500文字の心臓

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短さは蝶だ。短さは未来だ。

 性の起源 作者:596

アメリカは男の国。
 自分の生命や財産は自ら守らなければならないという気概が強く、
 銃の所持も許されている。そのことが男の国にした。
北朝鮮は男の国。
 金一派の強欲な利益を守るため国民総生産の半分を軍事に使い、
 国民を徹底的に洗脳し、テロ、偽札、麻薬、軍事技術を外国に輸出し、
 国ぐるみの犯罪大国として悪事を振りまいている。
 金日成一味があの国の政権を握ったことがあの国を悲劇に陥れた。
イラクは男の国。
 湾岸戦争のときサウジにまで侵略し、帰りにクウェートのほとんど
 の油田に火をつけ火の海とした。
 このままイラクを放置すれば油の道がフセインの意のままになる。
 サダム・フセインさえ居なければ荒々しい男の国にならずにすんだ。
日本は女の国。
 敗戦により無条件降伏。アメリカの占領統治下に、戦後の日本の仕
 組みが作られた。特に憲法第9条が日本を女の国にした。

日本は男になるか、アメリカに守ってもらわなければ生きてはいけない。
それとも世界連邦を創って、世界中が女になるかである。



 ゆらゆら 作者:庵

 I wish I were a bird ...
 みかんの中、収穫の秋のような女の子が右向け右に駆上り、海に向かって両手を拡げる。英語教室のCMだ。制服の後ろ姿をゆらゆら被害者の波は頬杖をついて見ていた。ふ。みかんを消す。そっと家を出た。目深にかぶった帽子が波の顔を隠してくれる。
 道の右手は右向け右で腰の高さに壁がある。3mほど下ると、波がゆらゆらされた砂浜だ。潜水艦にいる魚を想った。海風が吹き上げる。自分が潜水艦に居り、奄美の島歌に帰れないことを理解したときから、波は忘れることを覚えた。痛み悲しみと一緒に、思い出も心の奥のひき出しにしまい込んだ。それから24年、波は潜水艦に生きた。結婚、魚。それが波の現実。なのに今さら。
 連日みかんでゆらゆらについての意見が飛び交う。奄美の島歌じゅうが波や魚達のために怒り悲憤する。ありがたいことだ。だがとても恐ろしい。潜水艦は波たちを少なくとも人質として扱った。だが奄美の島歌は。彼らは生贄を欲している。ぶるり。体を震わせた。
 ♪うしろの正面だ〜あれ。
 波は見た。右向け右に駆上る自分の後ろ姿を、うなじに揺れる三つ編の髪を。あはははは。収穫の秋たちの笑い声が風に乗って通り過ぎ、泡のごとくに虚空に消えた。



 延長また延長 作者:はるな

 ふわふわの雲に乗る。ぽっかりと浮かぶ白いベッドに寝転がって、青くどこまでも広がる空を見る。そうやって空だけをながめていると、体の中にも空が入ってきて、心がほどけていく。今大人気の雲乗りは、半年先まで予約がびっしりはいっている。
 雲乗り場は、世界一空に近い展望台にあった。雲生成機からもくもくと出てきた人工の雲に仰向けに寝る。人間の体は重いので、取り出した心だけ雲に乗せる。時間はひとり三十分。
 僕が長い列に並んでいると、係員たちがざわつきだした。雲に乗っている男の人が、二回目の延長を言い出して戻ってこないらしい。
「その雲は時間がたつと消えてしまうんです。帰ってこれなくなりますよ」
 係員が、男の人の本体に話しかける。乗り場のそばにある簡易ベッドに横たわっている彼は、まるで死人のように無表情に目を閉じている。
 きっと、彼に戻る気はないんだろう。  頑張っても頑張っても終わりの見えない日常にうんざりしてしまって、雲と一緒に空に吸いこまれたかったんじゃないかな。



 踊る 作者:無亭猿馬

「チュチュ専門店ができるんだそうですウチの商店街に」
「ホウホウ」
「チュチュって何だかご存知か」
「金日成の」
「それはチュチェです。チュチュはバレエの衣裳のことですよ」
「スポーツ用品店ができると中学生が喜びますね」
「あなたバレーボールと勘違いしてないか。踊るほうのバレエです」
「お好きでらっしゃる」
「いや、私が好きとかそういうことではない」
ピチピチ
「お、白魚がきましたよ」



 サンダル 作者:596

恋のだるさや、やるせなさ
言えばたちまち夢破れ、言わねば何も得られずに

労のだるさや、わびしさや
汗水垂らして働けど、夢は離れていくばかり

生のだるさや、はかなさや
夕べには白骨の身となりて、散りゆく友をいと惜しく



 ことり 作者:空虹桜

 闇の中、耳元で空気が切り裂かれ、警部は小さく呻くとそちらを向いた。
「あっ、現れたな!」
「こ!コミカルで」
「と!トラブルで」
「り!リーズナブルな窃盗団」
『俺たちLB is Little Birdただいま参上!』
 ちなみに、コースケ・トシヒロ・リンコの頭文字を並べると「ことり」に
なると気づいたスチャダラパーファンのリンコが、他の二人の反対を押し切っ
てこの名に決めた。
「貴様らに“ブルーバード”は渡さんぞ!」
 ことり、と音がして闇に慣れた警部の視界を白い煙が埋めていく。
「んなこと言ったってなぁ?」
「じゃーん!白鳥警部。これ、な〜んだ?」
 微かに射す月明かりが、刹那、青い光を警部に見せた。
「いくらキャリア組でも、警部一人でこんな高価な代物の警備できるわけないじゃん」
「そこに展示されてんのがレプリカだってことぐらい、とっくの昔から知ってんだって」
「ってことで、本物はもう頂いてまーす。じゃーねぇー」
 白い煙の向こうで羽を広げた小鳥は、青い鳥とともに飛び立った。



 ロケット男爵 作者:大鴨居ひよこ

トロケツトロケツトロッケツ!ぐんぐん伸びるぞどバッバッバッバーン!
ケツトロケツトロケツトロローッ!壁を破ってズッパッパッパーン!
西ベルリンを解放だ!東独市民で占領だ!乗っ取れやっとれドッキュッキュッキューン!

パイプの口からロケットタバコーッ。真っ赤な真っ赤な煙がモモモモォォォォーン!
彼は行く!俺も行く!ドイツの大地をゴゴゴゴーッ!西へ西へとズドドドーン!
五月蝿い五月蝿いチョー五月蝿い。史上最強最強貴族!

赤いチャイカの男爵様だ。東独最後の一人!東欧一の真っ赤な貴族!
ゆけゆけ!幻の人!
ゆけゆけ!マルクスの使徒!

「ワタシが社会主義の守護神、ロケット男爵です」

ジャーン。(また来週!!)



 観察する少女 作者:大鴨居ひよこ

わかった。止まったら言うわね。

ところで昨日何を食べたんだっけ、ツナサラダ半分食べたところで気分が悪くなったから横浜に電話して「タスケテ」って言ったら「征露丸でも飲んで寝てろよ」って冷たくあしらわれてサ。「3.5.......3.5.......3.6.......アスパラガス、グリーン.....」プンスカ怒ってたらなんだか気分良くなっちゃったからマリエ誘って新小岩に出て「くり亭」でローストビーフを食べようかってことになったんだよね、確か。「3.4.......3.5.......3.3.......オレゴン。ライト」で、前菜に出たアスパラがムっちゃおいしくってさァ。「3.3.......3.3.......3.2........3.2......2.9......ウイスコンシンで停止。」でもマリエは、こないだあたしのブラを買いにいった時のコトがあるからね。いいの。これはこれで。ホント、あたしってヒトをよく観てるって言われるよね。あ、止まったよー。



 微亜熱帯 作者:白鳥ジン

 灼熱に併呑されようとしていた。荘厳から畏怖に移変する。物理的逃避が叶わぬのなら、せめて観念的逃避を。私たちはこの瞬間をその言葉で名状して心を閉じた。そして無になった。



 駄神 作者:峯岸

 帰神すると誰も居ない家は暗く、閑散とした空気は寒々しい。気侭な、鴎神とした生活を送っているのだから当神とはいえ、手探りで灯のswitchを捜すの程いやあな時間はないと思う。何気ない瞬間、ふと乎神してしまう自分に気付く事もある。これもなかなかに侘神しいものだ。
 家に入ると先ず台所へ向かい手を洗うのが慣神となっている。水に両手を浸しながら一日を反芻すると殆どの場合、憮神としてしまい、その気が静まるまでまで手を洗う。自分でも駄神だと思うものの止められないでいる。長い時は数時間にも及び水を流し続ける。
 コンビニで買って来た弁当を、最近は美味しいと思う様なって来、自分でも驚神する。妻に先神されてからもう十二年になる。それからは貯金と年金の与神で独り生きて来たのだ。女中を多く抱えた良家で育った彼は、男子厨房に入らず、そのままの家庭に育てられ料理が出来ない。炊事などは女がやるのが惟神だと思っているので、例え家に自分しか居なくとも自分で料理をしようと考えるだけでinferiority complexが刺激され、また老いから来る一神さにaccording toし、それを頑として許さない。一人暮らしには広すぎる一戸建から今のマンションへ遷神する際に殆どの料理道具は処分してしまってもいた。故に食事はコンビニなどで購神して来るか外神するかしかない。
 どうしてこうなんだろう。そう思うのは手を洗っている時だけだ。他の時には出来るだけそうしたsentimentalismを避神がってしまっている。彼は暈神とテレビを観て集中すると云う事がない。チャンネルはすぐ廻神してしまう。



 虹の翼 作者:庵

 資料番号182。日時は1962年6月20日14時12分。記録を開始します。

 ──君の名前と年齢は。
「シュテファン・ヨース、22歳」
 ──今日はジョナサン・クロフトについて訊きたいのだが、彼のことを覚えているかね。
「ジョニーだね。うん。最初はいけすかない奴だと思ったんだけど、シーザーをくれたから」
 ──シーザーとは。
「まっ赤な便所虫だよ。ここじゃトイレが徘徊するから、番犬がわりさ」
 ──ジョニーはどんな人間だった。
「固くてしみったれの便器を引きつれて毎晩号泣してた。なんてハッピーな奴だろうって僕も嬉しくて顔が潰れたトマトになった。だから“翼”を造るのを手伝ったんだ」
 ──彼からなにか聞かなかったか。
「月食は地球の影が月を覆う。だから“翼”も月に映る。……ええとそれから、重力が6分の1とか。あとは難しくて」
 ──その“翼”とはなんだね。
「蜘蛛の巣だよ。そいつを二股の枝のあいだにいっぱいグルグル巻き取っておしっこをかけると、七色の翼になるんだ」
 ──ジョニーはいなくなったね。
「悲しくて僕は未熟なトマトになってそれをシーザーがぺろぺろ嘗めるんだけども、そうじゃなくてジョニーは旨いカプチーノを飲みにいったんだ」
 ──月食の晩になにが起こった?
「……。楽しいこと」

 同日15時01分。記録終了。