500文字の心臓

トップ > 自由題競作 > 作品一覧 > 第21回:峯岸選


短さは蝶だ。短さは未来だ。

輾転反側 作者:スナフキン

僕がころころと転がると、隣の男も転がってきた。
邪魔だな、と押してやると、邪魔をするなと怒られる。
頭にきて男に背をむけると、どすんとぶつかってくる。
まさに輾転反側。すっかり眠れなくなる。
何をしてるんだっ、と怒鳴りつけたら、星を見ているなどと宣ふ。
ほうき星を探してるらしい。



恋の願い 作者:瀬川潮

 星空をかすめ、流れ星きらり。
 男、「あ!」。
 女、「……うん」。
 座る二人、ただ寄り添うのみ。
 二人の手にはいつの間にか、ソーダ。
 グラスひとつに、ストローふたつ。
 交差させ、見つめあい、ちゅう。
 氷、カラリ。泡立つ炭酸の中、流れ星きらり。
 男、「あ!」。
 女、「……うん」。
 寄り添う二人、覗き込む。
 額をぶつけ、微笑んで、ちゅう。
 目を開ける。ホタルが一斉に空高く舞った。
 かなた夜空に、流れ星きらり……。



銀河鉄道 作者:春名トモコ

 恋人の部屋のベランダで、夜に沈んだ街を眺めていた。ドミノのように並んだ市営住宅。駅に向かって伸びている商店街のアーケード。住宅街の信号は黄色でゆっくり点滅している。
 大きな動きのない景色の中、寝静まった街を切り裂くように、光の窓だけ浮かび上がった電車が走っていった。規則正しく並んだ四角い光の連なり。
 駅を通り過ぎて、電車の先頭がふっと浮いた。そのまま夜空へ、まっすぐのぼっていく。中天に浮かぶ満月に向かって電車は走り、とうとう見えなくなった。
「ねえ、いま電車が」
 室内でテレビを見ている恋人に急いで話すと、年上の彼女は興奮している僕を不思議そうに見て言った。
「最終のあとの回送電車は、月へ行くものでしょう。じゃないと駅員さんが帰れないじゃない」
「……そうなの?」
 僕は窓から見える月をもう一度見上げる。
 恋人は相変わらずテレビを見つづけている。