500文字の心臓

トップ > 自由題競作 > 選考結果 > 第15回:たなかなつみ選


短さは蝶だ。短さは未来だ。

大豊作

 肉体的超短編女のたなかです。
 今回はわたし的大豊作の回でした。なぜか。それは、わたしなら書かない、書けない、と思える作品がいっぱい読めたから、なのです。自分には手が届かない作品を選ぶこと。選者としてこんな幸福はありません。と同時に、書き手である自分への戒めにもなります。ここまでこいと、作品に挑戦状をたたきつけられているような、そんな興奮さえ覚えます。作品を届けてくださったみなさま方へ、感謝の念をこめて。
 さて、自由題はタイトル競作とは異なり、白紙の状態からタイトルを創作しなければなりません。これが案外難しい。本文とつかず離れず、かつぴったりの、バランスのとれた、わずか数文字の言葉からなる核が、作品に命を吹き込むのです。大事に大事に言葉を選択することが必要だと思います。
 優秀賞の選には苦しみました。複数選も考えたのですが、今回は考えに考えてひとつにしぼることにしました。とはいえ、これもひとつの読みでしかありません。読者の方々に、それぞれの優秀賞を選んでいただき、感想をいただければ、作者の方々にもすてきなプレゼントになると思います。よろしくお願いいたします。
 次回選者は、言葉のマジシャン、タカスギシンタロ氏です。どんどん作品を送りつけ、タカスギ氏をあっといわせてひっくり返らせてしまってやってください。

選者:たなかなつみ 



掲載作品への評

[優秀作品]宵闇のガリレオ :: 宮田真司

>  いつのまにかこの列車に乗っていた。

 色使いの美しさにまずは目を奪われる。そして、記憶と、記憶の届かない風景とが、移りゆく風景を描き出し、こころ惹かれる。何度も読み返すにあたいする作品と評価する。「宵闇」という時間の選び方も文句なく、また別の作品で楽しませてください、の、優秀賞。



人間の砂漠 : まつじ

> 右から左に通り過ぎる風に長い腕を晒すと音もたてずに

 左の目の映した景色を描くことにより、遠景と近景とを映しだすことで、物語に深みをもたらした。優秀賞まであと一歩。



大好きメーター : 根多加良

> 大好き!

 とにかく笑った。度肝を抜かれた。こういう作品が成立するおもしろさが、超短編のもつ幅の広さだと思う。タイトルで1本、という趣。



花 : まつじ

> どん、と強い衝撃が来たと思ったら僕の胸が割けて、

 まず、描かれる景色が美しい。そして、宇宙という視点の広さに物語の奥行きが見える。僕と君との関係は幾ようにも読めるが、物語が収束しきっていないのがおもしろいと見た。



レストア : 皐月透

> お前みたいな乱暴者は、ごくつぶしは不良は犯罪者は。

 実は、少し甘いかとも思いつつ、「お袋」の言葉にはたと笑ってしまったので、掲載とする。ありがちな話だとは思うのだが、パソコンのネジとは。



バラバラ : 空虹桜

>  眠っている間に、彼女の体はバラバラになる。

 後半部分はありきたりになってしまったが、前半、とくに2行目のシャープさがこの作品の肝だと思う。タイトルには一考の余地あり。



The Telling : 宮田真司

>  聖地の風に捲き返る丘で、ミルは「なべてかくあれかし」と

 なぜ、優秀賞に推せなかったか。申し訳ない。わたしの好みに合致しすぎて、冷静な判断が下せなかったからだとしか、いいようがない。この物語には、幾層もの鍵がある。もちろん、最大の鍵は、「言葉」であり、「言の葉の樹」であり、「The Telling」であろう。けれども、「ミル」という名前に、「貴腐病」という言葉に、「相対性」という概念に、この作品はゆらぎ、そのゆらぎのうえに作品世界が広がっている。逆に、その重なりの微妙さが、この作品の弱点でもあろう。優秀賞まであと一歩。



掲載されていない作品への評

ひるがえる弾力

 1行作品としての完成度としては、たぶん文句なし。けれども、その物語の広がりに、もう少し作品を広げてほしいという欲がわたしのほうに出てしまった。言葉を重ねることで、また違った断面が見えてくるだろう。



大根おろし

 タイトルと作品との距離感を、どうしようもなくもったいなく思ってしまった作品。下ネタを下品ではなく書きあげていると思うのだが、タイトルにもうひとひねりできなかったか。



或る芸術家の話

 書こうとしている世界は、とても魅力的。説明ではなく、物語として、それを見せることはできなかったか。費やす言葉の数と、物語れる作品の層は同じではない。



コンプレックス

 顔を取り替えていく物語の途中はおもしろく読めた。ただひとつの難が、実は最後の落ち。あまりにも語られすぎている「コンプレックス」ではないだろうか。



コトノハムシ

 美しい作品世界にうっとりした。足りないものがあるとしたら、情景描写に落ち着いてしまっているところだろうか。このままでは作品の序章。ここからの展開を読みたい。最後の一文では、少し足りない。