500文字の心臓

トップ > タイトル競作 > 作品一覧 > 第22回:性の起源


短さは蝶だ。短さは未来だ。

 神様は、ボールを放り投げ、それを爆発させました。ものすごい音とともに、ボールは爆ぜました。たくさんのかけらが飛び散りました。神様はそれらに「性」を与えました。
 可能性、危険性、耐久性、柔軟性、信憑性・・・。
 そのなかに、ひときわ強くかがやく「性」をふたつ見つけました。神様はおどろきました。ほかの「性」はそれぞれひとつの「性」しか持っていないのに、そのふたつだけが、すべての「性」を持ちあわせていたからです。
 神様は、そのふたつの「性」に「格」を与えてあげました。
 男性。
 女性。
 すると、ふたつの「性」が、神様に感謝をするかのように、また強くかがやいたのです。
 神様はうれしくなりました。



銀いろのはさみが浜に突き刺さっている。沈みかけた太陽がすこし黒みがかかった砂浜に、はさみの影を落とす。そこへ、どこからか別の影が伸びてくる。影はいつしか男女の姿になっている。太陽が沈みきってしまっても、影は消えない。影は交合を繰り返し、やがて朝がやってくる。ゆっくりと起きあがるふたつの影はすっかり冷え切っている。影が別々に街へ消えてしまってから、再び浜辺を見渡すと、そこにははさみはすでに無い。はさみのあったところには小さな影がよろよろと動いている。はじめ小さかった影はだんだん大きくなり、巨大な桜から折れて砂浜に突き刺さった枝の長い影に、そっと寄り添う。太陽はそれを見届けながら、けだるそうに月へと合図を送る。何億年も続けられてきた、つまらない日常。



 目の前には薄い透明の膜を持った球体が無数に見える。選択しろと命じられたので、左前方の球体を選んで手を突っ込んだ。そして力を込めて握りしめる。中心にある固い実のようなものがつぶれた感触。それと同時にぬるっとしたものが頭から覆い被さってくる。
 球体のなかに入り込んだ後は、急速にほどかれていくのを感じる。身体中の器官が、無数の粒に、線に、点に、分かれていく。意識すらほどかれ、無になろうとしたとき、再び選択しろと命じられたので、左前方の点を選んで突っ込んだ。割れた感触。点は集まり重なり、今度は増殖を始める。緩やかな流れが周囲を包んでいく。
 温かくなり、冷たくなる。そこで分かれていくことも可能だ。けれどもわたしはまだ分類されない。流れのなかから侵入してくる点と線たち。それをとりこみ分かれていくことも可能だ。けれどもわたしはまだ分類されない。
 わたしは分類されない。球体から押し出され、日の光を浴びたときでさえ、わたしはまだ分類されていることを知らない。性というものの存在すら知らない。わたしに似たものを探すことから始める。まずは食す。



アメリカは男の国。
 自分の生命や財産は自ら守らなければならないという気概が強く、
 銃の所持も許されている。そのことが男の国にした。
北朝鮮は男の国。
 金一派の強欲な利益を守るため国民総生産の半分を軍事に使い、
 国民を徹底的に洗脳し、テロ、偽札、麻薬、軍事技術を外国に輸出し、
 国ぐるみの犯罪大国として悪事を振りまいている。
 金日成一味があの国の政権を握ったことがあの国を悲劇に陥れた。
イラクは男の国。
 湾岸戦争のときサウジにまで侵略し、帰りにクウェートのほとんど
 の油田に火をつけ火の海とした。
 このままイラクを放置すれば油の道がフセインの意のままになる。
 サダム・フセインさえ居なければ荒々しい男の国にならずにすんだ。
日本は女の国。
 敗戦により無条件降伏。アメリカの占領統治下に、戦後の日本の仕
 組みが作られた。特に憲法第9条が日本を女の国にした。

日本は男になるか、アメリカに守ってもらわなければ生きてはいけない。
それとも世界連邦を創って、世界中が女になるかである。



その日アダムは爛熟した赤い林檎を踏みしだき女とな
た                      る
っ                      妻
だ                      を
の                      そ
た                      の
見                      眼
に      あまりに無邪気だった。     に
眼                      見
の                      た
そ                      の
を                      だ
夫                      っ
る                      た
なと男げろひし押を檎林いかあたし熟爛はブイ日のそ



 ふたりは歌をうたって暮らしていた。ふたりの歌う調べはひとつ。ぴったり重なる互いの歌で、互いを生かし合っていた。ひとつの歌がある限り、ふたりの命は永遠だった。
 ある日、ひとりが木に登った。高い高い木のてっぺんに、古びた鳥を見つけたからだ。ひとりがそばに近寄ると、鳥は小声で歌をうたった。聴いたこともないしゃがれ声、ふしぎな古い歌だった。歌い終わると、鳥はバサッと飛び立った。ひとりは枝を降りるなり、ひとりに歌をうたって聴かせた。
 ふたりは新しい歌に夢中になった。歌はうたうほどに新しい歌を生み、その新しい歌がまた新しい歌を生んだ。ふたりは楽しくて来る日も来る日も歌い続けた。
 こうしてふたりは、いつしか、ひとつの歌を忘れてしまった。ひとつの歌を失って、ふたりは永遠から見放された。しかし無限の歌がそこから生まれ、ふたりが消え去った今となっても、新しい歌はこんこんと生まれ続けるのだという。



 そもそもは医学への興味から、博物学、植物学、生物の進化の研究へとその対象を柔軟に移行させていったイギリス人、ダーウィンでしたが、ある夜、乗り込んでいたビーグル号の船室にて、艦長夫妻が濃厚な交接にふけっているのを目の当たりにし、当時まだ童貞であった彼は非常なショックを受けたと、後に本人は記述を遺しております。
 同様に艦が立ち寄ったガラパゴス諸島では、船員らと島民女性がある意味暴力的にすら見える性交渉を日夜繰り返すさまを目にするにつけ、次第に進化への興味よりもっと好奇心(或いは探求心)をかき立てる対象が現れたことはここに書くまでもありますまい。

 そうして、彼は性行為に対する研究を本書として出版しましたが、これは即日売り切れになったと言われています。



 27世紀、コンピューターは神となって生物を支配していた。人間たちは地上の楽園で、なに不自由ない生活をしていた。欲しいと思えば何でも得られる。不老長寿で働く必要もない。ただ一つ不自由なものがあった。セックスする自由が与えられていない。子供が産めると人口が増えすぎてしまうからだ。その代わり、セックスよりも、もっと幸福感が得られるものを神から与えられた。何か善い事をすると素晴らしいエクスタシーを感ずる。悪い事をすれば地獄のような苦しみを味わう。人々は競って善い事をする。
 そんなユートピアのような地球に突然に大変な異変が起こった。極めてタチの悪いコンピューターウィルスが神にとりつきシステムクラッシュ、呆気なく死んでしまった。人間たちは困ってしまった。神がいなければ何一つできやしない。
 不老長寿も不可能になり、弱い者から次々死んでいった。このままでは人類は絶滅してしまう。再び性行為を奨励して子供を作らせ、人口減少を止めようということになった。さて困った。誰もセックスをやったことが無い。性機能も完全に衰えてしまっている。
 様々な工夫をし医学の助けも借り、ようやく8年後に世界で一番最初の子供が生まれた。その子と両親にノーベル平和賞が与えられた。その体験を元に、出産は順調に増え、人口減少は止まった。
 以上が第二の性の起源というところかな。



男子校の修学旅行は京都だった。

女子校の修学旅行も京都だった。

列車はオクテ5号

2号車に女子校生が、

3号車に男子校生が、乗った。

両校の先生は、席を離れぬようにと言った。

1時間後、男子校生3人が席を立ってドアの向こうへ消えた。

同様に女子校生3人も消えた。



30分が過ぎたが3人、つごう6人は帰ってこなかった。

先生は起き上がり、「あれほど言ったのに」と物々言いながら、

2号車と3号車へとそれぞれ向かったものだから、連結器のところで

鉢合わせ。



 列車はその時に蛇行をした。

二人の若い先生はお互いに相手につかまる。

足元が揺らいだせいだ。

連結の二枚の鉄のプレートが互いに重なり合っていた。

先生大丈夫ですか?

声はかき消される。激しい騒音とウネリ。

二枚の鉄板はぶつかり合い、擦れ合い、もみ合い

激しく波打ち

波打ち

最後に大きく盛り上がり

沈んだ。



生徒たちは相手車両の空席にちゃっかり座っていた。

もちろん、異性との間に、不純なことは何一つ起こらずに済んだ。



「修学旅行の思い出」という文集にも何一つそのことを書いた者も

いなかった。

ただ、ちょっと気になったことは、生徒の何人かが決まって

ミロクボサツを観てきたと書き残していたことだ。



 おそらく性の起源とは、まだ人類が火を使い始めたばかりの時代に、CGアートのテクニックの一つとして漁師が拾い上げた百万両の壷であり、その鍵を握る亡霊の存在が、市民の活気を取り戻していたんだと思います。性の起源の驚きは、雑踏で信号が破裂した感触よりも香しかったんだと思います。
 ああ、でも違う。きっと、そうじゃないんだ。どうせそういう理屈は愛する心にすぎないんでしょう。



 お袋の葬式がすんで女房とふたりお袋の部屋を片付けていた。座敷のすみタバコふかしながら。苦労ばかりだったお袋の人生を俺のそれとならべて思い出す。
「おんなのくせに」と生前、おやじからさんざっぱら言われ続けていた気の強くて学もあったお袋。そのお袋の書棚の本を手に、女房が作業の手を止める。結い上げた髪が汗ばんでうなじに後れ毛がはりついている。
 普段は目立たず、努めて控えめにしていたお袋。対して俺の女房はひとさまの飯どきでも平気で家に上がり込み話し込んでしまうような、ガサツな、まあよくいえばざっくばらんな性格の持ち主だ。そんな、俺のお袋とは似ても似つかないはずの女房のうなじに一瞬、俺のまだ幼かった頃のことを思い出した。母の背中がいつもまぢかにあったあの頃。
 乳臭い情景がきゅっと目の前に留まり、気づくと嗚咽をもらしていた。



僕はあの時、はしゃぎ過ぎて母さんに怒られた。
襖の陰でシクシク泣いていたら、隣町のなっちゃんがやってきた。
鳴いていたカラスはやはり笑い、にぎやかな世界を飛び回った。
しかし、そんな時の流れも僕が巣立ちをする時にはとっくに涸れはて、記憶の一滴もなかった。
なにげなく入った喫茶店で僕の渇いた泉に静かに水が湧き上がってきた。
懐かしい香りと共に、ふりそそぐ声が僕の視線をクギズケにし、泉の水は沸騰した。
僕は泉の中を手探りに泳ぎ始め、そこで少女に出会った。
少女が微笑むと僕は勢いよく泉から弾き飛ばされ天に舞い上がった。
間違いなく彼女だった。笑顔はやがて女神の微笑みへと変わり、僕に満月を見せようとした。
そうだ、彼女こそ僕の心に始めて満月を創りあげた女神だったのだ。



 少女が最後に泣いたのは、初めて酸素が肺に満ちた時。
 よって、少女に友達はいない。
 完全に閉じた、あるいは完全に開いた彼女の世界は、彼女一人によって、あるいは無によって埋め尽くされている。
 だから彼女はブランコを漕いでいた。
 風が頬を薙ぎ、指が鎖に巻きつかれる。
 力を感じたくなって、少女は両脚に力を込めると両手を放した。
 引き寄せられるまま少女は母なる大地を抱きしめ、大地は少女を抱きしめた。
 このまま死んでも・・・いい。
「バカじゃねぇの」
 予期せぬ邪魔者を少女は睨めた。
「あんなとこで手ぇ放したら落ちるに決まってんじゃん」
 そういうと少年は少女へ手をのばした。
「膝、血ぃ出てるし」
「・・・知ってる」
 少女はその少年の手を掴んだ。
 生暖かく、汗ばんだ手—
 少女がとても照れているのは、たぶん、その涙のせいではない。



「何事にも始まりは有るものじゃよ。」と老人は言った。
「生命の始まりは?性別の始まりは?性の始まりは?」と生物好きの少年が好奇心を目に輝かせ聞いた。
「誰にもわからないよ。ただ初めも今も命は偶然の産物であり、性は昔もこれからも必然のそれなんだよ。」「分からないよ。どう言う意味?」「分からなくてもいい 君が大人に成った時、生まれてきたことの偶然に感謝するだろうし、性の必然に悩み成長するだろう そして私ぐらいになった時・・・」語る事を止めた老人は子供の手を引き寄せ握りしめた。自分から子へそして孫への偶然と必然の連鎖に感謝した。  



 12月26日。くもり。昨日は、なかなか眠れずにおそくまで起きていました。ちょっとのぞくと、リビングでパパとママとおばあちゃんが、残ったケーキを食べながらテレビを見ていました。とつぜん、トイレからサンタさんが出てきて、パパは大笑いしました。「もう寝たからそんな格好しても意味がない」サンタさんはトイレに戻りました。「腹壊した、サンタ」ママが笑いをこらえていると、サンタさんは、パンツのまま怒りながら出てきました。パパは「サンタなんて、いねーんだよ。この馬鹿」「実の親に対して、馬鹿とは何だ」「サンタに育てられた覚えは無い」パパとサンタさんがけんかしていると、ママが、「あ、お義母さま、ズルイ。ケーキの人形の下についたクリームは、後で、私がなめようと思っていたのに」と言うと、パパとサンタさんは「サンタはいる」「いない」と何度も同じ事をくりかえして、おばあちゃんが泣き出して、ママが慌てて「なーんて、うそうそ」と言って。

 ぼくは、こういう人たちがアイしあってぼくが生まれたんだなと思いました。将来は、ノーベル賞を取ったたなかさんのように立派な人間に成りたかったのですが、どうやら、それは無理のようです。



「これが惑星オバーン...」
我々はついに人類史上初めて、地球外生命体の惑星に辿り着いた。
20年前、人類はオバーンからのSOSメールを受信した。
『環境破壊が進んでいる。オバーンは存亡の秋を迎えている』
「たかが環境破壊で大袈裟な!」と21世紀初頭の社会問題を持ち出され、苦笑した人類は、初めての宇宙の友を助けるべく立ち上がった。
オバーンからの要請に従い、緑の環境を整えるためにと我々屈強の若者が選ばれた。
そして、オバーンに到着した我々は驚愕した。
女、女、女、女、女、女、女、女、女、女、女、女。
老若はあれど女ばかりの惑星。それがオバーンであった。
しかし子供の姿はない。オバーン代表からの説明があった。
「月ニ一度、卵子ヲ森ニ埋メテオク。トツキトオカデ森ヘ行ク。キット赤子ノ声ガシテ」
しかし環境破壊が進んだ結果、枯れた森に卵子を埋めても孵らなくなってしまった。まさしくオバーン人類存亡の秋。そして、お察しのとおり、我々はオバーンのアダムたちと呼ばれるようになり、もはや地球へ帰ることも叶わず、オバーンの未来に日夜貢献しているのである。



 ハーレクインロマンスがこんなに面白いとは知らなかった。体術映像集の棚をすりぬけて書架にまた手を伸ばす。授業で習った性の起源も古典鑑賞もみんな上っ面の見当違いだ。古語辞典を引き、呼吸や脈拍のような言葉のリズムを頼りに読み耽る。
 体の奥底が半分に削げているのだとしきりに知覚するようになり、何故誰も気付かないのかと問うたらそれは性病だという。かつて叔母の落雷死には半狂乱だった両親も、奇妙にぼんやりした表情で世界唯一の死病に罹った私を博物館に送り出した。以来この丸天井に護られて一人の日々、夕暮れ時には苛立つことを覚えた。モラトリアムの年から全く変化のなかった身体にも今はうっすら脂膜が乗って闇に鈍く光るのがわかる。砂時計が再び動き始めたのだ。今まで通り息をし心臓も鼓動するけれど時間は最早待ってくれない。
 自分を抱く。身を揉む。本当に来るの?どんな人が?性交・妊娠・出産?永遠の生命の代償に、この混沌とした先行きが未来。可愛いって何?優しいって何?過熱してる私。大袈裟と笑った言葉、乳頭と陰核で知って、忘れたい、リセットしたいのも、私。わからないまま、放たれた矢になれ。性の起源は未来にあるのだから。



この世で全てのものを手にいれた卵が、ある日神に挑戦状を叩きつけた。
すると空は暗黒に染まり、竜雷が飛び舞い、その声で大地が揺れた。
やがて竜雷は卵を喰らいその周辺に残骸が飛び散った。
卵の分身たちは野性の本能というべく自然の法則に従って自らの感覚を頼りに合体を続けていった。そして感じるもの全てを採りいれ、ついに一つの完全体となる。

神よ次はどんな時代を創ろうか?

また一つ新しい歴史が生まれようとしている。



初めに発情があった。

女は赤く熟した実のように汁湧き出させて、臭いを発した。
臭いに惹かれた男達はその女を我が物にしようと戦い、女にその勇姿を示した。

勝利した男は女と互いに惹かれ合い、抱き合った。

時ここに至りてその身を重ね結ばれた。

これ性の起源であり、法則である。
そして戦いの起源でもある。



性天霹靂(突発的に起きる大事件。思いがけない返事?)
性風名月(風雅な遊び?)
性当防衛(自分または他人が理不尽な攻撃を受けた時、身を守る為にやむを得ず行う加害行為?)
性天白日(心にやましいことが全く無い事?)
性錬潔白(心が清く正しく、やましいところが何一つ無い事?)

さて性の起源はどう評価されるのだろうか。



キスがしたい。



紀元前395分 夕方ぼくは肉感的というべきひとを初めてまのあたりにした。



 天幕には星空の輝くニヤリ月夜。
 まりも少年の脱柵というニュースが世間を騒がせている頃、当の本人は、月光通りでたんぽぽ少女が来るのを悄然と待っていた。第三次月光通り調査隊の唯一の爪跡とも言うべき剥離地帯に立つまりも少年の人形めいた姿を見て、たんぽぽ少女は、思わず胸をつかれた。
 観賞用なんだ、その少年は。
 月の光で地面にプリントされた人影を掻き分けて少女は、まりも少年に手を振る。少年は少女の姿を見て、驚く。たんぽぽ少女の手首には真新しい鎖が巻かれていた。少年は、乱れた感情を無理に抑え付ける。力技で押しつぶす。捏ねて、捻る。いつものハートを作り出せ。命令する。思い出した。
 「それ、どうしたの?」
 ほほえめ。ほほえむ。
 たんぽぽ少女は、恥かしそうに手首にはまった鎖を背に隠す。その鎖は夜空に伸びて、月面に打ち込まれた楔に繋がっていた。
 「お願い、聞いて。私は月鎖の呪縛を受け入れた。それで、不自由はあるけれど、私はいつかこの鎖を使って、月さえ動かしてみせる。だから、私を掴んで、せめて」
 この夜が明けるまで・・・。
 「うん。せめて、はじまるがおわるまでは」



成熟すると自然と首が落ちる。
首が落ちると、古い胴には新しい首が生え、
古い首には新しい胴が生える。
こうして私達は増えている。
ときどき、飢餓がやってくる。
飢餓になると、新しい首は生えない。
口があっても食べるものがないからだ。
だから古い胴はそのまま干涸びて死んでしまう。
そのかわり、新しい胴には、
精子を放出する機能か卵子を作る機能がもれなくついてくる。



神は種の繁栄のため錠と鍵を与えた。