500文字の心臓

トップ > 自由題競作 > 選考結果 > 第08回:タカスギシンタロ選


短さは蝶だ。短さは未来だ。

超短編であそぼう

  今回の応募作品を読んで感じたことは、みなさんの作品は、たいへん真面目だということ。悪いことではないのですが、ちょっとカタイ気がします。なんたって超短編は軽やかさがウリですから、すこし気楽に考えてみてはどうでしょう。もっと遊んでもいいと思うのです。
 というわけで、気分転換の意味をこめて、今回は超短編の“遊び”をご紹介しましょう。



朗読
 超短編と朗読は相性がいい。耳から入るものがたりというのも、なかなか新鮮でおもしろいものです。自由題選者をふくむ超短編コミュニティーの面々は、今までいろんなところで朗読してきました。あるときは上野文化会館の録音室で、あるときは江古田の喫茶店で、あるときは心斎橋のギャラリーで、あるときは江古田のフリースペースで。朗読というと大げさに考える人も多いかも知れませんが、まずは二、三人あつまって、カラオケボックスで朗読してみてはいかがでしょう。べつにうまくなくたって、作者自身による朗読というのは、味があってぼくは好きです。



アート
 超短編は変幻自在な文学だから、あれこれと変身が可能です。やまなかしほさんは自作の超短編を張り込んだ「ランタン」を制作しましたし、たなかなつみさんの『シベリアの猫』を題材にしたアートブックもみごとでした。もちろん、イラストや写真とのコラボレーションも容易です。ひまわりさんのピアノと本間祐氏の朗読なんていうのも印象に残っています。

シベリアの猫



いたずら
 上野動物園に「イソップ橋」という橋があります。この橋の手すりに、ウサギと亀の寓話にちなんだ超短編を数編、点字にして貼りつけたことがありました(もちろんこれは無許可の行為なので、ここだけのハナシ)。橋の手すりにものがたりが張りついているという不思議。そして視覚障害者にしかこの物語が読めないという超限定性! なかなかひねくれたいたずらでしょ? イソップ橋の手すりは改修されて、今ではなんの痕跡も残っていないのが残念です。なお、この企画は、坂部明浩氏の「天の尺」プロジェクトを超短編的に展開したものです。
手すり点字



おみくじ
 超短編は短いからスペースを取りません。そこで、マッチ箱の中に超短編をひそませて、おみくじに仕立ててみました。このおみくじは、2003年8月25日から9月5日までのあいだ、東京の中目黒のアート・バードという本屋さんで行われる「超短編マッチ箱---世界一短いものがたり」という展示会にて、販売いたします(1個50円)。上記のランタンやアートブックもあわせて展示いたしますので、お近くの方は、どうぞお越しください。(日曜は休みの場合が多いらしいので要注意)
おみくじ




 以上、超短編の遊びをいくつかご紹介しました。どうぞみなさんも超短編の短さを生かした遊びを、あれこれ開発してみてください。そうそう、ぼくの名刺の裏には、超短編が載っています。こんなことできるのも超短編なればこそ、なのです。
タカスギ名刺


選者:タカスギシンタロ 



掲載作品への評

ローズティー : よもぎ

>  (おかえりなさい)出張から戻った私を迎えた妻の口からピンクの薔薇が

 コトバと花びらとナミダと記憶。すべてがこぼれ落ちながら純化されていくイメージが美しい。



天体肺活量 : 庵之雲

>  右腕が痒くて目覚めると、バンドエイドが貼ってある。

 自分が自分の中に消えていくふしぎ。月と自分が分かちがたいものであることのふしぎ。をちこち(遠近)をあざやかに入れ替える手腕がみごとです。



記憶 : 佐藤あんじゅ

>  耳元で雑言を吐く声が聞こえる。やめてくれ、と口に出して言う。

 記憶の気まぐれを“耳”に焦点を絞って描き、成功した。ラストの抑制の効いたユーモアも、いい感じ。



我慢できない流れのまえに我慢することだけが取り柄の男がいること : たなかなつみ

>  形を変えながら流れている黒い塊は、妙に冷たい流れを

 タカハシという固有名詞が、連呼されることによって、しだいにその意味をあいまい化させていくところがおもしろい。



ふたまた : 峯岸

>  あなたの前にもう一人のあなたが現れる。

 あのう。この作品、「おみくじ超短編」への投稿と間違ってるんじゃないですか? おみくじの方で採用としたいので、ご連絡ください。



儀式 : タキガワ

>  2本、揃えてたてた線香の煙がほそく立ちのぼる。

 さりげない言葉も良く選ばれていて、完成度の高い作品です。



掲載されていない作品への評

やさしい

 全体にただよう麻痺の感覚が、ラストのイメージを衝撃的に引き立てています。



ノイズ散らし

 出だしの2行が印象的な作品。バットでつぎつぎ打ち返す感覚が気持ち良いのですが、名詞の連打がやや空回りだったかも。



蚊蚊痒痒

 面白いなあ、この作品。掲載しようかとも思ったのですが、ちょっぴりもの足りない気もして…。隔靴掻痒。



金魚すくい

 夏にぴったりの日本的ホラー作品。ものがたりをつなぐ金魚が、作品全体をゆらゆらと揺らめかせています。



ヘンゼルよ、グレーテルよ。

 おしい。タイトルにヘンゼルとグレーテルを出す必要はなかった。タイトルを変えれば掲載です。