1st Match /
うさぎ爆弾
|
「いいか。このうさぎのぬいぐるみには手榴弾が二発仕込んである。耳を引っこ抜い て、うさぎのぬいぐるみごと投げつければいいんだ。両耳を掴んで一気にひきちぎ れ。両方が同時に爆発すれば大成功。仮に片一方が不発だったとしても、誘発されて 大爆発になるはずだ」 |
手品を成功させるのは言葉とタイミングだ。うさぎをしこむこと自体は難しくはない。彼女の注意をぼくに向けさせ、そのあいだに彼女の手のなかにスポンジうさぎのこどもたちを忍びこませればいいだけだ。ところがまだまだへたくそだったぼくは、間違ってしまった。彼女の手は腹に、スポンジうさぎのこどもたちは本物の子兎たちになってしまい、彼女はうんうんうなりながら、ぼくがしこんだ子兎たちをひりだすはめになったのだ。ぼくは産み落とされる毛の濡れた子兎を、1匹は産湯につけ、1匹は布で拭いた。彼女は産み終わった濡れたこどもを、1匹はなめてきれいにしてやり、1匹はそのまま食べた。残ったウサギをどうにかしようと、ぼくは洋食屋で修行を始め、彼女は獣医学校に入った。 |
2nd Match /
水色の町
|
たらいの船で漕ぎ出した。湖面をのぞき込むと、水底におもちゃのような町並みが見えた。夕暮れどき、風の凪いだときにしか現れない町だ。 |
夜の青さをひとつひとつ消していくサービスエリアにバイクを停めて、僕は皮のグローブを外し、ポケットからコインを3枚取り出す。いつだってこの時のホットコーヒーは僕の手のひらと心にしっくりに馴染んで温かい。ヒマつぶしに缶に貼られた |
3rd Match /
夜を生む
|
シンナが充満するガード下の、壁に描かれたでかい拳に見下ろされ俺、この拳より小さい。誰かが描いてたのの上にでたらめな文字だか模様だかを一面に塗ったくってる。スプレからは夜の欠片が迸り、俺、人差指は痺れてる。何度も色を重ねる事にのめり込んでて、こんな事してどうなるのかなんて解らねえ。 |
あなたの涙が、黒く固い毛に覆われたわたしの背を、銀の針のようにか細く冷ややかに流れるので、わたしは醜い八本の足をいっそう早めた。 |
4th Match /
くちづけ
|
とにかく。彼女の口内を嬲り尽くす。 |
そこ。 |