1st Match / 泥棒市場 |
老女はざばりと黒いものを引き出した。真っ暗な甕がしばし波打つ。 |
だからそうそうそういうこった |
2nd Match / 庭園の美 |
「よし。次は女、館の方角へ20歩」 |
この世で一番美しいとたたえられたフラクタル王の庭園は今は見る影もなく荒れ果てていた。 |
3rd Match / 知らないふりもできない |
だって放っとけないよ。君はずっと辛そうにしてて、僕にできる事があれば力になりたいと思ってたんだから。 |
「気をつけなさい。」 |
4th Match / 信念のパズル |
男は言った。「愛されるより愛するべきさ」 |
変な爺さんに会った。歩道際のベンチに座ったまま、俺に紙切れを |
5th Match / じゃがいも祭り |
カラリと晴れた十月の朝のことだっぺ。物干に大ぎな袋を吊るしでいると向かいのじじちゃが頭の上さバケツば縛りつけて出てきたんだず。 |
「4年に一度行われる馬鈴薯の祭典、国際馬鈴薯競技大会。通称『ジャガリンピック』も今大会で10回目を迎えました。記念大会である今大会は、所縁の深いジャカルタやアンデスからも選手団を招き、史上最多36の国と地域から24種の馬鈴薯が美瑛の丘にそびえる『馬鈴城』特、おおっ! 大歓声です。ご覧下さい。バターです。醤油です。バター醤油です! バター醤油をまとって地元富良野・美瑛の『男爵』が入場です! この匂いをお届けできないのが誠に残念です。本当に、本当に美味しそうです!! |
6th Match / 腐りゆく |
空が落ちてくる。蒼い、灰色の、薄汚れた水色の、空のかたまりが、ぼとりぼとりと落ちてくる。外出禁止令が出た街なかには、人影がない。粘菌質の空に半分しずんだ街を、長靴を履いてぐちゃりぐちゃりと歩いていく。 |
奥の方は、さらに奇妙な様相を呈していた。 |
7th Match / 透明な図書館 |
正しい名前を知らないので、私は彼のことを図書館司書とだけ呼んできた。それが彼の仕事だったし、清潔な符号には逆にエロチックな含みさえ覚えた。貸出しカードを扱う指が愛くるしくて毎日通った。 |
聞こえてくるのは木々のざわめきと小鳥のさえずり。木漏れ日のさしこむこの道をまっすぐ進んだところに、その図書館はあるはずだった。 |
8th Match / シュガー・マジック |
ノースリーブワンピースから伸びた長くて白い腕が自慢なの。 |
長い旅から帰ってくると、庭の甘夏の木のもとに、思わぬものが出現していた。大理石の原石が隆起したかのような、白い三角形の巨大建造物。庭先で遊ぶ鳥たちに訊いて、ようやく正体を知った。まっくろに日焼けした働き者たちが家に忍びこみ、おびただしい数の角砂糖を運んで積み上げ、女王の陵墓を築いたというのだ。 |
9th Match / 竹林の目 |
今夜は満月なので小鬼は河原で石を拾います。 |
私に誘われるままに乗った列車は、やがてひび割れたアナウンスとともに終着駅に辿り着いた。お気を付けなさいという運転手の声も溶けてしまうほどの濃厚な夜に降り立った私を迎えたのは見渡す限りの竹林で、相変わらず私は私に導かれるままに奥へと歩き出す。一歩進むと後ろから誰かに見られているような視線を感じ、首にはちくりと刺されたような痛みを伴って小さな穴が空く。私は私が振り向くことを許さないので、視線に射抜かれたままでいたのだが、歩むほどに視線は数を増して私に空く穴の数も増えていき、穴だらけの私はついに頭と身体が離れてしまう。ごろん。転がっている首から上の私を、竹が節目という節目を開いて見ている。空洞のはずの節目ごとに目玉がぎょろりと浮かんで、幾十、幾百、幾千の目玉がただひとりの私を見ている。私は穴だらけになりながら最後まで残された瞼を閉じる。 |
10th Match / ヴァリゾープ |
ピンポーン。台所で皿洗いをしていた彼女はスリッパの音をたて、エプロンで手を拭きながら玄関に向かう。宅急便です。判子ください。はい、ご苦労様。何かしら、あけてびっくりガラス板。一辺1メートル幅1センチの透明の。あら、でもうちのガラスは割れていないのに。差出人の名前を見て |
ヴァリゾープさせた。 |