物語の着地するところ
どこかから借りてきたような話よりも、今まで読んだことがないような話が読みたい。かといって物語の枠からはずれてしまうと、たぶんわたしでは追いつけないだろう。未熟者の選者で申し訳ないが、そんなわたしの閉じた目を開かせるような、新鮮な超短編に出会えるのが楽しみです。
もちろん、たなかの目からすり抜けた作品を、他の選者にぶつけるもよし。ひっかかりどころはたっぷりもうけてあるので、ゆっくりと自分の作品を磨いてください。
読んで楽しい。そして、書いて楽しい。そんな物語空間が、理想です。
今回はあえて優秀賞を選んでみました。わたしの想像の一歩先をずっと描き、けれども物語世界が飛んでいってしまわないでしっかりと丸まっている、繰り返し読むにつれ、おもしろさが増していった作品でした。
次回の選者は、超短編のなかでも短さをことのほか愛でる、タカスギシンタロさんです。
[優秀作品]星になる : 峯岸
> 切りかけていた木に祖母が話しかけると木は女になる。
薬を探す話なのですね。最後まで、わたしの想像する話のひとつ先を行く感じで、おもしろく読めた。最後の「木」と、「女」の「木」とは、別のものなのかしらと、そんなことを考えたり。
ES : 三澤未来
> 「たまご……」
「「Egg Syndrome」の頭文字を取って「ES」」なんてしゃれている。結末も、なんだろうと首を傾げさせられてよかった。
ギロチン : 峯岸
> 手足を縛られ横に寝かされた人間を殺すだけのスポーツ。
辞書的叙述で、「断頭」を物語にした。「斧の敗北」を取り扱うあたり、うまく読まされた。
うみのたね : はるな
> ひきだしが海になっていた。
引き出しからじわじわと広がっていく海の様子に、引き込まれる。海のもつ美しさと怖さがうまく描き出されている。
ぽこぺん : 庵之雲
> 好きな娘ができた。すんごい片思い。
最後の2行が要らないかなぁとも思ったが、「ぽこぺん!」の奇妙なおもしろさにこらえきれなかった。「おもちゃ」って言われちゃっているし、楽しいよ。
カレンダーの五十三枚目をめくった日のこと
イメージのうえに成り立っていたものが、「理解」を経て、リアルなものとして現出する様子が、おもしろい。でもわたしにはタイトルの意味がよくわからなかった。2月23日って何の日? え? 日が違う?
処女の月
月の処女喪失? 少年のわくわくする気分を描いておもしろいのだが、まんまですやん、という気もする。
立夏
ありえない話を描きつつ、まず「となりの席の坂崎くん」のことを考えてしまったり、二日休んでから学校へ行ったり、微妙にほんものっぽいところがおもしろい。
水の星
後ろから2行目の飛び具合をどう読むか迷ったのだが、遠すぎるかなという気がして掲載にはいたらず。水のイメージはいい。