捩じれ細工の子供たち 作者:wizard
僕たちは妊娠した。その膨れた腹を突き出した格好は屈みに映し出されて、歪み捩じれた世間と葛藤していかねばならないと考えた。
奇妙なメダルを首から避けた子男がこちらを義眼で覗いてる。それは水晶で、視床下部の大宇宙の幻覚らしい。
それがプラネタリウムのように妊娠して縦隊に並ぶ僕たちにかかった。そして光は僕を包む。
「異形ポルノ」僕は呟いた。それを視床下部の裏で覗こう。僕は紙芝居の絵本のような世界に生きたいと思った。
そして笑ってみた。これはいけるよ。
僕は紙芝居で作られた黄金バットとダンスを踊ろう。そしてその紙で出来た黄金の髑髏の中に垂れ流す綿菓子の天国へと駆けよう。白馬のように。
白馬になった僕たちの胎内の胎児である僕の元が地面に出産されそれがやがて肥大していって僕たちは将棋の国へ倒れていった。
森の舌 作者:雪雪
蜜を隠す森は収穫を忌避して後退し、霧に没する。焦燥を唸るセスナが三機、さくさくさくと霧に突き刺さる。森が吐き残した荒い息のなごりが運命論の香を漂わせる。霧と混じリ合うところでは森の息も我を忘れて、呆然から倦怠へと匂いを移調するが言うまでもなく森の本心ではない。虫も鳥も獣も呼び交わすが、ふさわしい歌を持ち合わせない。
危機は進化の呼び水となる。およそ穏やかだった森も、みずからの才能に気付きはじめ、それに応じ森に属するものの序列が変わる。いくつかの種が理由も知らぬままに滅び、ニッチが編集され境界が刷新される。目紛しく茸が点滅する。
季節が七たび変わる頃、森は静穏を取り戻し、白衣と紫衣の兄妹がひさびさに散策に訪れる。兄はなんだか気持ち悪くなり切り株に腰掛ける。妹は以前より森が好きでひとり奥へ奥へ歌を口遊みながら進む。
傾いた陽射しのなかを妹は、無言で兄のもとへ帰ってくる。うつらうつらしている兄の前に立ち止まる。
「・・・・・れた」ふと顔を上げた兄は、醒めてゆく途上だったが妹の声の余韻で覚醒する。半睡の耳で聞き逃しかけた言葉を、反芻する。
妹の息。蒼ざめた水のにおい。(うたをとられた)