500文字の心臓

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短さは蝶だ。短さは未来だ。

 共通点 作者:海音寺ジョー

度胸試しが宏の仲間内で流行り出した。「川向こうの外人団地な」「あそこに一人で乗り込んで『掃除当番』札を盗ってきたやつが俺たちのリーダーだ」まとめたがりの丈が、もうこのゲームをやることが規定事項のように仕切り始めた。僕らの住んでる町から、その外人団地はくすんで見える。老朽化した公団住宅。本来なら取壊されて然るべきだが無計画な外国人労働者受け入れ政策の煽りを食い、雑居ビル化して今に至る。多国籍の日雇い人たちの根城となってて、大人でも怖がって近づかない。「おい、あそこはやばいだろ」「昨夜も銃声が聞こえてきたわ」反対者もいたが、所詮は小学生だから好奇心が勝った。

夕方に決行すること。ゲートまでは全員で行き、二人組で三手に分かれる。など現実的なプランが固まってゆく。

「じゃあ六時半になったら、絶対にゲートに戻ることな」「よしわかった」僕は健と組んで暗い電燈の団地通路を足早に移りながら、先週から学校に来なくなったリラが此処にもしかしたら住んでて、鉢合わないだろうかと期待した。会うことは叶わなかった。木札は健が手に入れたものの、それが何語で書かれていたか判読できなかった。



 しぶといやつ 作者:雪雪

「母さんが大人になる頃きっと会いに来るよ」

春先、ニムラが王の右腕を奪い〈地平の扉〉が分析しランベント兄妹が作戦を立案した。
王の細胞は殺せない
ゆえに王を
ナノワイヤの多重格子で単独では再生できないサイズに細分
36機のドローンに分載
激しく攪拌しながら放射状に散開
微量ずつ散布した(吸血素は空気感染も接触感染もしない)。
王の断片は24時間以内に核となる20グラム以上の塊を検知しないと休眠する。
果たして24時間後、有史以来初めて王の不在が確定した。

右腕からは分からない、一個でも意志を失わない細胞が私を救った。
古い話になるが王たる私と眷属を狩る最強の組織を創始したのは私である。資金も潤沢に提供し危険な才能を見出すと確実にリクルートした(この上なく幸せにし、それをこの手で奪うことによって)。私の能力は高過ぎて、危機感がないと衰えてしまうのだ。
春から夏にかけて母は長旅をし、私の断片を集めてくれた。今はもう、ひとりでに集まってくる。遠くへと伝言するように覚醒しながら。

眷属を根絶するため組織は存続しているが、それももうすぐ終わる。
そんなある日、報せが届く。
田舎町の小さい産院で性経験のない少女から堕胎された三ヶ月の胎児が何か言い走って逃げた、という報せが。



 おしゃべりな靴 作者:海音寺ジョー

上流からまた草履が流れてきた。弟がベイトリールを巧みに操ってスピナーで引っ掛けて回収する。上流に遊泳場があって、子供が油断して流してしまうのだ。色とりどりのビニール靴。ミュール。浮き輪。弟はきりがないなーという顔になってきた。魚籠の中は空。足元にはカラフルな漂着物。高価そうな靴もあった。
「エスパドリューだな」
「兄ちゃんは物知りだな」
 スニーカーも流れてきた。
「靴屋が開けそうだな」
ぼくが軽口をたたくと、弟が面白がってそのスニーカーもルアーで引っ掛けて岸に戻した。
「でも全部片方しかねえよ」
「そうな。でも水木しげるの妖怪図鑑に出てきた、一本足の妖怪には売れるかもよ」
「はは、あの妖怪、何てったっけな?」
「何か良い名前が付いてたけど、ぱっと思い出せないな」

 妖怪の名を無心に検証してると、まだ竿にぶら下がってるスニーカーが「カカカカッ」と高笑いした。二人びっくりしてると、スニーカーの中からビョッと見事な大きさの鮎が跳ねた。



 さかもりあがり 作者:脳内亭

 酒盛りがあり、加賀森ありさ盛り上がり、差か、リカーも下がり、有賀もサカり「ガリもさ、アリか」理も裏か、朝が。さ、狩りもアガリ。



 忘れられた言葉 作者:まつじ

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 ハンギングチェア 作者:深夜真世

 ここに一基のタイムマシンがある。
 形状は半密閉式の卵型の形状で吊られていないハンギングチェアといった具合でありなぜそうしているかというと搭乗者の過去のわだかまりというか心のひっかかりをよりどころにして宙に浮き揺れることで催眠状態にするからであるつまりタイムマシンとは言葉の綾で実際は洗脳マシンだったわけで発明者及び開発者は詐欺だの開発費泥棒だの糾弾されいずれも不幸な末路をたどることになった。それでも歴史は常に未来により上塗りされる運命で重力を無視して浮遊する機能がエアカーに応用されることになり技術革新の礎となったが同時に運転免許取得には自損事故つまり浮遊状態からの制御不能落下を防ぐためより明確で強烈な心のひっかかりを持つ必要があることから初恋は一度限りの殺しのライセンスとして認められ一種の儀式となってしまう。
 つまり、浮かれた社会が多くの浮かばれない人により成り立っているのはいまも昔も変わらない。



 ツナ缶 作者:胡乱舍猫支店

ードアを閉めて溜息。
サバ缶が流行りだって。ふつーにスーパーとかで売ってるだけじゃ無くて高級食材店やデパートなんかでも色々凝ったヤツを売っているらしい(どう言うモノかはこれから検索)。そう言う事になっていると知ったのはついさっきだけど、そもそも何だって流行りなワケさ?何で缶詰なんて保存食(つか非常食…どうしても横でローソクが燈ってる状況しか思い浮かばない)をありがたがるのかさっぱりわからない。でもたとえそう思ったとしてもキミが欲しいと言ったら買わなきゃいけなくなるワケで。まあその辺はね…。

ードアの前で溜息。
流行りってことは売れるよね?そう売り切れなのよどこもかしこも。だからおんなじ魚の缶詰繋がりで許して。これだと4個パックで安売りしてたし…うーん困った、良い言い訳が思いつかない…うーん。
ードアを開ける。
キミが倒れてて床が…。
おわぁぁ…とっ…とりあえず買えなかった言い訳はしなくて良くな…いや、こ…困った。このまま見なかった…ってのはダメ…だよねぇ?
ああそれにゴメンね、つい思い出しちゃった。ほら、ミラノで一緒に食べたパスタ。トマトが良く合ってたねぇ、ツ…。