500文字の心臓

トップ > 自由題競作 > 選考結果 > 第32回:タカスギシンタロ選


短さは蝶だ。短さは未来だ。

あなたの生けた花こそ、本当のわたし

 ぼくはお花を習っています。習っているといってもお稽古にはたまにしか行かないし、そもそもそっちの才能はないらしく、腕前の方はぜんぜん上がりません。でも花を生けるということ、生活の中で自然と触れ合うことはなかなかに楽しいもので、のんびりと続けています。
 いま、何気なく「自然」という言葉を使いましたが、考えてみれば生け花ほど不自然な行為はないと思います。植物を根から切り離し、枝取りをし、葉を落とし、茎をため、あるいはねじり、器に水を張り、剣山に突き立て、床の間に飾る。このように生け花は「自然そのもの」ではなく、明らかに人間の意識的な「作品」です。ではなぜそんなことをするのか。
 生け花作家の安達瞳子氏は「花を生けることは自然の心を生けること」とした上でこう続けます。*「花の個性に「わたし」という人間の個性を重ね、作品という新たな生命として輝かせるのです。アジサイを生けたらアジサイが、「あなたの生けたアジサイこそ、本当のわたし」と、大地に咲いていたとき以上に輝いてくれることを願いながら生けるのです」
 何が言いたいかというと、そう、それは物語も同じだということ。みなさんが生けている花(超短編)はいかがでしょうか。「あなたの書いた物語こそ、本当のわたし」と、物語に喜んでもらえるような、そんなお話を書きたいですね。

*『花を生ける』(安達瞳子/農文協 ISBN:4540041371)より引用。


 さて、今回の自由題ですが、4ヶ月間も更新がない中、たくさんのご投稿をいただき、ありがたく思います。更新の遅延につきましては「松本楽志の仕事が忙しいのか」とか「たなかなつみが身体をこわしたのか」とか、いろいろご心配いただいたことだろうと思います。結論から言いますと、ただ単にみねぎしがダラダラしていただけでした。投稿していた作者の皆さま、自由題を楽しみに待っていた読者のみなさま、ごめんなさい。また、前回のたなか選では、すでに終わってしまったイベントの紹介もそのまま載っていますが、それは原稿が長期間放置されていたことが原因です。ご容赦ください。

 ところで次回ですが、みねぎしが自由題の選者をやめると言っているので、誰が選を行なうのかわかりません。サイト運営はともかく、自由題では良い作品を選ぶみねぎしなので、続ければ良いのにと思います。まずは募集要項をお楽しみに。

選者:タカスギシンタロ 



掲載作品への評

珈琲愛好家 : 瀬川潮

>  朝起きると、ずきゅ~ん快晴だった。

むちゃくちゃな作品なのだが、異常な文体と、その裏で進行する意外と論理的なストーリーに、どうしてもほうっておけなかった。あぶなく優秀賞すらずきゅ~んあげるところでした。



金木犀 : まつじ

> 「女中さん、女中さん」

穏やかな日常の中に、キンモクセイの甘いエロスが香ります。



つづまい : 脳内亭

>  とん、ととん、とおんとおん、とんとん、とおん。

静かな作品なのに、どこか激しいものを感じる。静中の動を描いてみごとです。



掲載されていない作品への評

雪が降る

こういう語り口は好きなのですが、落ち着きすぎてちょっと作品が地味になってしまったかも。



背にマグマ

もっと疾走感が欲しかった。声に出して読んでみたらどうでしょう?



指輪

かわいらしくオチの決まったショートショート。もう少し磨けばさらに一ランク上の作品になりそうです。



77話の渡り

載せようかな、どうしようかな……。今回はごめんなさい。