500文字の心臓

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短さは蝶だ。短さは未来だ。

 忘れられた言葉  作者:深夜真世

 朝、遅刻して出社したら全員死んでいた。
 課長も経理も常務も社長も。男性だろうが女性だろうが関係なく。
 そして全員、倒れた床などの上に「思い出せない」の一言を遺していた。ボールペンやホワイトボードマーカーやケータイのメモ機能で。
 はて、一体何があったのか。
 みな外傷はなく、それでいて誰もが呼びかけにこたえず脈もなく。遅刻したときには例外なく怒鳴られるのにそれもないのでくたばっているのだけは間違いない。
「こんちは。今日は出荷、ないすか?」
 そこに宅配業者の兄ィちゃんがやってきた。
「ああ。たまに会社単位で死んでるトコ、あるっすね。何か思い出せないらしいんすよ」
 事情を説明するとレアケースながら普通にあることらしい。だから兄ィちゃんは警察と消防に電話して、その後はごく普通に事態が推移。警察からの聴取は「遅刻して出社したらこのありさま」の一言で解放された。
「貴方はきっと、何かを忘れてないから助かったんだと思いますよ」
 気に病んでると消防職員からそう励まされた。
 最後の目礼が「だから死なないように」に聞こえた気がする。
 しかし。
 俺はいったい、何を忘れてないのだろうか?



 ハンギングチェア 作者:磯村咲

 この座り心地のよさでこの価格、買っちゃおうかなと滑らかな曲面に体を預けて揺ら揺らしていて、視界の端っこに常に浮かんでいる糸くずのようなものに気付く。選択してズームすると「重力は別売りです。」の文字列である。まあ、地球で使う分には問題ないか。



 ツナ缶 作者:miyuu2

「母さん、スーパーで福袋を買ってきたよ」
「そういえば、今日は初売りの日だったわね。今年もレアな缶詰、入っているかしら」
僕は、テーブルの上に福袋を置き開けた。
「お、干支にちなんで猪肉、鯨肉、アザラシ肉、最後に餅1キロ入り。あ、まだ入っていた。え、ツナ缶、軽いな」
僕は耳元で振ってみたが、音がしない。何も入っていないみたいだ。
 夕方になり、ツナ缶を開けてみた。
「母さん、これ見て。大当りって書いてあるよ」
「何、これ。面白いわね。何が大当りなのかしら」
僕は笑いながら、部屋に置きに行った。
 次の日の朝、僕は布団の中で初夢を思い出していた。
マグロが目の前に泳いできて、1つだけ願い事を叶えてやろうと、横柄に言ってきた。僕は異世界で冒険者となり、スキルを積んで将来は美味しい料理を出すレストランを開き、傷ついた冒険者達を癒したいと答えた。マグロは、請けたまわったと言って優雅に泳いで消えた。
 起きて昨日のツナ缶を手の平に置いてみると、蓋がパカッと開き小さなマグロが浮かんでいた。そのマグロがツナ缶の使い方を話し、僕は今、異世界に立っている。