ?
 俺はたぶん変われねえから、環境を変えてみたってわけさ
 凄い発見だと思うんだけどな。けぇっ、けぇっ。』
『バカじゃないの?』

女は32才。3年前、乗りのいい危険な香りがするこの男に一目で惚れた。
男から迫られるのが嫌いな女は、自分から男を誘った。
女は男に近づいていき男の股間の上に手を置いた。
男はノーパンでペニスの形がハッキリと感じられた。
熱くいきり立ったモノは女に十分な手ごたえを与えていた。
女は男を覗き込んだ。
男は臭い息を締まりのない口から漏らしながら、ニヤっと笑った。

『愛してる?』
『もちろんさ、お前が店に入って来た時からずっと。』
『一人にしないで…』

男は女を愛し、女も男を愛した。
しかし、女の不安は消えなかった。いつか男が去っていくだろうという不安。
男は笑って答えた。

『いつもお前だけを想ってるぜ。』
『バカじゃないの?』

女は男のペニスをくわえた。それは冷えきった硬い肉の固まりだった。
男は3日前、女に刺されて死んだ。



「冷たくしないで!!」
何度そう叫んだだろう。
何度そう泣いただろう。

けれど誰も相手にしてくれない。
時は無情なほどに過ぎていく。

「冷たくしないで!!」
何度だって叫ぶよ。
何度だって願うよ。

けれど相手はいない。
淋しい、寂しい、さびしい。

私は冷めていくコーヒー。
あなた好みでいられるのもあと数分のうち。

「冷たくしないで!」



「もしかして」
 ん。
「君は僕を馬鹿にしているんでないかい」
 馬鹿にしているんでないよ。
「なら良いんだけども」
 何でそんなこと。
「いや気になったものだから少し」
 気にしなくても。
「ありがとう」
 ん。
「でも君の態度はこの頃変わって来たと思うのだよ」
 あ。話をぶり返させた。
「君は自分では何も思わないのかい」
 そんな事ばかり考えていると馬鹿になってしまうよ。
「煩いな。こらしめてやる」
 痛い。
「こうだぞ」
 やめてやめて。
「まいったか」
 ごめんなさい。
「でも君の態度はこの頃変わって来たと思うのだよ」
 そんな事ないよ。
「そんな事あるよ」
 だけど、こうして。
「そんな事は関係ないのですよ」
 ん。
「断じて関係ない」
 そうだね。
「明日こそ僕らは手を繋げるのかなあ」
 うまくいけば。
「うまくいくと良いね」
 まったくそうだね。
「目玉焼が食べたいな」
 いま作るよ。
「二つね」
 ん。
「逃げるなよ」
(秘密)



久しぶりに、人の温もりにふれたら、風邪を引いてしまった。



わたしが姿を見せるやいなや、村は熱狂に包まれた。
人々は金属の装飾をガラガラいわせながら広場にあつまり、祭りがはじまった。

トゥメータークー

ティナイーテー

ティナイーテー

ヤタティークー

またしても世界中に流布している“あの歌”のバリアントだ。
間違いなく、彼女はこの村を訪れている。わたしは叫ぶ。
「冷たくしたのは、愛していたからだ!」

トゥメータークー

ティタノーワー

アイティーテー

イタクァーラー

村人は歌い、踊る。
こうしてまた、ひとつの歌が完成した。



灯りがついたとき。俺の箸だけなんの感触も得られなかったことが発覚した。鳥皮を持つ者、バナナを刺す者、明太子にせんべい、シュークリームの皮。野郎どもがなにもつかめなかった俺に非難の目を浴びせかけている。
「知らない、知らないぞ。俺はちゃんと食えるものを入れたんだ」一斉に箸を入れたとき、たまたま俺がなにもつかめなかっただけじゃないか。なのに何故俺が冷たい目でみられなきゃいけない? 冗談じゃねえよ、俺はちゃんと入れたぞそのデコポンを。
 そのとき、紅1点である憧れのマドンナが両頬を押さえて絶叫した。
「あたしが入れたロックアイスはどこ!?」
 おかげで鍋は生ぬるいものとなり。男達の間にはふんどしを締め直すような美しき団結力が生まれた。



彼女が恨み言などもらしたことなど、一度もない。
何日も電話しなくても、一度もメールの返事を書かなくても、
待合せに3時間遅れても、 手料理を残しても、
借りた本をなくしても、プレゼントのセーターを友達にやっても、
誕生日をすっぽかしても、デートの時に居眠りしても、
別のだれかと映画に行っても、寝込んだ時にお見舞いに行かなくても、
全然優しくしてあげたことなんかなくても、
彼女は、いつもやんわりと微笑んでいる。
恨み言一つ漏らさない。
僕は次第に恐ろしくなってくる。
今度こそ彼女が、僕を捨てるのではないかと。
彼女にすがり、行かないでと懇願する自分が見えるようで。
それでも、今日も僕は、
電話をしない。メールの返事を書かない。
待合せには2時間半遅れた。手料理を前に横を向いた。
彼女は相変わらず、ただ微笑むばかり。
優しい笑顔で僕の心臓を絞めつける。
きっと彼女には聞こえない。
僕の心はもう、許しを請って叫んでいるのに。



>おかぁさん、捕まえたよ。
 
 なに、何なの?

>秘密だよ…手で温かくしてきたんだも ん
 お母さんが話してくれたでしょ動物の 赤ちゃんはお母さんに温められて大き くなるんだって

 何をつかまえたの? 

>みたい?おかぁさん
 ほら、
 アッ小さくなってる
 
 小さくって、何が?
 
>ないていたのかな?
 大きくならないね?  
 冷たくしなかったのに?

 きえちゃった



 ずっと、待ちぼうけだった。
 最後は、置き去りにされた。
 ただ、この手を、繋いで欲しかっただけなのに。



今日も永遠とモップをかけ続ける一人の老人。 その中を沢山の人々が行き来している。
しかし誰もぶつかることなく、それぞれが各々の道を歩きつづける。
「冷たくしないで」誰かが叫んでいる。
「冷たくしないで」気のせいだろうか?、他に噴水の音しか聞こえない。
足音が木霊する長いロビー、そこは筒抜けになっていて常に風が吹き通る様になっている。
そんなことにお構いなく人々は次々と通り過ぎていく。
「冷たくしないで」また誰かが叫んでいる。
「冷たくしないで」気のせいだろう、他に何も聞こえない。
老人はそれでもモップをかけ続けている。
その上をまた大勢の人々が歩き出していく。
時はお構いなく刻時していく。
「イテッ」老人はモップを捨て歩き出す。その方向には、風に揺れ動く一つのビニール袋が、老人はそれを拾う。
そして、ポケットの中にしまい込む。
「ありがとう」また声がする。
「冷たくしないで」永遠と繰り返される。
老人はまたモップをかけていく。



「冷たくしないで・・・・」
 そうつぶやいて私は、彼を見つめた。しかし彼は、私の事なんか気にもしない。それどころか私以外に飛びついていく・・・。
「なぜ・・・?昨日は、温かい私をやさしく迎えてくれたのに・・・」
 私は考えた。彼が私の事を気にしてくれてないのは、もしかすると・・私がいったん冷めてしまったからなのではないか?
「私が冷めてしまったから、私を気にもとめないのね?」
 私がこんなに言っても、彼は見向きもしない。
「でも、私がこんなに冷たいのは、あなたのせいなのよ!」
 彼は言った。「お前はもう飽きたんだよ!今日はこれなんだ!」
 彼は、もう私なんてどうでもいいんだわ・・・。そう思っていた矢先、突然私に、温かい光が降り注いだ。
 私は思った。なんて温かいの・・・。こんな温かい光を浴びせてくれるのは、いったい誰なの?
 そして、その光が注がなくなると私は温かくなった。そして、私の前にはやさしい顔をした、あの彼とは、違う彼。
 その時、私は心から思った。
「私!あなたのために生まれてきたんだわ!さあ、私を受け入れて!」
 ついに私は受け入れられた。彼の温かい中へ・・・。
 私は最後につぶやいた。
「もう、冷たくしないでね」
 彼は私の言葉を理解したように、最後まで私を受け入れてくれた。
 彼は言った。「これこれ、やっぱり2日目がいいよな」
 前の彼は言い返した「そんな2日目なんて・・・」
 その言葉を制すように彼は言った「一晩寝かせた、こ〜のうまさ!まだ、お前には分からんな」
 やっぱり彼はやさしかった・・・。 

 そう、私は飽きられてしまった。『2日目のカレー』



私はもう、炊き立ての飯の味を忘れてしまった。



「来るなよ。こっちへ、来るなって。」
「そんなこと言わないで。せっかく二人きりに成れたのに。」
「うるせんだよ。うざいだよ。出ていけよ。男は他にも山ほどいるだろうが。」
「おまえは俺のタイプじゃないんだ、はっきり言ってやるよ おまえは好きに成れない。お前の暗い顔を見るだけで背筋に寒気が走るんだよ」
「冷たいのね貴方・・・でも私は貴方に夢中・・・」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「共同通信によると、一昨日の大寒波の犠牲者は奇跡的にも男性一人だけであることが判りました。地元では雪女に愛された男としてその男性を注目、きっとその男の魅力が、雪女を虜にして他に犠牲者を生まずに済んだのだろう真剣に語られている。」



僕と君の距離は広がった。
僕は21世紀最初の朝を迎えないつもりだった。
全てを忘れるために、たくさん、たくさん、薬を飲んだ。
段々、喉につかえてくる。戻したり咽ぶ。
涙が止まらない。
抱えるほどの薬も決して救ってくれない。

光も音も遠くなる、神経だけが際立つ。
疲れたな。でも、眠りには届かない。
もう夢は見ない。

ある日、突然種明かしをされる。
それは嬉しいようで悲しい。
もう戻ることはない。

いっそ突き放されたままのがいいのに。

その優しさは僕のためか。
どれが嘘かは、もうわからない。
ただ、時期を待つだけで僕の時間は終わってしまう。それだけは冷たい真実。



 あのね、昔ね、お姫さまがいたの。とってもきれいなお姫さまだったんだけど、そのお口にはのろいがかかっていたのよ。お口を開いて話しかけると相手の人が凍ってしまうの。だから絶対に誰とも話せないのよ。お姫さまは高い塔の中ずぅっと独りだったの。
 その隣の国にね、王子さまがいたの。とってもきれいな王子さまだったんだけど、そのお体にはのろいがかかっていたのよ。お体は液体でできていて形がなかったの。だから絶対に瓶の中から出られないのよ。王子さまは奥深い城の中ずぅっと独りだったの。
 だからね、あたしが、王子さまの瓶を高い塔のお部屋に運んであげたのよ。
 夜になるとお姫さまは瓶にむかって囁くのよ。愛しい人。そうすると瓶の中の水が騒いで人の形になるの。2人はお互いに見つめ合うのよ。でもそれだけなの。凍った王子さまは動くことができないし、お姫さまが触れるとその温もりで溶けてしまうから。
 朝の光にあたると王子さまは瓶の中に戻ってお姫さまも口を閉ざすの。2人ともとても幸せなのよ。だからあたしは呪いをとく呪文を教えてあげないの。