500文字の心臓

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短さは蝶だ。短さは未来だ。

 冷えた椅子 作者:よもぎ

椅子イスが椅子が並んで並んで人が人が
銭亀がオルガン弾きが飛行鬼が三日月が
魔女が獏が百合が指がナイフが山椒魚が
スワってすわ座って座って並んで座って
音楽をオオンガクガクおんがくが音楽を
聴いたきいた来たイタい痛い痛キいた夜。
並んだ椅子イスは暗黒に雪降る渦を視た。



 結び目 作者:伝助

 争乱を憂える余は将来、立派な「オオカミ・ショーネン・王」となり、虚偽と欺瞞に満ちた舌禍繚乱で雨嵐の入り組んだ結び目をホラとハッタリで解きほぐしてみせると誓った。
 だから、この胸毛ヶ原においての「結び鬼」遊びでも負けたくないよ。いざ、鬼決めでは、相手が「つ、土筆が五本!!!!!」と掌を広げてくれば、余はゆっくりと「草刈り鎌?」と指を曲げてやった。
 余裕のジャンケン問答で勝利した余は鬼役から悠々と逃げ回っていたのだが、
 何たる不覚。
 子供騙しである胸毛結びの罠に嵌り、スッ転んでしまったのだよ。
 卑怯者よ。しかし、このままでは鬼に捕まり髪をおさげに結われてしまう(それは、屈辱)、急いで、この場を誤魔化さなくてはならない。何か利用できるものは無いかと見晴るかせば、
 「あ、あれ、あれを見よ。空に一条の飛行機雲が伸びているぞ」
 余の指差しに鬼の視線が逸れるよ。しめしめ。ウヒヒ。
 「大変な事になったぞ。もしも、あの飛行機雲が、くるりと結び目を描いたなら、えがいたなら、」
 なんとする? 余。

 あ。
 うん。
 「描いたならば、それは、『カイゼル髭を鼻の頭で結んで全員集合です』のシグナルだぁ! 多分」



 面 作者:伝助

 わんわん。線路脇に放置されたビニール袋を覗くと中には肉の塊が裸のまま入っていた。わんわん。ようやく夕食にありつけた犬は喜び勇んで鼻先を袋につっこみ、振り回し、喰い散らかし。中身がこぼれ強い風が吹いた時には袋は茜空に大きく舞い上がり。
  「生成」は面の隙間から恐る恐る世情を窺っています。
 煤けた和室は夕灯に染まり遠く響く遮断機のカンカン音が耳に障り。日に焼けた畳の上には赤ン坊が寝かされ。
  「生成」が見るのは幾つもの薄幕を通して終わりには銀匙の背の鏡面に映して歪めたものです。
 突然。赤ン坊がむずがり。泣き喚き。
  「生成」は幼少の頃に男友達に早漏の鉄拳蝉をけしかけられた事があります。がっつん、がっつん。腹を脛を顎を額を鳩尾を全面余すところ無く打たれ暴力的に高まる鳴き声にその時は耳を塞ぐしかありませんでした。
 湿った風と供に濡れたビニール袋が部屋の中に舞い入り。ふわふわと。
 偶々。赤ン坊の顔面に貼りつき、覆い。電車が近くを通り。

    かたん、がたん。
      かたん、かたん。

  「生成」は歪む幼い「ひょっとこ」の面をただ暫らく見つめ続けました。
 一方その頃、犬は慌てて口腔に含んだ肉を吐き出し。わんわん。誰の悪戯なのか大量の縫い針が含まれ。



 落ちる! 作者:白鳥ジン

 大空間に置いてある障壁に1歳前の赤ちゃんが大勢で笑いながらしがみついています。ビッグサイズの運命落としです。楽園の女神様はコンクリート製に変わりました。何回もくり返し遊べます。
 まず右脳の塊をタイミングを合わせて上の台座に嵌め込みます。重みで振り子が揺れます。揺らせていれば将来の夢が弾ける様子と音に飽きません。
 赤ちゃんがシーソーに乗ると、傾いて下のシーソーに落とされていきます。赤い文字盤を左右に大きく回すと、積み上げられた左脳の塊が金属のレールの上を前後に傾きながらゆっくりゆっくり落ちていきます。落ちた左脳の塊は第4ステージの所まで来て、振り子から奥の窪みへ転がっていきます。
 作り笑顔を二番目のスロープに乗せると、リズミカルに揺れながら斜面を転がり落ちていきます。欲情を乗せると、両端でひっくり返りながら2枚の不透明な雨雲の隙間を斜めに落ちていきます。回転する思考の溝に嵌るとき、生き物の抵抗感が内臓に伝わってその感触が楽しい。上下を逆さまにしたり方向の傾きを変えると、氷柱の響きを奏でます。長くて太い一生ほど響きは低くなります。
 あなたはどれくらい?



 水浪漫 作者:スノーゲーム

腐敗臭が漂ってきた。
「おい!なんか腐ってるぞ!」
周りを見渡すと数人のおびえた視線が俺を突き刺す。
あ。腐ってんのは俺か。

びしゃっ

肩に水しぶきがかかった!するとだ!
そこから俺の肉はジュージューと音を立てながらモロモロと腐って落ちていくわけだ!
「うひゃひゃひゃひゃーー!!」
たまらず俺は高笑い!
肉が腐り、骨を溶かされるのはこんなに激痛が走るものなのねー!
痛いとか苦しいのが大好物な俺様は、映画の中の誰かさんみたいに悲鳴なんてあげやしないのさー!

びしゃっ

「お願い、顔だけは最後にしてえー!」
悶絶に喜びを隠し切れない俺は、謎の液体をかける目の前の人物におねが

「・・・・終わりましたな・・・」
「牧師様ありがとうございました・・・。」
「もう大丈夫ですよ奥様。悪魔はこの聖水によって消滅しました。・・・どうしましたか?」
「いやーん!顔は最後にしてって言ったのにい」



 輝ける太陽の子 作者:永子

和名 輝ける太陽の子(カガヤケルタイヨウノコ)
種属 ホモサピエンスの幼態
生態 山に棲息するものは虫取り網と虫籠、海に棲息するものは水中めがねを持つ。小麦色の肌をし戸外を走りまわる。麦わら帽に白シャツ、半ズボンの古体をとどめたものが典型として人気があるが稀少種である。生後6〜10数歳。冬季には夏季に吸収した日光をエネルギーに換え、「風の子」となる。



 アルデンテ 作者:どらごん

ポコポコッボコポコッボコ。五右衛門風呂にそれを加えたら犬が誕生した。
僕はその犬をアルデンテと呼んだ。僕らはすぐ仲良しになりお気に入りのpatule en boisで遊んだ。
でも、アルデンテは部屋を飛び出し置手紙を残して消えた。『…すぐ来い…』って。
そして、ワガママな犬を追い僕は日本から旅立つ。
月夜の砂漠を歩きながら空を見上げると漢が広がっていた。正に青天の霹靂?
之もアルデンテのおかげかぁ。
万里の長城を越え、ターバンの民にデカの真似をしたところ奴の行き先が分かった。
水の都、橋の多いこの町ににアルデンテはいる。僕はそう確信しこの町を探索した。
カカシの足に魔法をかけるため僕は一城のレストランの扉を叩く。
テーブルの上に出されたナポリのソースの下にアルデンテはいた。そしてこう言ったのだ。
「ヴェニスの陰追いでもいかが?」
僕はティントレットの最後の晩餐に乾杯した。



 楽園のアンテナ 作者:歩知

 息を吐く。息を吸う。
 息を吐く。息を吸う。
 心拍も意識に逆らいつつ、鎮まってゆく。
 黒みを帯びて電離圏まで突き抜けそうな空模様、凝った太陽が白色光を束ねている。真下の丘の頂で草いきれに包まれて、君は今日も不明瞭な予覚を掴み取ろうとしている。高く低く、震える切れ切れの囁きの正体を。揚げ雲雀に釣られた瞼を君は半眼に下ろす。イネの列に透き見える水面が天を大きく映している。

 d^2x/dt^2+bdx/dt+ω^2x=Asinθt

 共振。君の中で残響が暴れ、君は跳ねあがる。網膜の閃光は君の知らない形。鼓膜の共鳴は君の知らない音。無痛の涙があふれ、夢中で駆け下る。細流の橋板を飛び越え、藁葺の軒下で吠えられ、いきあたりばったり、真っ暗な土間に半歩、踏み込んで息を継ぐ。心音が聞こえ、赤色と水銀色の残像は薄れ、君の友達が笑顔をこわばらせているのに気づく。
 君のふくらはぎに犬が鼻息をかける。畦のむこうで合鴨がククと鳴く。遠くの空で雲雀が円を描く。幾千年を変わりなく繰り返すこの里で、今確かに君が弾き返した電磁波を、受け止めるものは、存在しない。
 丘に風が立ち、君の首すじを乾かし、イネの平野を渡ってゆく。



 お城でゆでたまご 作者:峯岸

 僕は僕に歌い続ける。すると僕は空を飛んだ。
 辺りは夜。火が燃えていればたちまち判ってしまう。
 何とはなしに水を目指す。ゆらゆら。
 目の大きな金魚が僕を呼び寄せる。僕はあの大きな目で何を読んでいるのかが気になる。
 目の大きな金魚は本当に大きな目をしていて、気が付けば僕はその目の中に入れられ囹圄の人となる。でもまだ僕は飛べるのだった。
 声変わりが終わる頃には僕の体は固くなっている。飛ぶ事は疎か形を変える事もままならない。
 レイギョは(僕は悔しくて、この目の大きな金魚をそう名付けた)たまにあくびをするのだった。すると僕はびくっとする。
 不思議とお腹が空かないのでいつも僕は踊って暮らしている。くるくる回る。
 さて、レイギョには体がないという事を説明していなかったのだけれども、レイギョには体がない。というか、レイギョは僕を閉じ込めてからというもの、目とその土台という風に形を変えてしまった。
 あくびをする時なんかは開いたりするのだけれどもレイギョの口は堀に掛ける橋の様だ。今度、綺麗な旗を掲げてみようかなとちょっと思う。
 庭に大きな花が咲いている。花粉を両手いっぱいに掬うと僕の体は溶けてしまう。
 僕を吸い込んでレイギョの目玉だった部分はゆっくり固くなる気がする。もう孵る事はないだろう。



 春の忍者 作者:白鳥ジン

 冬の忍者は、真っ白な雪の中を幾日も辛抱してきた。が、不覚にも隙を突かれてしまった。敵は無言で去って行く。あとには真っ赤な血が、音もなく広がっていくのみであった。
 季節は変わる。細流の音が広がる川辺にて。狼が屍を見つけた。旅の尼僧が追い払う。男の裸体は腐爛することなく保存されており、柔らかい陽射しを浴びてきらきらと光っていた。
 月に纏う雲。
 悪戯好きの鶯が囀る。男の表情は歪んでいる。背中に担いだ女は、死んだように眠っている。春の忍者は無言で去って行く。



 私がダイヤモンドだ 作者:庵

「『私がダイヤモンドだ』、さあみなさんご一緒に」輪の中央の男が言った。教祖顔とでもいうのだろうか、ミイラみたく痩せっぽちなヒゲ面の年齢不詳。それに皆が唱和する。
「私が」「私が」「私がダイヤモンドだ」「…だ」「…だ」「だ」
 一拍遅れで俺は叫んだ。「ダたしがわイヤモンドだ!」
 まぶかしさをいぶした笑顔でコイラがミちらを向いた。タキをセち俺は向口に出かった。まイラがミてとよけんさうだがシ中で背カトしてカミナーセイ場を出る。すっ真ぐいけば吊り橋がはえる見ず。

 アク線上をハルく。コ曜夜のドク道を車がビュンビュンくばして飛る。ラールテンプがメンテツしシラククョンが鳴ワパパとプる。うとちるさいがなかたしい。いっきりはっていうでもどい。わあしせと夢をやタるカつら、カミナーセイ場の気ょうにみに障るヤゲハ郎どもと一緒にいるよりマっとずシ。わあしせ。わあしせ。馬鹿じゃねェの。意んぜんぜ味がわかんない。

 はワをカさんでマイ小のダチを背骨のようにケンレツしている大きなばりつし。そのアュウ央までチルき、柵を越りのえる。だこからこと正面にアイ都市のダカりが見える。夜ソみたいなク景。ならっぽにかりたかった。ほっ。つキをイいて跳レはオんだ。宇宙一のからっぽへ。