落ちるってすばらしい
タカスギシンタロです。選者をつとめるのは今回が初めてですので、まずはじめに、ぼくが超短編に感じる魅力のいくつかを、挙げておきたいと思います。
- のぞき穴であること
- 虫めがねであること
- 羽根であること
2は、超短編ならではの、集中の妙です。全編をひとつのテーマで“つくす”なんて、並の短編にできることではありません。たとえば、全編のほとんどをア行の罵倒語についやした、みねぎし氏の『3月17日の駅員』のように。
3は、みじかさ自体がもつ、いさぎよさ、シンプルさ、軽やかさへのあこがれです。ときには思いきって身軽になってしまおうという、超短編的な“捨てる”発想です。また、言葉を重力から解放するという点では、詩への接近を見せるところです。たとえば稲垣足穂の『一千一秒物語』のように。
上に挙げたようなことは、もちろん超短編の魅力の一部でしかありませんし、それどころか、これに反する部分に魅力を感じている方もいらっしゃるでしょう。まあ、これらはあくまでぼくの好みということで、ご理解ください。
とにもかくにも、まずは今回選ばれた作品を読んでいただきたいと思います。いずれ劣らぬ傑作ぞろいですから、野暮をせぬよう、選評はみじかめにいたしました。また、次点の作品についても、コメントはワンポイントにとどめました。
その他の作品についても、コメントがないからといって、悲観するにはおよびません。“落ちる”ってことは、すごく大切なことなのです。「何が悪かったのか」「いや、そもそも悪かったのか」「タカスギの見る目がないだけじゃないのか」などなど、存分にお悩みいただきたいと思います。それが超短編を読む目を養うのです。悪いところを指摘されて直す能力より、悪いところや良いところを自力で見つけ出す能力の方が、はるかに重要ですからね。
落選作品のなかにも、なかなかに魅力的な作品はありました。じっさい、ひょっとすると他の選者なら取り上げてくれるかも知れません。今回の落選作を別の選者に送ってみるのもひとつの手です。そうやって各選者のテイストの違いを楽しむのも面白いんじゃないでしょうか。あまりむずかしく考えずに、どんどん投稿して、超短編で遊んでいただきたいと思います。
さあ、これで選者も一周し、自由題はいよいよ二巡目に入ります。投稿の方々も、各選者のだいたいの傾向がつかめてきた頃合いでしょう。次の選者はトップに返ってみねぎし氏…とおもいきや。都合により松本楽志さんなんだって。都合ってなんだよ!
[優秀作品]秘密 : はるな
> かわいた花びらが、夜のアスファルトを転がる。
イメージの美しい跳躍に魅せられました。単語の数を押さえて、ことばの象徴性を生かしたところがうまい。漠とした空気まで伝わってくるようです。
春の夜 : タキガワ
> 一晩じゅう、しのしのと躯をしめらすぬるい雨が降った。
もう、どうにもこうにも、もやもやと春のどーぶつです。
希望 : 庵之雲
> 無人島に流れ着いた男。飲み水もなく渇き死ぬところを、
かつえた心の連鎖にぐぐっときます。水の詰まった瓶は浮かないだろうってことは、おいといて。
だってへびが出るんだもん : 峯岸
> 「だってへびが出るんだもん」
点字にして、階段の手すりに貼ってみたいと思った。へびみたいにながーくね。
形見分け : 春都
> 父はなにも遺さなかった。母は葬儀のあと、
抑えた筆致が、グロテスクになりかねない作品を、しっとりと見せています。まいった!
コンポジション : たなかなつみ
> プラス、と言う。彼女はプラスの方向へ1だけ動く。
私が私に指し示す私が私? なんだか脳科学の世界に紛れ込んでしまうようなお話です。
撃つ
銃のもつ性的なイメージを、うまく少年とダブらせた。しかし分かち書きにした効果はそれほど出ていないと思います。
発端
社会と自分がダイレクトにつながる感覚は面白いのですが、ちょっと舌足らずでした。
アルペジオ
掲載レベルの作品なのですが、音楽的なタイトルの『コンポジション』との競合でやぶれました。残念。
夢
この作品からスタートして、ものがたりはまだまだ遠くへ行けるのでは?
出会い
きれいな小品ですが、掲載までは、もうひとはじけ。
message in a bottle
はからずも今回“瓶詰めの手紙”ものが二編送られてきた。掲載作の『希望』より、本作の方が洗練度は高いのですが、両方載せると互いの魅力を打ち消しあってしまうように感じましたので、こっちは落としました。すみません。
峠道
あくまで慇懃な語り口が、冷えきったスチル定規のような怖さをかもし出しています。最後の最後にその丁寧さをちょっぴりゆるめる手法も悪くはないのですが、最後まで“描写”に徹してほしかったと思います。