500文字の心臓

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短さは蝶だ。短さは未来だ。

イベントへ行こう

 サークル「超短編マッチ箱」は、ミニコミ『超短編マッチ箱』などを発行し、文学フリマ等のイベントに出店しております。昨秋、東京でおこなわれた文学フリマでは、多数の方々にお立ち寄り、お買いあげいただきありがとうございました。
 今年に入っても、超短編マッチ箱はイベント参加予定満載です。まず、1月29日は「まめまつり」(https://mamematsuri.com/)。ミニコミ『超短編マッチ箱』のほか、心臓参加者の自作豆本がお目見えいたします。また、2月26日にははじめて東京を離れ、「文学フリマ in なごや」(https://bungakunagoya.sub.jp/)にも参上予定です。東京以西のみなさまがたにも、お立ち寄りいただければ幸いです。
 イベントでは、超短編仲間に会えるのをはじめ、それ以外にもたくさんの物語に出会うことができます。人と物語の出会いの場。みんな、イベントへ行こう。

選者:たなかなつみ 



掲載作品への評

[優秀作品]水系 :: はやみかつとし

>  宵闇を抜け、黒光りする水面がたゆたうのを越えて懐かしい水田の村に戻ると、

 増水という状況を、区長の祖父という登場人物をうまく配して、静かな筆致で幻想的に描きあげた。たゆたうような水の描写も美しく、終末にさしかかる光景としてあざやかだ。今回の優秀賞。



ろくでなし : 山田

> 夢の中で、そのしなやかな手をつかみ損ねた僕は、一人淋しく朝を迎えた。

 世界の終わりという、超短編的には相性のいい題材を、タバコという小道具をうまく使い、内向的な主人公の様子を印象的にしあげた。ゴシックな一張羅などの背景も効いている。ただ難があるのは誤字があること。意図的なものでなければ、発表後でいいので、管理者に修正を申し出てください。



シラフ : 脳内亭

>  いつの間にやら眠っていたらしい。ぐっしょりと寝汗を書いている。

 最後まで謎を引っぱり、最後の一行でうまく作品を拡散させ、まとめた。緊張の続く長さを考えると、短めにしあげ、改行を繰り返したのも効いている。自己への疑いというテーマに、裏側からユーモラスにせまった、その機転を買いたい。



詠訣の靴 : 脳内亭

>  爪先と踵の共にトガった靴をである。華やかな鮮血を伴った彼の死因は、

 超短編ならではの、いやらしくも重厚な作品である。言葉を選択して、読み手の不快感を、しかも美しくくすぐる。なかなか誰にでも書ける描写ではないが、読み手としては、この重苦しい文章を堪能したい。



掲載されていない作品への評

火酒

 タイトルと作品とのバランスが非常によく、風景描写もとても幻想的で美しい。最後の一行の落としどころが難しいが、少し小さくまとめすぎた観があった。



画廊の秋

 ていねいな筆致で描いた美しい作品。物語としても叙情にあふれていてよく、特別な瑕疵はないのだが、逆にそれが物足りないとも感じてしまった。バランスの悪さが醸し出す魅力というものもあるということかもしれない。



『クリストフォルスの亀』回想

 題材、描写、話の展開、すべてうまく、読みごたえはあったが、ただプロットを重ねているだけ、とも読める。こういう話構成もいいのだが、単なる断章である観も否めない。判断に迷ったので、非掲載とした。他の選者にアタックしてみるのもよいかもしれない。