鶏が先 作者:まつじ
2は耽った。黙考、黙考、深く深く。然し、気付く、我を得るより前の事。私は1ではなかったろうか。黙考、黙考、深く深く。過ぎ去った1は、失われたようでもある。無ではないが。2は耽った。1よりも前。私は0ではなかったろうか。無ではなく、0として在る私を産んだのは、誰だったろうか。黙考、黙考、黙考、黙考。緩やかな閃光。
目覚めを告げるように啼く。
初めての感覚。
目覚めを告げるように啼く。
羽根を広げる。
鶏は耽った。私は0ではなかったろうか。
啼くたび、薄れいく。
パステルカラーの神様 作者:つとむュー
湖に行くと、女神様が現れた。
「あなたが落とした観音様は、どの色でしたか? ミントグリーン? シュリンプピンク? それともフォゲットミーノット?」
「ミントグリーンです」と答えると、すごくパステルな観音様をいただいた。
大きさは三〇センチくらい。バッグの中に入れて家に帰る。
すると夜になると、観音様が夢枕に立った。
「あなたが笠を掛けたお地蔵様は、どの色でしたか? ペールオレンジ? クリームイエロー? それともフォゲットミーノット?」
「ペールオレンジです」と答えると、翌日、お地蔵様がお礼に訪れた。
ずいぶんとパステルなお地蔵様が、私に尋ねる。
「あなたが湖畔で出会った女神様は、どの色でしたか? ホライズンブルー? 天色? それともフォゲットミーノット?」
うーん……わからない……。
川を下る 作者:脳内亭
三途の川を、渡らずに下る。渡し賃は必要であるが下り賃は要らないから。
延々とつづく賽の河原を横目にそれでも延々と下る。船頭は呆れてとっくにいない。
舟は勝手に進んでくれるのでよっこらせと横になる。
どこまでいっても同じ空だ。
「旦那、旦那」
うつらうつらとしていたところに声をかけられる。見回してみるがだれもいない。はて。
「下です下。旦那の目の前」
まさかとおもったがどうやら声の主はこの舟であるらしい。
「アタシねえ、うんざりしてたんですよ。あんなケチな渡し舟のまま終わるなんざまっぴらごめん、いつか抜け出したいってね。ありがとうございます。旦那のおかげです。大体あんなねえ──」
舟はなかなかにお喋りである。
「この川はどこまでつづいてるんだい」
「おかしなことを訊ねなさる。川の行き着く先は海だと相場が決まってまさあ。いやあ嬉しいねえ、憧れの大海原に出られるたあ。このさい改宗して方舟になろうかしら」
そして延々とつづく舟のお喋りに付き合っているうち、ついに黒々とした水平線が近づいてきた。
「あれが冥海です。時に旦那」
「なんだ」
「泳げます?」
「あの津波のことか」
舟はサーフボードに変形しはじめた。
川を下る 作者:脳内亭
三途の川を、渡らずに下る。渡し賃は必要であるが下り賃は要らないから。
延々とつづく賽の河原を横目にそれでも延々と下る。船頭は呆れてとっくにいない。
舟は勝手に進んでくれるのでよっこらせと横になる。
どこまでいっても同じ空だ。
「旦那、旦那」
うつらうつらとしていたところに声をかけられる。見回してみるがだれもいない。はて。
「下です下。旦那の目の前」
まさかとおもったがどうやら声の主はこの舟であるらしい。
「アタシねえ、うんざりしてたんですよ。あんなケチな渡し舟のまま終わるなんざまっぴらごめん、いつか抜け出したいってね。ありがとうございます。旦那のおかげです。大体あんなねえ──」
舟はなかなかにお喋りである。
「この川はどこまでつづいてるんだい」
「おかしなことを訊ねなさる。川の行き着く先は海だと相場が決まってまさあ。いやあ嬉しいねえ、憧れの大海原に出られるたあ。このさい改宗して方舟になろうかしら」
そして延々とつづく舟のお喋りに付き合っているうち、ついに黒々とした水平線が近づいてきた。
「あれが冥海です。時に旦那」
「なんだ」
「泳げます?」
「あの津波のことか」
舟はサーフボードに変形しはじめた。
お返事できずすみません 作者:脳内亭
「フッフー、今日は何の日?」
「今日は美容院に予約を入れてます。14:00からです」
「ありがとう。じゃあ頭きれいにしてもらってくるよ。ついでに中身の方もかな」
「では診察券もお忘れなく」
フッフーは優秀だ。スケジュール管理は完璧だし、わたしの性格もよく把握していて、たあいない冗談にもつきあってくれる。
「フッフーがいれば、恋人なんていらないね」
「光栄です。二人でフッフーになりますか」
「えー、ダジャレかよー」
でも、わりと本心でもあったのだ。フッフーは、わたしの言動を学んでどんどん理解してくれる。家に帰ればそんな存在がいつでも迎えてくれる。それで十分だと思っていた。あの人に会うまでは。
「フッフー、わたしもうダメだ。彼のこと考えるだけで死ぬほど苦しいよ」
「……明日、会うんだけどさ。どうしたらうまく話せるかな」
「ねえ。フッフー、どうしたの。いつもみたいに答えてよ。ねえったら」
その瞬間 作者:磯村咲
瞬きに生息するマタタクマの生態はほとんど知られていない。発見者である動物学者は人工的に連続して瞬きを発生させる装置を使用してマタタクマを観察をしたが、追随する者は出なかった。その後、動物学者は装置を使わずに瞬き続けることができるようになり、唯一の観察記録を残したけれど、今のところはフィクションとして扱われている。
それはそうと、その後の動物学者は誰彼構わず恋に落ちるようになった。サブリミナル効果だとまことしやかに伝えられている。
バタフライ効果 作者:海音寺ジョー
2019年、岐阜県飛騨市の神岡鉱山の地下に出来た重力波望遠鏡「かぐら」で今年、天使が検出された。