我慢する
我慢のしどころ、というものがある。
書きたいものと書かれるものとのあいだにはどうしても距離があって、それを詰めようとする努力が書くということなのだろうけれども、書きたいものにあまりに直接にたどりついてしまっては、読ませがいがない。
そこに書き手の我慢がなくてはならない。
かといって、我慢しすぎて言葉が足りなくなってしまうと、今度は読み手がゴールにたどりつけないことになってしまいかねない。
そこで書き手は我慢を我慢しなければならない。
書くということはそういう意味では矛盾の塊かも知れないと思う。
今回は優秀賞はありません。読みながら、おぉう、とうめくような、嬉しい驚きを次回に期待しています。
マンホールの蓋 : 赤井都
> 道を歩いていたら、後ろに引っ張られる心地がして引き戻された。
今回、影を題材にした作品が複数あったが、脇役である「水」がおもしろい役割を果たしている本作品を選んだ。タイトルに一考の余地があると思うが、最後の文までおもしろく読め、楽しめた。
メンデルの法則 : 鳥頭
> 生ける屍(表現型Z)の遺伝子型は、ZZ (優性ホモ)、ZD(ヘテロ)の
作品の形として、「問い」と「答え」が必要なのはわかるのだが、あまりにもおさまりすぎており、優秀賞に推せなかった。逆にいえば、「死せる屍」の遺伝子型を提示した最初の2文がたいへんにおもしろい。
午後の林 : 赤井都
> 午後の光の中で、妹がいなくなった。
とても丁寧な文章で書かれており、好印象。妹に対する複雑な思いが、奥行きをもたせて印象深く描写されているのに感じ入った。
猿 : 峯岸
> 吉備団子をくれた桃太郎についてあらん限りの悪事を働いた
話の取り入れ方が巧みでおもしろく、文章感覚もいい。よく知られた物語を使って作品をつくる方法が、充分に効いている。
ただ見下ろしている
こういう作品は言葉の選び方が命。書き殴った感をぬぐうのは難しい。
ルルル電車
実はしりとりになってないのでは、などと細かいことが気になった。「ロート製薬」「deja-vu」などの言葉も違和感が強すぎたかも。
砂漠にて
きれいにまとまった話。もう少し期待を裏切る話であってもよい。
ふたつの闇
闇を描写する観点はおもしろい。ただ、最後の文は少し唐突か。少ない言葉で話をまとめるのは難しいということだろう。
影の種
もうひとつの影作品。書き方に特徴がある作品だが、そうすることによる効果があまり見えない。話はおもしろい。
言葉玉
言葉玉という道具立てはおもしろい。もっと話が広がってもいい。
考えなし
これも言葉の選び方と論理の構築が命の作品。もっと練れそうなので、今回は掲載せず。
・
こういうタイトルできましたか。ただ、本文ではいまひとつ「・」が活躍してくれなくて残念。もっと遊びんでもいい。